ザキール・フセインのタブラ名盤ガイド|入門から深掘りまで聴き方と名曲を徹底解説
Zakir Hussain — イントロダクション
ザキール・フセイン(Zakir Hussain)は、20世紀後半から現代にかけて最も影響力のあるタブラ奏者の一人です。クラシック・インド音楽の伝統を深く踏まえつつ、ジャズ、ロック、ワールドミュージック、エレクトロニカなど多様な音楽と積極的に接続してきたため、耳の肥えたリスナーだけでなく初めてインド音楽に触れる人にも入口となる録音が豊富なのが特徴です。本コラムでは、彼の「レコード(アルバム)」にフォーカスし、代表作・名盤をピックアップして「真に聴くべきポイント」を深掘りします。
おすすめレコードの聴き方と全体の指針
- 楽器間の対話を聴く:タブラは単独のソロ楽器としてだけでなく、メロディ楽器(バイオリン、サックス、ギターなど)との「会話」で真価を発揮します。フレーズの呼応、リズムの提示と応答に注目してください。
- ターラ(tala)の感覚を掴む:西洋拍子とは異なる周期(たとえば16拍、10拍など)を基礎にしたリズム構造が多用されます。最初は拍を数えるよりも「繰り返しと変化」を耳で追うと理解しやすいです。
- ダイナミクスと音色変化:タブラの指先の位置や押さえ方で音色が劇的に変わります。強打だけでなくニュアンスの変化を追うと細部の面白さが増します。
- コラボレーションに注目:ザキールは多様なミュージシャンと共演してきました。コラボ先の音楽性がタブラの役割を変えるため、各アルバムごとの編成やゲストにも注目を。
1 — Shakti(初期のShaktiプロジェクト)
なによりもまず外せないのが、ジョン・マクラフリン(John McLaughlin)率いるShaktiでの録音群です。インド古典とジャズの即興がほぼ等価に溶け合ったこのプロジェクトは、ザキールの国際的な評価を決定づけました。
- 聴きどころ:マクラフリンのギター/リックとシャーカール(L. Shankarなど)のメロディが、ザキールのタブラとヴィック・ヴィナヤクラム(ghatam/goblet drum)などのパーカッションとどのように掛け合うかを追ってください。構造は自由即興に近く、テンポや拍子の暗黙の変更が多い点が魅力です。
- 代表トラック:長尺の演奏が多く、テーマ提示→展開→猛烈な即興という流れが一般的。各楽曲の中盤以降でタブラがソロ寄りの自由度を得る瞬間をチェック。
- なぜ聴くべきか:伝統と前衛の境界でタブラが果たす役割を、最もダイレクトに体験できる歴史的ドキュメントです。
2 — A Handful of Beauty / 他のShaktiスタジオ作品
Shaktiプロジェクトの別の名盤群。ライブ盤とは異なる緊張感と構築性があり、楽曲の細部がより際立ちます。タブラの伴奏だけでなく、リズムの提示・構成要素としてのタブラの役割に気付かされます。
- 聴きどころ:短めの楽曲であっても内部に複雑な型(ターラ)が埋め込まれているため、繰り返し聴くほどに発見があります。
- なぜ聴くべきか:即興の「飛び道具」だけでない、作曲的な側面の強いShaktiサウンドを味わえます。
3 — Planet Drum(Mickey Hart & Zakir Hussain 他)
ミッキー・ハート(Grateful Dead)とのコラボレーションによるこのプロジェクトは、世界中の打楽器文化を結集した一大作。北米のドラム・サウンドと南アジアのタブラが融合する、非常にダイナミックなアルバムです。
- 聴きどころ:多人数のパーカッションによるテクスチャーの層、連動するグルーヴ感、そしてザキールのタブラがどのように「輪郭」を作るかに注目してください。タブラがソロとして前に出る場面だけでなく、リズム全体を束ねる役割も担います。
- なぜ聴くべきか:ワールド・ミュージック混成型の傑作で、タブラがグローバルなパーカッション・アンサンブルにどう適合するかを示す代表例です。
