ベリオを深く聴くためのおすすめ盤ガイド:Folk SongsからCoroまでの聴きどころと盤選び
はじめに — ルチアーノ・ベリオのレコードを深く聴くために
ルチアーノ・ベリオ(Luciano Berio, 1925–2003)は、20世紀後半の前衛音楽を代表する作曲家の一人です。伝統的な楽器技法の拡張、言語や引用の重層的使用、電子音楽とアコースティック音楽の接点などを通じて、聴覚の期待を揺さぶる作品群を残しました。本コラムでは「レコード(音盤)という媒体を通して」ベリオの世界に入るためのおすすめ盤を厳選して紹介します。演奏解釈や録音の特色、どの曲で何を聴き取るべきか、初めて聴く人にも役立つ聴きどころを中心に掘り下げます。
ベリオ理解のための大前提
作品は参照・引用の層が多いため、1回聴いただけで判別できない箇所が多い。反復して聴き、個々の声部やテクスチャに注意すること。
ベリオ自身が録音や再演に関わった音源は、曲の構造・バランスの「ひとつの公約数」として価値が高い。可能なら作曲者関与の音源を優先して聴くのが有益。
ソロ作品(Sequenza群)と大編成作品(Sinfonia、Coroなど)では聴き方が異なる。ソロは技巧と表現の細部、大編成は集合的テクスチャと引用の運用に着目する。
おすすめ盤 1 — Folk Songs(キャシー・ベルベリアン/他)
なぜ聴くか:ベリオの人声への感度、民俗素材の再構築、そしてキャシー・ベルベリアン(Cathy Berberian)という奇跡的歌手との化学反応を味わえる代表作集です。民謡を素材にしてヴォーカル技法や伴奏を再構成するという手法は、ベリオの「言語」への関心が凝縮されています。
聴きどころ:歌詞の言語ごとに変わる音色の処理、歌手の発声と小編成伴奏(しばしば異質な楽器色)との対話、民謡の原曲が持つリズム感とベリオ流の間合いのズラし。
おすすめエディション:初期の録音はリマスター盤での再発が多く、リマスターで音場・声のディテールが明瞭になります。解説書きや歌詞(原語対訳)が付いた盤を選ぶと理解が深まります。
おすすめ盤 2 — Sinfonia(シンフォニア)
なぜ聴くか:“言語のシンフォニー”とも呼べるこの1968年作は、現代音楽のアイコン的作品です。言葉の引用(特に第2楽章のテクスチュア)とオーケストラの重層的な書法が特徴で、ベリオの「引用と再文脈化」の手法を象徴します。
聴きどころ:第2楽章(多声部の言語的パッチワーク)はミニマルな反復ではなく、引用が積層していくことで意味が生成される過程を体験できます。楽器群と合唱・独唱的発声の境界、スピーチと音楽の往復運動を追ってください。
演奏・録音の選び方:オリジナルや作曲者監修盤は配置やバランス感覚が理解の助けになります。大編成の空間性が重要なので、ステレオの定位感や音場が良好なマスタリングを選ぶと細部が判別しやすいです。
おすすめ盤 3 — Complete Sequenzas(シークエンツァ全集)
なぜ聴くか:ベリオの「Sequenza」群は独奏楽器の技法を最大限に拡張した作品群で、個々の楽器の可能性と作曲家の語法が濃縮されています。ソロ楽器でここまで物語が語れるのかと驚かされます。
聴きどころ:それぞれのSequenzaは楽器の固有音色・運動性・呼吸に基づく語りを持ちます。初めてなら各Sequenzaを“楽器の人物肖像”として聴き、どの瞬間に“声”が立ち上がるかを追うと良いでしょう。
演奏家の影響:各Sequenzaはしばしば特定奏者に捧げられ、初演者や著名な解釈はそれ自体がスタンダードになっています。全集盤では録音時期や演奏家の個性の違いを横断的に聴けるのが魅力です。
おすすめ盤 4 — Coro(コロ)
なぜ聴くか:1976年の大規模作品で、合唱と楽器群が複合的に絡むため、集団表現と個人声の境界が曖昧になります。民族音楽の断片、テクスチャの分裂と結合が劇的に展開します。
聴きどころ:多数の独立した声部がどのように「合唱」としてまとまるか、また時に個々の声がソロ的に浮き上がる瞬間を探してください。空間分割や定位感が作品理解に寄与します。
録音の注目点:合唱の定位とオーケストラのマッチングが重要なため、ライブ録音よりも慎重にバランスを取ったスタジオ録音がお薦めの場合があります(編集の仕方にも注目)。
おすすめ盤 5 — 電子音楽・初期実験作品の録音集
なぜ聴くか:ベリオは電子音楽やテープ技術を早くから取り入れ、アコースティックと電子の交差点で独自の音世界を切り開きました。初期の電子作品やテープと合奏の組合せは、ベリオの音響実験の源流を知るうえで重要です。
聴きどころ:テープの加工音と生演奏の対話、エディティングが新たなリズム感や語りを生むさまを追ってください。録音ノイズやテープ特有の音色も作品の一部として捉えると面白いです。
聴き方の実践的アドバイス(盤選び〜鑑賞)
複数演奏を比べる:同一曲でも演奏・録音によって見える景色が変わります。作曲家関与盤→名演奏家の盤→現代演奏の新録音、という順に比較すると変化が読めます。
解説・スコア併用:可能なら曲目の解説やスコア(抜粋)を手元に置いて聴くと、引用箇所や構造が把握しやすいです。
反復と分解:大編成での複雑な層を理解するには、部分ごとに繰り返し聴くこと。1回目は全体の流れ、2回目以降で細部(楽器群・声の運動)を追うのが有効です。
ライブ音源とスタジオ音源の使い分け:ライブは瞬間の緊張感、スタジオは均衡と細部の聴き取りに向きます。作品や目的に応じて選びましょう。
さらに深めるためのリスニング・プロジェクト例
プロジェクトA:Sequenzasを楽器別に並べ、各楽器の「語り方」の違いを比較する(例:吹奏楽器の呼吸、弦楽器の連続性、声の多彩さ)。
プロジェクトB:Sinfoniaの第2楽章を単独で10回聴き、引用の出所(文献・文学・音楽史的フラグメント)をメモする。引用がどのように意味化されるかを体験する。
プロジェクトC:Folk Songsと民謡原曲を聴き比べ、ベリオの再編がどう「意味」を移し替えているかを考察する。
終わりに — ベリオを聴くことの楽しさ
ベリオの音楽は「聴き手の能動性」を強く求めます。単に美音を楽しむのではなく、言葉・音色・引用が瞬時に意味を結んだり離れたりする過程を追体験することが醍醐味です。レコード(盤)によっては演奏者や編集の違いが非常に大きく、同じ曲がまったく別の作品のように感じられることもあります。まずは一枚を選び、繰り返し聴き、少しずつレパートリーを広げてください。
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参考文献
- ルチアーノ・ベリオ - Wikipedia
- Folk Songs (Berio) - Wikipedia
- Sinfonia (Berio) - Wikipedia
- Sequenza (Berio) - Wikipedia
- Coro (Berio) - Wikipedia
- Luciano Berio — Discogs(ディスコグラフィ)


