奇数フィールドとは?インターレース映像の基本定義からデインタレース・フィールド順序・現場実務までの完全ガイド
奇数フィールドとは — 基本定義
「奇数フィールド(きすうフィールド)」とは、インターレース方式の映像信号における2つのフィールドのうち、画面の走査線番号が奇数(1, 3, 5, …)のラインを含むフィールドを指します。インターレース映像は1フレームを偶数フィールド(偶数番号のライン)と奇数フィールド(奇数番号のライン)の2つに分け、時間的に交互に送出・表示することで、帯域を節約しつつ擬似的に高いフレームレートを実現する方式です。
歴史的背景と導入理由
インターレース方式は、テレビ黎明期にブラウン管(CRT)で滑らかな動きを低帯域で実現するために開発されました。1フレームを2分割して前後で別々に走査することで、同じ伝送帯域で視認上のちらつきを減らし、動きの滑らかさを高めることができます。奇数フィールドと偶数フィールドに分けることで、1秒あたりのフィールド数が倍になり、動きを滑らかに見せる効果が得られます(例えばNTSC系では約59.94フィールド/秒、PAL系では50フィールド/秒)。
技術的な仕組み(走査線、ハーフライン、タイミング)
走査線番号:画面は多数の水平走査線で構成され、奇数フィールドは奇数番号の走査線(1, 3, 5, …)を表示します。偶数フィールドは偶数番号の走査線(2, 4, 6, …)を表示します。
ハーフライン(半ライン)オフセット:完全なインターレースを実現するために、フィールド間には「半ライン分」の時間オフセットが挿入されます。これにより奇数フィールドのラインと偶数フィールドのラインが垂直方向に半ラインずれて走査され、2つを合わせるとフレーム全体が構成されます。
代表的なライン数とフィールド数:
- NTSC(俗に525ライン):1フレーム=525ライン(総ライン)、各フィールドは262.5ライン(垂直ブランキング含む)。可視ラインは通常480ライン(標準的なVGA相当)。フレームレートは29.97fps(カラーNTSCでは29.97が多く、フィールドは約59.94Hz)。
- PAL/SECAM(625ライン):1フレーム=625ライン、各フィールドは312.5ライン。可視ラインは通常576ラインで、フレームレートは25fps、フィールドは50Hz。
フィールド順序(フィールドドミナンス)と互換性問題
「奇数フィールドが先に来る(odd-field-first)」か「偶数フィールドが先に来る(even-field-first)」かは機器や規格、制作環境により異なり、これをフィールドドミナンス(field dominance)やフィールド順序と呼びます。フィールド順序が合わないまま編集や変換を行うと、以下のような問題が発生します。
- 動きのタイミングがズレてしまい、映像にジャンプやカクつき(ジャダー)が出る。
- コンバイン(weave)処理時に映像の上下でゴースト的なズレが生じる。
- テレシネやプログレッシブ変換で逆順に誤処理されるとフレームレート変換時に同期が崩れる。
そのため、放送やポスプロ(ポストプロダクション)ではフィールド順序の管理が重要です。多くの編集ソフトやコーデックはメタデータやクリッププロパティでフィールド順序を指定でき、正しい順序に合わせてデインタレースや再合成を行う必要があります。
奇数フィールドが関係する主要な処理技術
デインタレース(deinterlacing):インターレース映像をプログレッシブ(フルフレーム)映像に変換する処理。代表手法:
- Bob(ボブ):各フィールドを独立したフレームとして拡大補間する。動きに強いが解像感が低下する。
- Weave(ウィーブ):奇数・偶数フィールドを合成してフレームを再構成する。静止画では高品質だが動きのある箇所で「コーミング」アーティファクトが出る。
- モーションアダプティブ/モーションコンペンセーテッド:動き検出に基づきボブとウィーブを使い分けたり、動き補償で高品質に変換する。
テレシネ/逆テレシネ(telecine/inverse telecine):映画の24fps素材を放送のインターレース方式(例えば29.97fps)に合わせるための特殊なフィールド並べ替えや複製処理。フィールド単位での順序管理と奇数・偶数フィールドの認識が不可欠です。
Progressive Segmented Frame(PsF):フィルム由来やHDのワークフローで、プログレッシブ原稿をフィールド単位で分割してインターレース伝送互換にする方式。各フィールドは実質的にプログレッシブの上位・下位半フレームですが、奇数/偶数という概念で伝送されます。
実務上の注意点(キャプチャ・編集・配信)
キャプチャ時:キャプチャデバイスやキャプチャ設定でフィールド順序を指定する。誤った指定は編集時に目立つ。
編集時:タイムラインの設定やインポート時のクリップ設定でフィールド情報を正しく扱う。フィールドを無視してプログレッシブとして扱うとコーミングが出る。
エンコード/配信時:コーデックやコンテナに対してインターレースフラグやフィールド順序のメタデータを正しく付与する。配信先(Webプラットフォーム)は多くがプログレッシブを好むため、再生互換のためのデインタレース処理が必要な場合がある。
トラブルシューティング:奇数フィールドがらみの代表的な症状と対処法
症状:動きのある被写体に縞(コーミング)が出る。対処:正しいフィールド順序を指定してからデインタレース(モーションアダプティブ方式など)を行う。
症状:映像が1フレーム分ずれて見える(ジャンプ)。対処:フィールドドミナンス(フィールド優勢)を確認し、タイムラインやプロジェクト設定と一致させる。
症状:テロップや合成がずれる。対処:合成やエフェクト適用時にフィールド単位の処理順を考慮するか、事前にプログレッシブ化しておく。
現代映像制作における位置づけ
デジタルカメラや放送ワークフローの進化により、プログレッシブ撮影が主流になってきました。それでも放送規格や古い素材、あるいは帯域制約のある伝送ではインターレースが残っています。ポストプロダクションでは古い素材の扱い、アーカイブの修復、またライブ放送系での互換性確保のために奇数フィールド/偶数フィールドの理解は重要です。
ツールとコマンドの例(参考)
実務ではFFmpegなどのツールでデインタレースやフィールド操作を行うことが多いです。例えばFFmpegのyadifやbwdifフィルタはデインタレースに用いられます(以下は説明目的の記述です)。
簡易的なデインタレース例:ffmpeg -i input -vf yadif output.mp4
フィールドを入れ替えたい場合などはtinterlace等のフィルタや専用オプションを使うことがある(詳細は各ツールのドキュメントを参照)。
まとめ(要点整理)
奇数フィールドはインターレース映像の「奇数番号走査線」を含むフィールドを指す。
奇数フィールドの順序(どちらが先に来るか)は規格や機器で異なり、これを誤ると動きのズレやアーティファクトが発生する。
デインタレース、テレシネ、PsFなどの処理は奇数/偶数フィールドの管理が前提となる。
現代ではプログレッシブ中心だが、過去素材や放送互換のために奇数フィールドの理解は重要。
参考文献
- インターレース映像 — Wikipedia(日本語)
- Field (video) — Wikipedia(英語)
- Deinterlacing — Wikipedia(英語)
- Telecine — Wikipedia(英語)
- Progressive segmented frame — Wikipedia(英語)
- Rec. BT.601 — Wikipedia(英語)(映像のサンプリングやフォーマットに関する基準)
- FFmpeg yadif filter — FFmpeg公式ドキュメント(英語)


