コンポジットシンク(CSYNC)の基礎と実務応用:H/V同期を一信号に重ねる映像同期技術

コンポジットシンク(Composite Sync)とは何か

コンポジットシンク(Composite Sync、略称:CSYNC)は、映像システムにおける同期信号の一種で、水平同期(H-sync)と垂直同期(V-sync)を一つの信号線上に重畳して送る方式を指します。ここでいう「コンポジット」は「複合された」という意味で、映像情報(輝度や色差)を含む「コンポジットビデオ(CVBS)」とは区別されます。コンポジットシンクはあくまで同期パルスのみを扱い、映像成分は含みません。

同期信号の基本:なぜ必要か

テレビやモニタ、ビデオ機器は走査線の位置とフレームのタイミングを正確に揃える必要があります。水平同期(各走査線の開始)と垂直同期(フレーム/フィールドの開始)がずれると、映像が横にズレたり、フレームが乱れたりします。複数の機器を同じタイミングで動かす(例えば放送スタジオで複数のカメラを同期させる)場合、共通の同期信号でロック(genlock)する必要があります。コンポジットシンクは、この同期情報を単一の信号で伝える手段の一つです。

コンポジットシンクとコンポジットビデオの違い

  • コンポジットビデオ(CVBS):輝度(Y)と色差信号(C)、および同期パルスが合成された信号。家庭用アナログ映像(NTSC/PAL)で使用される。
  • コンポジットシンク(CSYNC):同期パルス(H+V)のみを含む信号。映像成分は含まず、モニタや機器の同期用途に使われる。

例えば、ある機器がCVBSから同期を取りたいだけであれば、映像成分から同期パルスを抽出(sync separator)してコンポジットシンク相当の信号を得ます。

技術的特徴と信号レベル

  • 信号形状:H-sync と V-sync を重ね合わせたパルス波形。SD(標準解像度)環境では「ビレベル(bi-level)同期」と呼ばれる二値的な同期が一般的。
  • 電圧レベル:プロフェッショナルな機器では1 Vpp(ピーク・ツー・ピーク、75Ω負荷)でアナログ伝送されることが多い。TTLレベル(0/5V)やCMOSレベルで扱う用途もあるため、機器間で整合が必要。
  • 極性:同期パルスの極性(負極性/正極性)は規格や機器によって異なる。たとえばNTSCの多くの実装では負極性の同期が使われる。
  • インピーダンス:伝送は75Ω同軸が標準。終端抵抗やカップリングに注意する必要がある。

用途:どこで使われるか

  • 放送・映像制作:複数機器(カメラ、ビデオサーバ、ミキサー等)を同じタイミングで動作させるための参照信号(ブラックバーストやハウスリファレンス)を構成する要素の一つ。
  • モニタリング:一部のモニタはH/Vの代わりにコンポジットシンクを入力として受け、同期を取ることができる。
  • 映像機器のインターフェース:古いビデオ機器や一部のプロ用機器では、別ピンでCSYNCを要求するケースがある(例:一部のグラフィック出力とディスプレイインターフェース)。
  • デジタル化・キャプチャ:ビデオキャプチャカードやFPGAでアナログ映像を取り込む際、同期信号を抽出してサンプリングとフレーム境界を決定する。

関連技術:同期分離、Sync-on-Green、Tri-level Sync

コンポジットシンクと関連する技術を理解することは重要です。

  • 同期分離器(Sync Separator):LM1881のような専用ICやディスクリート回路を使って、CVBSやRGB信号からH/V同期を抽出する。CVBSからは同期だけを抜き出してCSYNCを得ることが一般的です。
  • Sync-on-Green(SoG):H/V同期をグリーン(G)信号に重畳する方式。RGBケーブルのピン数を減らすためや一部の古いビデオカードで使われた。SoGはCSYNCとは異なり、同期パルスは色成分のチャンネルに埋め込まれる。
  • Tri-level Sync(3レベル同期):HD/HD-SDIなど高精度の同期に使われる方式で、0-crossingの高精度なタイミング(正負の3レベル)を持つ。プログレッシブHDなどで位相ノイズを減らす目的で用いられ、CSYNC(bi-level)より高精度が要求される場面で採用される。

実務上の注意点

  • インターフェース互換性の確認:ある機器がCSYNCを受け付けるか、別々のH/Vを要求するか、SoGに対応するかをマニュアルで確認してください。ピン割当や電圧レベルが合わないと同期できません。
  • 終端とインピーダンス整合:長いケーブルを用いる際は75Ωの終端を行う必要があります。不適切な終端は反射や波形歪みを引き起こします。
  • 極性の確認:負極性の同期を期待する機器に正極性のパルスを与えると同期が取れない場合があります。極性反転回路やバイアス調整で対応することがあります。
  • 配線距離とノイズ:同期信号はジッタやノイズに弱いため、短い同軸ケーブルや差動伝送(場合によって)を検討します。

コンポジットシンクの波形・タイミング(概略)

SD映像(NTSCやPAL)では水平走査や垂直同期が定められています。たとえばNTSCのライン周期は約63.56µs、水平同期パルス幅はおおむね4–5µs程度とされています。垂直同期は数ラインに渡る一連のパルスとイコライザーパルスで構成されます。コンポジットシンクはこれらのHおよびV同期を一つの波形に混在させるため、機器側でH/Vを再分離して内部クロックやフレーム境界に利用します。

デジタル時代における位置づけ

HD/デジタル放送の普及に伴い、三値(tri-level)同期やSDI(Serial Digital Interface)を用いた信号同期が主流になり、従来のアナログ的なCSYNCの出番は減っています。しかし放送局のSD→HD混在環境、レガシー機器の連携、ビンテージ機材を使うライブ制作など、CSYNCや同期分離の知識はいまだに重要です。また、FPGAや組み込み機器でアナログ映像を扱う趣味/プロジェクトでもCSYNCの取り扱いは頻出します。

実例:LM1881による同期分離

LM1881は広く利用される同期抽出ICの例で、CVBS信号から垂直同期と復帰用のパルスを取り出すことができます。低コストかつ簡便なため、DIYのビデオキャプチャやビデオ修復機器などでも用いられます。ただしLM1881の出力はTTL互換レベルのため、そのまま75Ω伝送で使う場合や他の機器に接続する場合はレベル変換やバッファが必要なことがあります。

まとめ

コンポジットシンクは、水平同期と垂直同期を一つの信号にまとめた同期方式で、主に映像機器のタイミング合わせやgenlockに用いられます。コンポジットビデオとは異なり映像成分を含まない点、SoGやtri-level syncなど類似・代替の同期方式との違いを理解することが重要です。現代ではデジタル同期(tri-level、SDI等)が主流ですが、レガシー機器や特定のワークフローでは未だに必要とされる知識です。

参考文献