レスター・ボウイを聴く:解説付きおすすめレコードで入門から深掘りまで

はじめに:レスター・ボウイとは

レスター・ボウイ(Lester Bowie)は20世紀アメリカのジャズ/アヴァンギャルド界を代表するトランペット奏者の一人です。AACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)やアート・アンサンブル・オブ・シカゴ(Art Ensemble of Chicago)の中心人物として、即興の冒険性とポップ/大衆音楽へのユーモアある接近を同時に体現しました。悲喜こもごもの表現、ミュートや拡張音色の多様な使用、そしてステージ・パフォーマンスにおける演劇性──これらがボウイの魅力です。

本コラムの目的

ここでは「レコード(アルバム)で聴くレスター・ボウイ」をテーマに、入門から深堀り向けまでのおすすめ作品を厳選して解説します。各作品の背景、聞きどころ、そしてボウイのプレイやアレンジの特徴に焦点を当て、初めてのリスナーにも分かりやすく案内します。

おすすめレコード一覧(解説付き)

Art Ensemble of Chicago — Les Stances à Sophie

概説:フランス映画のサウンドトラックとして制作されたアルバムで、アート・アンサンブルの演奏にボーカル(Fontella Bass ら)が加わる異色作です。アンサンブルのドラマ性と即興のエモーションが濃縮されています。

  • 聞きどころ:楽曲は劇的で場面転換が多く、ボウイのトランペットはソロとしてだけでなく「物語を語る」役割を担います。メロディのポップな要素と前衛的な即興が共存する点に注目してください。
  • ボウイの特徴:ときに軽やかに、またときに荒々しく、声や効果音的な奏法も交えて「俳優的」な表現をします。

Art Ensemble of Chicago — People in Sorrow

概説:長尺の一つの組曲に近い構成で、深く沈潜するような演奏が続くアルバムです。即興の集合体としてのアート・アンサンブルの真髄を感じられる重要作です。

  • 聞きどころ:音の呼吸、静寂と爆発の対比、各メンバーの役割分担(音響的オブジェクトの導入や非楽器的な効果)に耳を傾けると、ボウイの「声としてのトランペット」が際立ちます。
  • ボウイの特徴:叙情と絶叫の狭間を行き来するようなダイナミックなソロが印象的。音色の変化で感情のニュアンスを出す手法に注目。

Art Ensemble of Chicago — Fanfare for the Warriors

概説:大編成的な華やかさとアバンギャルドの実験精神が融合した、比較的聴きやすさもある名盤です。アンサンブルとしての厚みと個々の即興の切れ味がバランスよく配置されています。

  • 聞きどころ:ファンファーレ的フレーズやリズムの強調が多く、先導するトランペットの役割が明確な楽曲がいくつかあります。ボウイのブラス・ソロが「軍旗のように」立ち上がる瞬間を探してください。
  • ボウイの特徴:力強いトーンと対比的なユーモア表現。アンサンブル内での色付け役としての存在感が強いです。

Lester Bowie — The Great Pretender

概説:ボウイがリーダーとしてポップ/スタンダード曲を大胆に取り上げた作品群の代表格。「ポップをアヴァンギャルドに解釈する」という彼の美学がわかりやすく出たアルバムです。

  • 聞きどころ:ポップ/古典的なメロディが前面に出る一方、アレンジやソロで予想外の変形が施されます。元曲の輪郭を残しつつ「裏返す」感覚を楽しんでください。
  • ボウイの特徴:歌ものを演奏する際の「演技力」。トランペットでメロディを歌い、その直後に突如崩す、というドラマが魅力です。

Lester Bowie’s Brass Fantasy(プロジェクト) — 代表作群

概説:金管アンサンブル主体のプロジェクトで、ポップやソウル、R&Bなどを大胆なブラス編曲で提示します。いわば「ブラスによるポップ再構築」。曲選びのセンスと編曲力が際立ちます。

  • 聞きどころ:原曲のメロディをブラスでどう解体・再構築するか、そして即興がどのようにそこに介入するかを聴き比べてください。華やかさとアイロニーが混じった楽しさがあります。
  • ボウイの特徴:リーダー兼ソロ奏者としてのカリスマ。場面ごとに「コミカルな顔」も「凄味のある顔」も見せる、エンタテインメント性の高さが魅力です。

Lester Bowie — All the Magic(編集/ライブ寄せ集め的な音源)

概説:ボウイのさまざまな側面(即興、歌心、アレンジ志向)が詰まったコレクション的な聴きどころがあり、入門→中級者が彼の幅を理解するのに向きます。

  • 聞きどころ:多彩な編成と曲調の変化を通して、ボウイが場面に応じてどのように音色とフレーズを使い分けるかがよくわかります。
  • ボウイの特徴:一本筋の通った美意識(ポップと実験をつなぐ感覚)と、それを実現する柔軟な演奏技術が感じられます。

聞き方・聴き分けのポイント(演奏分析)

  • 音色のレイヤーを追う:ボウイはマウスピース、ミュート、唇の使い方で音色を大きく変えます。曲の中で音色が変化する瞬間に注目すると表情の変化が見えます。
  • ユーモアとシニカルさの両立:同じフレーズでもニヤリとするような「洒落」が混じることが多いので、メロディを文字どおり受け取るだけでなく、文脈(アレンジや他メンバーの反応)を含めて楽しむと深まります。
  • アンサンブル内の「間(ま)」:特にArt Ensemble のような編成では、沈黙や隙間を活かしたドラマ作りが行われます。ソロの歓喜だけでなく、すき間の扱いにも耳を傾けてください。
  • ポップ曲の扱い方:ポピュラー・ソースをどう「解体」し、「再構築」しているかを聞き分けることでボウイの思想が見えてきます。原曲知識があると対比が楽しめます。

入門〜深堀りの聴取順(おすすめルート)

  • 最初に:Les Stances à Sophie(アンサンブルの物語性を直感的に掴む)
  • 続いて:The Great Pretender(ボウイ単独のアプローチ、ポップ扱い)
  • 次に:Fanfare for the Warriors(アンサンブルのダイナミズム)
  • さらに:People in Sorrow(長尺の深い即興を体験)
  • 最後に:Brass Fantasy 系作品群(編曲における遊びと構築を味わう)

まとめ:レスター・ボウイを聴く意味

レスター・ボウイは「ジャンルの境界を笑顔で飛び越える」稀有な存在でした。凄まじい技術だけでなく、音楽における遊び心、演劇性、大衆音楽への敬意と皮肉が同居するため、聴き手は何度も新しい発見を得られます。ここで挙げたアルバム群は、その多面性を掴むための良い入口です。

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参考文献