DPI・PPI・LPIの違いを徹底解説|印刷・ディスプレイ・ウェブでの使い分けと実務計算ガイド

概要

「dpi(ディーピーアイ)」は、ITや印刷の現場で頻繁に使われる用語ですが、意味があいまいに使われることが多く、特に「画面」と「印刷」を混同して誤解が生じやすい言葉です。本コラムでは、dpiの正確な定義、ppiやlpiとの違い、印刷・スキャン・ディスプレイでの扱い方、現場での実務的な計算や注意点まで、できるだけ詳しく丁寧に解説します。

dpiとは何か(定義と誤用)

dpi は「dots per inch(ドット・パー・インチ)」の略で、1インチ(約2.54cm)あたり何個の「ドット(点)」が置かれているかを示す単位です。元来はプリンターや出力機の物理的な解像度を表すための指標で、プリント機が1インチの長さに何個のインクドットを配置できるかを意味します。

しかし、日常では「dpi = 画像の解像度(画素密度)」と混同して使われることが多く、特にウェブ制作の場では「72dpi」や「96dpi」といった値が出てきて混乱を招きます。ここで重要なのは、プリンターのdpi(物理ドット密度)と、デジタル画像のppi(pixels per inch:ピクセル・パー・インチ)は異なる概念であるという点です。

ppi(ピクセル密度)とlpi(ラインスクリーン)との違い

  • PPI(pixels per inch):ディスプレイやデジタル画像の「ピクセル(素子)」の密度を示します。画像ファイルのピクセル数と印刷サイズから求められる「画像解像度」を表すのによく使われます。例:画像が1800×1200ピクセルで、印刷サイズが6×4インチなら横のppiは1800 ÷ 6 = 300ppi。
  • DPI(dots per inch):プリンターがインク滴を配置する「物理的なドット」の密度。インクジェットやレーザープリンタの性能表記に使われます(例:600dpi, 1200dpiなど)。
  • LPI(lines per inch / line screen):オフセット印刷などで使われるハーフトーンの網点(スクリーン線数)。印刷物における「網点の粗密」を表す値で、写真の階調再現に関わります。雑誌はおおむね150lpi前後、新聞は低め(約85〜100lpi)など。

関係性の実務的な目安としては、画像のppiは印刷で使うlpiの約1.5〜2倍程度が推奨されます。例えば雑誌印刷で150lpiなら、画像は225〜300ppi程度あると十分な再現性が期待できます。

印刷におけるDPIの意味と注意点

プリンターの仕様に書かれる「600dpi」「1440dpi」などは、プリンターが理論的に可能なドットの密度を示しますが、それがそのまま印刷品質に直結するわけではありません。理由は次のとおりです。

  • インクジェットではドット(インク滴)の大きさ(ピコリットル単位)や、ドットの重なり方、紙の吸い込みで見た目が変わる。
  • オフセットなどのプロセス印刷では網点(ハーフトーン)処理が行われ、プリンターの「物理dpi」よりも「ラインスクリーン(lpi)」が色再現に大きく影響する。
  • プリンタードライバーやソフトウェアの補間やプロファイル変換(カラー管理)が最終品質に影響する。

したがって、印刷時に重要なのは「画像ファイルのppi」と「印刷工程のlpi(およびプリンターの特性)」の両方を理解しておくことです。実務上の計算は次の式で行います。

必要ピクセル数(横) = 印刷横寸(インチ) × 必要ppi

例:300ppiで8インチ幅の写真を印刷する場合、必要横ピクセルは 8 × 300 = 2400ピクセル。

ディスプレイ上のdpi(ppi)とCSS・ブラウザの扱い

ディスプレイでは「dpi」という単語がしばしば使われますが、正確にはディスプレイの「ピクセル密度」はppi(pixels per inch)です。計算式は次のとおりです。

ppi = √(横ピクセル数² + 縦ピクセル数²) ÷ 画面対角(インチ)

ウェブ制作の現場ではさらに複雑に、物理ピクセルとCSSピクセル(論理ピクセル)が区別されます。CSSでは歴史的に「1in = 96px」という参照値が使われてきました(CSS の仕様上の参照)。実際のデバイスでは devicePixelRatio(例:2、3)によって1 CSS ピクセルが複数の物理ピクセルで表現されます。つまり、Retina(高密度)ディスプレイでは同じ表示サイズでも物理的には多数のピクセルが使われ、見た目のシャープネスが向上します。

実務例:

  • iPhone の Retina ディスプレイで devicePixelRatio = 3 の場合、幅 375 CSS px の要素は 1125(=375×3)物理ピクセルで描画される。
  • ウェブで高解像度画像を用意する際は、表示するCSS幅に devicePixelRatio を掛けたサイズで画像の候補(2x, 3xなど)を用意すると良い。

画像編集・制作での実務ガイドライン

デザイナーや写真担当者が日常で使う実務的なポイントをまとめます。

  • 印刷用画像は最終印刷サイズと目的dpi(多くの場合300ppi)を基にピクセル数を用意する。先述の式:ピクセル = 寸法(インチ)× ppi。
  • ウェブ画像は「見た目の表示サイズ(CSSピクセル)」に devicePixelRatio を乗じたピクセル幅を目安に作成する。たとえば表示が300px幅でDPR=2なら、600px幅の画像を用意。
  • 画像を拡大して解像度を補う(アップサンプリング)ときは、シャープネス低下やアーティファクトが出るため、可能な限り元画像のサイズを確保する。リサンプリングは高品質アルゴリズム(Lanczos、Bicubic Smoother など)を使う。
  • ロゴやアイコンなどはベクター形式(SVG、EPS)を使うとスケーラビリティが保たれ、dpi を気にせずに高品質な出力ができる。

スキャニングとアーカイブ時のdpi選定

紙資料や写真をデジタル化するときの dpi 設定は、目的(閲覧用/保存用/印刷用)によって変わります。保存(アーカイブ)用途では高解像度が望ましく、以下は一般的な目安です。

  • 閲覧用途(ウェブ、低解像度アーカイブ):150〜300dpi
  • 印刷再利用を想定した保存:300〜600dpi(写真は300dpi以上、フィルムや細かい文字がある資料は600dpiを推奨する場合がある)
  • 文化財や高精細保存:FADGIや国会図書館などが推奨する高解像度(場合により400〜1200dpi)

例えば米国国会図書館やFADGIなどのガイドラインでは、保存品質を確保するために写真や印刷物の条件に応じて400〜600dpiを採ることが多いです(資料の性質により推奨値は変わるため、プロジェクト基準を別途確認してください)。

よくある誤解とQ&A

  • Q:ウェブ画像は72dpiでいいの?
    A:古くから「72dpiがウェブ向け」という説がありますが、現在のディスプレイ事情(高DPIディスプレイの普及)では意味が薄れています。重要なのは画像のピクセル幅(実際に表示されるサイズ×devicePixelRatio)です。dpiメタデータは表示に直接影響しないブラウザが多いです。
  • Q:プリンターの600dpiは写真が600ppiで印刷されることを意味する?
    A:いいえ。プリンターのdpiはプリンターが置ける物理ドットの密度であり、画像のppiとは別です。ハーフトーンやインクの特性で見た目の解像度は変わります。
  • Q:画像のdpiを数値だけ変えれば解像度が上がる?
    A:画像ファイルのメタデータ上でdpiを変更しても、ピクセル数を増やさない限り見た目は変わりません。ppi(dpi)を上げたいならリサンプリングでピクセル数を増やす必要があります(ただし画質は補完されるため限界あり)。

実践的なチェックリスト(印刷・ウェブ)

  • 印刷:最終印刷サイズを決め、目的ppi(通常は300ppi)で必要ピクセル数を計算する。
  • 印刷:印刷方式(オフセット・インクジェット・新聞)に応じたlpiやプリンター特性を確認する。
  • ウェブ:表示するCSSピクセル×最大想定devicePixelRatio(2や3)で必要横幅を決め、余裕をもって画像を用意する。
  • スキャン:用途(閲覧/保存/印刷)に応じたdpiを選定し、カラープロファイルと保存フォーマット(TIFF/PNG/JPEG等)を決める。
  • 常に元データ(RAWや高解像度マスター)を保管しておく。後処理で補正・トリミング・再出力が容易になる。

まとめ

「dpi」は便利な指標ですが、使い方を誤ると品質や期待値にズレが生じます。ポイントは以下の通りです。

  • dpi(プリンターのドット密度)、ppi(画像・ディスプレイのピクセル密度)、lpi(印刷の網点)は別概念。
  • 印刷品質はppiだけで決まらず、lpiやプリンター特性、用紙、カラー管理など複合的に決まる。
  • ウェブではdpiより「表示サイズ(CSSピクセル)×devicePixelRatio」を重視する。
  • ロゴやアイコンは可能な限りベクター形式を使い、ラスター画像は目的に応じたピクセル数を用意する。

これらを踏まえて制作・入稿・スキャンを行えば、期待どおりの結果を得やすくなります。

参考文献