Pharoah Sandersのスピリチュアル・ジャズ名盤大全—KarmaからIzipho Zamまで徹底聴き方ガイド
はじめに — Pharoah Sandersとは
Pharoah Sanders(ファラオ・サンダース、1940–2022)は、ジョン・コルトレーンの影響を受けつつも独自の「スピリチュアル・ジャズ」を切り開いたサックス奏者です。オーヴァーブローイングや倍音を活かした荒々しくも霊的な表現、アフリカ・中東音楽やゴスペルの要素を取り入れたサウンドで知られ、1960年代後半から1970年代にかけてのインパルス期の作品群は特に高く評価されています。本稿では、レコード(アナログ盤)で聴く価値のある代表作を中心に、各作品の聴きどころ、歴史的背景、注目のトラックや参加メンバーについて深掘りして紹介します。
おすすめレコード一覧(深堀解説)
Tauhid(1967)
ポイント:
- インパルス!移籍後の初期重要作。モダン・ジャズとアヴァンギャルドが交差する構成。
- 注目トラック:「Upper Egypt and Lower Egypt」 — 移民的・宗教的モチーフをブロック的に展開する代表曲。
- 編成と演奏:John Coltraneの影響も感じさせつつ、サンダースが自己のトーンとフレージングを確立していく過程が聴けます。若きレジェンド級のプレイヤーたちとの化学反応も魅力。
Karma(1969)
ポイント:
- 最も広く知られる名盤。A面の大曲「The Creator Has a Master Plan」はサンダースの代名詞的作品。
- 「The Creator Has a Master Plan」は約32分にわたる組曲的トラックで、静と動、祈りと狂騒が交互に現れるドラマ性が特徴。レオン・トーマスの独特な喉歌(ユニークなヴォーカル)も重要な色付けをしています。
- なぜ聴くべきか:スピリチュアル・ジャズの到達点の一つであり、サンダースの思想性(音楽を通した癒しや宗教性)が最も分かりやすく表現された作品。
Jewels of Thought(1969)
ポイント:
- 即興的で実験的な要素が強い作品。長尺曲が並び、自由形式の内部でテーマが立ち上がる作風。
- 注目点:エレクトリック・ピアノや打楽器の色彩が増し、よりワールド・ミュージック志向へ接近する場面もあるため、サンダースの多面的な音楽性を知るのに最適。
- 聴きどころ:反復フレーズと過激なサックス表現の対比。聴き手を陶酔と緊張の間に置く構成力。
Black Unity(1971)
ポイント:
- アルバム全体がひとつの大きな作品のようにまとまっており、長尺の即興演奏で構成される。タイトル曲のスピリチュアルで政治的な含意も強い。
- 音楽的特徴:密度の高いリズム隊とニーズの高いホーン・アレンジ。アフロ・ジャズ的グルーヴと儀礼的な雰囲気が融合。
- 背景:1970年代初頭の黒人解放運動や精神的探求と連動する作品群の一つとして位置づけられます。
Thembi(1971)
ポイント:
- サンダースの音楽がさらに多彩になる転換期。短めの曲が増え、民族楽器や多彩なパーカッションが登場します。
- 注目トラック:「Thembi」などはメロディアスで歌心があり、コラボレーション色の強いアレンジが光ります。
- 聴きどころ:叙情性と儀式性が共存するサウンド。自由即興と歌心のバランスを知るのに良い一枚。
Izipho Zam (My Gifts)(1973)
ポイント:
- ストラタ・イースト周辺の流れに近い作品で、よりプライベートで土着的な要素が強まります。
- 音作り:伝統楽器の導入や朗誦的なヴォーカルが強調され、サンダースの霊的探究が深化した印象。
- 聴きどころ:サンダースの表現がより内省的で儀式的になる過程を追える好例。
Journey to the One(1980)
ポイント:
- 70年代の激しい実験期を経て、80年代初頭に発表された比較的聴きやすい傑作。メロディと情緒に重心が戻った感触があります。
- 注目点:比べて穏やかだが、深い呼吸感と透明な音像があり、サンダースの成熟を感じさせる。
- 聴きどころ:スピリチュアル性はそのままに、より整理されたアレンジとコンパクトな曲構成で入門にも適する一枚。
Live盤での魅力(代表例)
ポイント:
- サンダースのライブは、スタジオ録音よりも即興の爆発力や長尺での展開が味わえます。代表的なライブ盤ではその場の空気、即興のエネルギー、観客との共鳴が強く伝わってきます。
- 聴き方の提案:ライブ盤は通して一気に聴くことで、祈りから狂乱へ、また静謐へと移る劇的な流れを体験できます。
聴きどころを掘り下げる — サウンドと演奏技法
サンダースの音楽を深く味わうための視点をいくつか挙げます。
- トーンと発声:倍音を多用した濃密な音色、オーヴァーブローイングやマルチフォニックスによる「荒々しさ」が、祈りや叫びのように感じられます。
- リズムとグルーヴ:単なる即興ではなく、反復フレーズや儀式的リズムが楽曲の骨格を作ります。打楽器の導入が多い作品では、東洋・アフリカ的なモード感が強調されます。
- コール&レスポンス:サックスとヴォーカル、パーカッションとの対話(call-and-response)が多く、これはゴスペルやアフリカ音楽と共通する表現法です。
- 長尺曲の構造:長時間にわたるトラックでも、テーマの断片化と再構築、緩急の明確な配分により聴き手を導きます。物語性を意識して聴くと発見が多いです。
入門〜深掘りの聴き方ガイド
初めてサンダースを聴く人、既にファンの人、それぞれに向けた聴き方の提案です。
- 入門者:まずは「Karma」の「The Creator Has a Master Plan」を通して聴く。楽曲のドラマ性とサンダースの表現が直感的に掴めます。
- 中級者:TauhidやJewels of Thoughtで、サンダースのアヴァンギャルド面と編曲の工夫を追い、各パートの役割や即興の発展を意識して聴くと深まります。
- 上級者・愛好家:Black UnityやIzipho Zamなど長尺・民族的要素の強い作品で、反復パターンや儀式的構造、各奏者のモチーフの変容に注目して分析的に聴くと新たな発見があります。
まとめ — サンダースの魅力と現在の評価
Pharoah Sandersは「激しさ」と「祈り」を同時に内包する稀有な表現者です。インパルス期の作品群は、スピリチュアル・ジャズというジャンルを確立し、現代の様々な音楽(ポスト・ジャズ、エクスペリメンタル、ワールドミュージック)に継続的な影響を与えています。今回挙げたアルバムは、初心者が入りやすい作品から、聴き込むほどに新しい層が見える作品までバランスよく選びました。繰り返し聴くことで、サンダースが音で語る「祈り」と「闘い」の物語を少しずつ理解できるはずです。
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参考文献
- Pharoah Sanders — Wikipedia
- Karma (Pharoah Sanders album) — Wikipedia
- Tauhid — Wikipedia
- Jewels of Thought — Wikipedia
- Black Unity — Wikipedia
- Thembi — Wikipedia
- Izipho Zam (My Gifts) — Wikipedia
- Pharoah Sanders — AllMusic


