BLOB徹底解説:基礎から主要RDBMSの実装・運用・使い分けまで

BLOB型とは — 基礎から実務的な扱いまで

BLOB(Binary Large Object、バイナリ大容量オブジェクト)は、データベースでバイナリデータ(画像、音声、動画、PDFなど)を格納するために用いられるデータ型の総称です。文字列型(CHAR/TEXT)と異なり、BLOBは文字コードや照合順序の影響を受けず、純粋なバイナリ列を扱います。RDBMSごとに実装や制限が異なるため、用途に応じた使い分けや運用上の注意が必要です。

主要なRDBMSにおけるBLOBの実装とサイズ制限

  • MySQL: BLOBには TINYBLOB、BLOB、MEDIUMBLOB、LONGBLOB の4種類があります。最大サイズはそれぞれ約255バイト、65,535バイト(≈64KB)、16,777,215バイト(≈16MB)、4,294,967,295バイト(≈4GB)です(MySQL公式ドキュメント参照)。

  • PostgreSQL: バイナリは主に bytea 型(カラム内に格納)や Large Object(LO、独立したオブジェクトとして管理)で扱われます。通常のTOASTによるカラムの格納は内部的に圧縮/外部化され、実務上は数百MB〜1GB程度の単位で取り扱われることが多いです。大容量の取り扱いはLO APIを使います。

  • SQLite: BLOBはストレージクラスの一つで、バイト列をそのまま格納します。デフォルトの文字列/バイナリの最大長はビルド時設定に依存しますが、一般的な組み込み設定では数百MB〜1GBクラスの上限が設定されています。

  • Oracle: BLOB型(およびCLOB/NCLOBなどのLOB型)をサポートし、従来は最大で4GB(4,294,967,295バイト)程度を扱えることが多いです。最新のOracleではSecureFilesなどの機能で性能・機能が拡張されています。

  • Microsoft SQL Server: 旧来の IMAGE 型は非推奨で、VARBINARY(MAX)が推奨されます。VARBINARY(MAX)は最大で約2GB(2,147,483,647バイト)程度のデータを扱えます。

BLOBを使うメリット・デメリット

  • メリット

    • トランザクション管理下でファイルとメタデータを一貫して扱える(ACIDの恩恵)。
    • アクセス制御やバックアップがデータベースの仕組みで一元化される。
    • アプリケーション側でファイルパス管理が不要になり、参照整合性が保ちやすい。
  • デメリット

    • データベースのバックアップ/リストアサイズが大きくなり、運用コストが上がる。
    • 大容量BLOBを頻繁に読み書きするとDBのI/O・メモリ負荷が高くなる。
    • 全文検索やインデックスが効かない(通常のBLOBは内容でのインデックス不可)。
    • アプリケーション層での取り扱い(メモリに展開するなど)に注意が必要。

使い分けの考え方 — DBに入れるべきかファイルストアへ置くべきか

一般的な指針は「小〜中サイズのバイナリでトランザクション性や厳密な整合性が重要な場合はDB(BLOB)」「大きなメディアファイルや配信コンテンツはファイルシステム/オブジェクトストレージ(S3等)を使う」です。具体的には次の観点で判断します。

  • ファイルサイズ:数KB〜数MB程度ならDB格納も現実的。数十MB〜GB級はオブジェクトストレージに向く。
  • アクセスパターン:頻繁に参照され、CDNやHTTP配信が前提なら外部ストレージが有利。
  • アトミックな更新が必要か:メタデータとファイルを同一トランザクションで更新する必要がある場合はDB保存が便利。
  • バックアップ戦略:DBバックアップで全て管理したいか、メディアは別途バックアップしたいか。

実務上のベストプラクティス

  • メタデータ(ファイル名、MIMEタイプ、サイズ、ハッシュ、参照カウントなど)は必ずDBに保持する。実際のバイナリは状況に応じてDBや外部ストレージに分離する。
  • 大きなファイルはストリームで読み書きし、アプリケーションで一度にメモリへ展開しない(JDBCのgetBinaryStream / setBinaryStream、PHPのPDO::PARAM_LOB等を利用)。
  • アップロードサイズの上限(MySQLのmax_allowed_packet、Webサーバやアプリの設定)を確認・調整する。特にMySQLではサーバ設定が足りないと大きなBLOBが挿入できない。
  • 重いファイルはベース64などでテキスト化してDBに入れない(Base64は約33%のサイズ増加)。どうしてもJSONで渡す場合は注意。
  • 検索やフィルタリングはメタデータで行い、BLOB本体は必要なときだけ取得する。全文検索が必要なら専用の仕組み(テキスト抽出→全文検索インデックス)を組む。
  • 重複除去はハッシュ(SHA-256等)を用いて実装する。重複をデータベース側で参照カウント管理すると容量節約になる。
  • バックアップとリストア手順を明確にする。DBに入れている場合はDBのバックアップがメディアのバックアップを兼ねるが、外部ストレージを併用する場合は両者の整合性を維持する仕組み(トランザクション的な同期)を設計する。

セキュリティと運用上の注意

  • アップロードされるファイルのMIMEタイプや拡張子の検証、ウイルススキャンを行う。DBに格納する場合でも格納前の検査は必須。
  • SQLインジェクションを防ぐために、常にプリペアドステートメントやバインド変数を使い、バイナリを直接SQL文字列に埋め込まない。
  • 機密性の高いファイルはDB/ストレージレイヤで暗号化(透過暗号化、アプリケーションレベル暗号化)を検討する。
  • 大容量転送ではネットワーク負荷やタイムアウトに注意。分割アップロード/ダウンロード(multipart upload)を採用する。

言語・ドライバ別の取り扱い(概要)

  • JDBC: java.sql.Blob インタフェースや setBinaryStream/getBinaryStream を利用してストリームで扱う。
  • PHP: PDO なら PDO::PARAM_LOB を使ったバインドやストリーム取り扱いが可能。mysqli でも同様に扱える。
  • Node.js: ドライバにより Buffer や Stream で扱う。MySQLやPostgres用のクライアントライブラリでストリーミングAPIを活用する。
  • ORM: ORMによってはBLOBの読み書きでメモリに取り込む実装のものもあるため、ドキュメントを確認してストリーム対応やLazy Fetchの有無を確認する。

WordPressでのBLOB利用についての実務アドバイス

WordPressでは通常メディアはファイルシステム(wp-content/uploads)に保存され、メタ情報はDB(wp_posts / wp_postmeta)で管理されます。WordPressの標準運用では大容量BLOBをDBに入れることは推奨されません。理由はメディア用の配信やCDN連携、バックアップ運用がファイルストレージベースで設計されているためです。

  • プラグインを用いてS3や他のオブジェクトストレージへメディアをオフロードする(例: WP Offload Media)。
  • どうしてもDBに格納する必要がある場合は、専用テーブルを用意し、ストリーミングや分割アップロードを組む。プラグインやコアの仕様変更に伴う整合性リスクを理解すること。

まとめ — いつBLOBを選び、どう運用するか

BLOBは「バイナリをデータベースで扱うための強力な手段」ですが、万能ではありません。小〜中規模のバイナリやトランザクションを重視するケースでは有効です。一方で大量のメディアや配信コンテンツはオブジェクトストレージ/ファイルシステム+CDNの構成が現実的かつ効率的です。いずれにせよ、サイズ制限・バックアップ・パフォーマンス・セキュリティを踏まえた設計と、ドライバ/DB固有の取り扱い(ストリームAPIや設定値の調整など)を確認することが重要です。

参考文献