Luc Ferrariとmusique concrèteの世界を探索する:初心者向けレコードの聴き方とおすすめ盤ガイド

はじめに — Luc Ferrari とレコードをめぐる魅力

リュック(Luc)・フェラーリ(1929–2005)は、フランスを拠点に“musique concrète”の系譜を継ぎつつ、フィールド録音、電子音、アンサンブル作品を自在に横断した作曲家です。日常音の断片を編集し「音楽」として再構成する手法、出演者や場所の「語り」を重ねるラジオ的手法、そして“ほとんど何も起きない”ことに美学を見いだす「Presque rien(ほとんど何も)」シリーズなど、現代音楽/実験音楽の聴き方を根本的に広げた点で特異な存在です。

Luc Ferrari を聴くための前提

  • 単純なメロディやリズムを期待するジャンルとは異なり、「場」の時間経過やノイズのテクスチャー、編集の語り口を楽しむ音楽です。
  • レコードは音像の質感や空気感を豊かに伝えるため、特にフィールド録音中心の作品では有効です(ただしマスタリングや盤の状態で印象は大きく変わります)。
  • 1曲が長大であること、あるいは断片のモザイクで構成されていることが多いため、繰り返し聴いて細部を掴むスタイルが向いています。

おすすめレコード(代表作・名盤)と聴きどころ

  • Presque rien — 「Presque rien(ほとんど何も)」シリーズ(特に「Le lever du jour au bord de la mer」)

    フェラーリを語るうえで外せない代表作。日常音や環境音をほとんど加工せずに配列し、劇的な事件は起こらないが時間の重なりや偶発が生むドラマを描きます。作品は“作曲”と“録音された現実”の境界を曖昧にし、聴き手の注意の移り変わり自体を音楽化します。

    聴きどころ:自然な間(silence)の扱い、場の移ろいを追う耳、声や機械音などが交差する瞬間の「意味づけ」。初めての人は一度通して聴いたあと、特定の区間にフォーカスして繰り返すと新しい発見があります。

  • ラジオ/音声ドキュメンタリー系の作品群(いわゆる「Anecdotiques」系の諸作品)

    フェラーリはラジオ的な編集(語り、声の断片、環境音のモンタージュ)を多用しました。これらは音楽と語りの境界を遊ぶものです。タイトルやリリース形態は複数あり、コンピレーションやアンソロジーにまとまっていることが多いので、編集盤を探すのが効率的です。

    聴きどころ:断片のつながり方、声の扱い(語り手の距離感)、編集の“ユーモア”や皮肉の効かせ方。

  • 初期〜中期の電子音/GRM系作品のアンソロジー(INA/GRM の復刻盤や編集盤)

    フェラーリはGRM(Groupe de Recherches Musicales)や電子音響の伝統とも繋がっています。GRM由来の短編、テープ操作や電子処理を前面に出した作品は、実験音楽的な側面を理解するうえで重要です。これらはしばしば資料的価値の高いアンソロジーでまとめられています。

    聴きどころ:テクスチュアの形成過程、素材の合成/編集技術、初期電子音響の時代感。

  • アンサンブル/室内楽作品(器楽的作品を中心とした盤)

    フェラーリは録音素材だけでなく、アンサンブル作品や楽器奏者との協働も多数残しました。そうした作品群は「演奏」やスコア/即興との関係を通じてフェラーリの別側面を見せてくれます。現代音楽寄りの演奏盤を選ぶと、音響的な配置や空間把握の妙を聴けます。

    聴きどころ:楽器音の扱いと環境音の接合、演奏家の発話的表現(非伝統的奏法やノイズの扱い)。

  • コンピレーション盤(“Selected Works/Anthology” 系)

    個別LPが入手困難な場合、複数の時期やジャンルを横断するアンソロジーが最も合理的です。フェラーリの多面的な作風(実験音響/フィールド録音/器楽)を短時間で把握できますし、注釈や研究者の解説を付けた再発盤は理解を助けます。

    聴きどころ:時期ごとの様式の変遷、同一素材の異なる編集観、批評的ライナー。

レコード選びの実務的なポイント(音質・版・選曲の見方)

  • 収録内容の確認:タイトルだけでなく、盤に収められている「個々のトラック」「実演の有無」「モノ/ステレオ表記」を確認。フィールド録音は盤によって編集版と原版で長さやフェードが異なる場合があります。
  • リマスター/再発盤の注釈:再発で音像がクリアになる反面、オリジナルの「空気感」が変わることもあります。リマスターの方針(イコライジング、ノイズリダクション)を確認しましょう。
  • ライナーノーツの価値:フェラーリの作品は文脈や制作背景を知ることで理解が深まるので、詳細な解説が付く盤(再発復刻盤やアンソロジー)を優先するのがおすすめです。
  • 盤の状態確認(中古を買う場合):フィールド録音系は微細なノイズやダイナミクスが重要なので、スクラッチやチリによる影響が大きくない良好なプレスを選びましょう。

深く聴くための具体的アプローチ

  • モード1 — 一気通貫で体験する:長時間の流れを最初は途切れさせずに聴き、作品がつくる「時間の進み方」を肌で感じる。
  • モード2 — 細部へ寄る:興味を引かれた区間を繰り返し、編集点や雑音の重なり、声の距離感を丹念に追う。
  • モード3 — 比較聴取:同じ作品のオリジナル盤とリマスター盤、あるいは別編集(ラジオ版 vs LP版)を比較し、編集が意味づけをどう変えるかを聴き比べる。
  • テキストと併走:ライナーノーツや作曲者の発言、批評を参照しながら聴くと、編集意図や社会的文脈が見えてきます。

「どの一枚から入るか?」 — 初心者に向けた提案

  • まずは「Presque rien」系を。フェラーリ体験としての「衝撃」と「理解の鍵」がここにあります。
  • 続いてアンソロジーで他の側面(電子音、器楽、ラジオ劇的作品)を俯瞰。複数ジャンルを横断することでフェラーリの全体像が掴めます。
  • その後、好きな作風(フィールド録音寄り/器楽寄り)に沿って単独盤のオリジナルや演奏盤を掘る、という流れが理想的です。

フェラーリのレコードを楽しむための心構え

彼の音楽は「静かな仕掛け」と「編集の余白」を楽しむものです。派手な展開や瞬間的なカタルシスを期待するより、音の断片が喚起する想像や時間の感覚の変化を味わうと深い満足が得られます。レコードというフォルムは、その「場の空気」を最も豊かに伝えるメディアのひとつです。

参考的な購入先・探し方(簡潔に)

  • 主要レコードショップの中古コーナー(現代音楽/実験音楽コーナー)
  • 再発・アンソロジーは Sub Rosa や INA/GRM 系の公式復刻をチェック
  • 大型配信/ストリーミングでまずは作品の感触を掴んでから、盤を探すのも効率的

まとめ

Luc Ferrari は「音を撮る・並べる・語る」ことで、音楽と日常の境界を揺さぶる作曲家です。まずは代表作である「Presque rien」を核に、アンソロジーや演奏盤で横断的に聞き進めることで、その全貌と細部の両方を楽しめます。レコードは音場や余白を伝える点で特に相性が良く、版選びやライナーの有無が理解を大きく助けます。深く聴き込むほどに新たな発見が積み上がる作家なので、焦らず何度も針を落としてみてください。

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参考文献