Laibach— NSKと儀式性が織り成す政治性と演劇性を探るスロベニアの異才

Laibachとは — 矛盾と演劇性が織りなすスロベニアの異才

Laibach(ライバッハ)は、1980年に旧ユーゴスラビア(現スロベニア)の鉱山町トルボヴリェで結成された音楽アンサンブル/アート・コレクティヴです。音楽的にはインダストリアル、マーチング、クラシック、エレクトロニカ、ロックなどを横断するサウンドを特徴とし、視覚的には軍服や儀式的な動線、全体主義的なモチーフを用いた演出で知られます。その表現は、プロパガンダや権威主義的なイメージを“借用”することで、見る側に解釈の不確定性(意図は賛美か風刺か)を突きつけるという高度に計算されたパフォーマンス・アートでもあります。

起源とNSK(ノイエ・スロヴェンスカ・クンスト)との関係

Laibachは単独の「バンド」に留まらず、同時代に活動した芸術集団ニュー・スロヴェニアン・クンスト(NSK)の一翼を担ってきました。NSKは音楽だけでなく演劇、ビジュアル、政治理論まで含む総合的な芸術プロジェクトで、国家・民族・権力のイメージ操作をテーマに据えています。Laibachの表現はNSKの思想と密接に結びつき、単なる音楽的実験を超えて「政治と芸術の境界」を問い続ける場となってきました。

音楽性と表現手法 — 鳴り響く儀式としてのサウンド

  • サウンドの多層性:

    Laibachはインダストリアルの打楽器的な強度、重厚なオーケストレーション、エレクトロニックな加工、コーラス的な合唱を組み合わせ、「儀式音楽」のような圧迫感と荘厳さをつくり出します。これにより聴覚的に「国家的/宗教的な儀式」を想起させることが多いです。

  • カバー/再解釈の技法:

    既存のポピュラーソングや国歌を大胆に再解釈することもLaibachの重要な手法です。原曲のメロディや歌詞を敢えて変形・再配列し、原義から剥ぎ取って別の文脈に置くことで、元の楽曲が持つ意味やイメージを再考させます。

  • 視覚と舞台演出:

    彼らのライブやプロモーションは、均一化された衣装、演出照明、映像などを用いた強烈な視覚体験を伴います。これにより「音」を超えた総合的なメッセージが生まれます。

主要メンバー(概略)

長年にわたりメンバーの入れ替わりやコラボレーションがあるため固定化は難しいですが、中心的な役割を果たしてきた人物としてはボーカリストのMilan Fras、音楽的中核のDejan Knez、そしてヴィジュアルやコンセプト面で重要なIvan "Jani" Novakらが挙げられます。彼らは個々の機能が有機的に結びつき、音楽と演劇性を統御してきました。

代表作・名盤(聴きどころと背景)

  • Nova Akropola(1986)

    初期の重要作であり、Laibachが持つ国家的・儀式的な美学が形を成し始めたアルバム。ポストパンク/インダストリアル色の強い音作りが特徴です。

  • Opus Dei(1987)

    国際流通で注目を集めた作品。クラシック的なアレンジとポップソングの再解釈が混ざり合い、議論を呼びながら彼らの国際的地位を確立しました。

  • Kapital(1992)

    冷戦後の時代感覚を反映した実験作。サウンドスケープの拡張とテーマ性の深化が見られます。

  • Volk(2006)

    「国家」と「国歌」を主題に据えたコンセプチュアルなアルバム。各国の国歌を素材にして再編した楽曲群は、ナショナリズムやアイデンティティの寓話として聴くことができます。

  • Spectre(2014)以降の活動

    より現代的なエレクトロニクスとプロダクションを取り入れ、従来の様式と新しい音響が融合した作品群を発表しています。また、北朝鮮での公演や映画音楽など活動領域を拡大しています。

代表曲(入門におすすめのトラック)

  • 「Geburt einer Nation」 — Laibachの典型的な再構築アプローチがわかる代表的トラックのひとつ。重厚なアレンジと儀式性が印象的です。

  • 「曲名はアルバム単位での再解釈に注目」 — Laibachは曲単位でもアルバム単位でも「意味の転置」を行うため、アルバム全体を通して聴くことでより深い理解が得られます。

論争と評価 — なぜ賛否が分かれるのか

Laibachの作品は一見すると全体主義を礼賛しているように見えるため、発足当初から「ファシズム礼賛」との非難を受けてきました。しかし彼らの立場は通常の政治的立場表明とは異なり、イメージのコピーと転用を通じて観客自身の解釈を誘発する“鏡”として機能することが多いです。これは芸術的戦術としての「無責任な肯定(affirmation)」とも言える手法で、受け手の熟練した読み替えを前提としています。そのため、意図の曖昧さが故に賛否両論が生じ、学術的・批評的な興味を引き続けています。

ライブ体験の特徴

  • 視覚と音の統合:衣装、照明、映像、声の質感すべてが統御された「儀式」体験を提供します。単なるコンサートを超えた演劇的な没入感が肝です。
  • 解釈の余地:観客に解釈を委ねる演出が多く、受け手の歴史認識や政治観によって受け取り方が大きく変わります。
  • 多様な編成:エレクトロ〜オーケストラ編成まで柔軟に編成を変え、場所やテーマに応じて異なる音響体験を作ります。

なぜ今聴くべきか — 現代との接点

グローバルなポピュリズムや国家主義の台頭、情報の操作が問題となっている現代において、Laibachの表現は「権力とイメージの操作」を可視化する強力なメディア批評となり得ます。彼らの手法は単純な左翼/右翼のラベリングでは測り切れない、メディア時代の政治イメージと受容について考えさせられる材料を与えてくれます。

聞き方のコツ(初めての人向け)

  • まずは上で挙げた代表アルバムを通して聴く。曲単位よりアルバム全体で世界観を掴むのが有効。
  • 映像(ライブ映像やMV)とセットで鑑賞すると、視覚と音がどのように結びついているかが理解しやすい。
  • 歌詞翻訳や批評記事を読み、背景文脈(旧ユーゴの歴史、NSKの思想など)を知ると多層的な解釈が楽しめる。

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参考文献