4 — Global Drum Project(Mickey Hart, Zakir Hussain 等)
Planet Drumの系譜に連なるプロジェクトで、現代の打楽器表現の可能性をさらに広げた作品。多国籍のリズム言語が混在する中で、ザキールの「可塑性」と「即興統率力」が光ります。
- 聴きどころ:強烈なビートの中での緩急、リズムの細分化、そして手数のコントロール。タブラの小刻みなニュアンスが全体の躍動感を生み出します。
- なぜ聴くべきか:タブラが単独の“民族的装飾”ではなく、グローバルなグルーヴの中心を担えることを証明した作品群です。
5 — Making Music(ECM周辺のコラボレーション)
ECMレーベルなどでのジョイント・プロジェクトは、ミニマルで空間的な音作りの中にタブラを配置することで、新しい聴取体験を生み出しました。ザキールのタブラはここで“リズムの輪郭”だけでなく“空間の色付け”にも寄与します。
- 聴きどころ:音の余白(スペース)と音色の響き。少ない音数でいかにドラマを作るか、という表現に注目してください。
- なぜ聴くべきか:タブラを静的・瞑想的な文脈で聴くと、普段気づかない音響的な側面を発見できます。
6 — Tabla Beat Science(エレクトロニカ/フュージョン系の試み)
ザキールは伝統音楽からエレクトロニカまで幅広く関わっており、Tabla Beat Scienceのようなプロジェクトではタブラがエレクトロニックなサウンドと共鳴します。ビートがループする現代的文脈で、タブラの表現がどのように拡張されるかが興味深い点です。
- 聴きどころ:生楽器の即興性とエレクトロニックな反復/加工のコントラスト。タブラのフレーズがどのようにループと絡むかを耳で追ってみてください。
- なぜ聴くべきか:伝統音楽が現代のビート文化とどう共振するかを体験でき、ザキールの柔軟性がよく分かります。
7 — Masters of Percussion シリーズ
ザキールがキュレーションやホストを務めた形のアルバムやライブ録音も多数存在します。これらはタブラが多様なパーカッションとどう絡むか、また伝統と近現代の技術がどう融合するかを学ぶのに最適です。
- 聴きどころ:異なる文化の打楽器との会話、リズムの層構造、ソロと伴奏の境界が曖昧になる瞬間。
- なぜ聴くべきか:タブラを「網羅的に」聴けるコンピレーション的な魅力があります。豪華なゲスト陣とのセッションは学びが深いです。
初めて聴く人への推奨リスニング順
- 入門(親しみやすさ重視):Planet Drum → Global Drum Project(グルーヴ感と多民族性)
- 深掘り(構造と即興を味わう):Shakti(ライブ盤)→ A Handful of Beauty(スタジオ盤)
- 実験/現代的文脈:Making Music(ECM的空間)→ Tabla Beat Science(エレクトロニカ融合)
鑑賞時の具体的な聞き分けポイント(初心者〜中級者向け)
- 「イントロの最初の数小節」で楽曲のターラ(周期)感を掴む。タブラが拍節の基準を出すことが多い。
- メロディ楽器がソロに入る直前のタブラのコード(合図)を探す。即興の始まりと終わりが見える。
- 長尺曲では中盤以降にテンポの微変化や拍の再編が出る場合が多い。そこを聴くと即興の高度さが分かる。
- 多人数パーカッションでは、タブラが「指揮」的に機能する瞬間(他の打楽器のフレーズを束ねる)を探すと面白い。
まとめ — ザキールのレコードが教えてくれること
ザキール・フセインの録音群は、「伝統」だけでも「実験」だけでもない、多層的な音楽的実践の教科書のような存在です。1枚1枚が異なる文脈を持ち、タブラという楽器の表現範囲を再定義してきました。初心者はグローバルなパーカッション・プロジェクトから入り、慣れてきたらShaktiの即興的世界やECM的な空間音楽に踏み込むのがおすすめです。
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