ポール・ロブソンの録音ガイド|多言語レパートリーと社会運動を伝える名盤の聴き方と選び方
はじめに — Paul Robeson を聴く意味
Paul Robeson(ポール・ロブソン、1898–1976)は、声楽家としての驚異的な低音と幅広いレパートリー、そして人種差別や労働運動に関わる社会的発言で知られるアーティストです。彼の録音は単なる「歌」の記録を超え、20世紀前半の政治・文化・移民・労働の文脈を伝える歴史資料としての価値も持ちます。本コラムでは、ロブソンの代表的なレコード/録音をピックアップして深掘りし、それぞれの聴きどころや選び方の観点から解説します。
ロブソンの音楽的特徴とレパートリーの広がり
声質と表現:豊かな低域(バス・バリトンに近い深い音色)と確かな発声法により、オペラ的表現から民謡・黒人霊歌(スピリチュアル)まで説得力を持って歌い分けます。
多言語録音:英語のみならず、ロシア民謡やドイツ語・フランス語の曲、ユダヤ民謡などもレパートリーに含め、多文化的な側面を示しました。
政治性と芸術性の両立:労働歌や社会的メッセージを持つ作品も多く歌っており、演奏そのものが政治的発言の手段となることがありました。
おすすめレコード(録音)と深掘り解説
1. 「Ol' Man River」 — ショウ・ボート関連の録音
聴きどころ:ロブソンの代表曲中の代表曲。ミュージカル『Show Boat』のナンバーで、彼の深い低音とドラマチックな語り口が強烈に表れる演奏です。歌詞の社会的意味(アフリカ系アメリカ人の労働と苦悩)とロブソンの人間的な表現が合わさり、聴く者に強い印象を残します。
選び方のポイント:原初のスタジオ録音(1920〜30年代のビクター盤)を元にした信頼できる復刻盤/デジタル収録を選ぶと当時の音色・歌い回しがより正確に伝わります。ただし当時の音源は技術的制約があるため、現代のリマスターでノイズ除去やEQ調整が入ったものも聴きやすいです。
2. 「The Song of the Volga Boatmen(ヴォルガ・ボートメンの歌)」
聴きどころ:ロシア民謡を取り上げたレパートリーの代表。重厚な低音で「労働歌」の感覚を出す表現は、彼のコンサート・レパートリーの中でも異彩を放ちます。ロブソンの声の物理的な迫力と民族性への敬意が伝わる録音です。
文化的文脈:この種の異国民謡を取り上げることで、ロブソンは自身の国際的な視座と、民衆音楽への関心を示しました。ソ連や労働運動と結びつけて語られることもありますが、音楽的には「大きな声で歌う民謡」として純粋に楽しめます。
3. 黒人霊歌(スピリチュアル)集 — 「Deep River」「Sometimes I Feel Like a Motherless Child」ほか
聴きどころ:ロブソンはスピリチュアルをコンサート・レパートリーとして取り上げ、クラシック的な発声と民衆的感情のバランスを取って歌いました。代表的な曲群は、彼の歌唱における「魂の深さ」や語るようなフレージングがよく分かります。
おすすめの聴き方:これらは単曲としても強いですが、スピリチュアル集としてまとまっている編集盤(ライナーノーツつき)を聴くと、曲間にある歴史的背景や編曲の違いを味わえます。
4. 労働歌・政治的レパートリー(例:「Joe Hill」など)
聴きどころ:ロブソンは歌手であると同時に政治的公共人でもあり、労働歌や国際主義を反映した曲を多数録音しました。そうした録音は音楽としての魅力に加え、20世紀前半の社会運動との結びつきを学ぶ資料ともなります。
文脈注記:政治的に敏感な時期(晩年のブラックリスト化など)には流通に制限が出た録音もあるため、後年の復刻でまとめて聴くのが現実的です。
5. コンサート/ライヴ録音 — スピーチを伴う記録
聴きどころ:ロブソンはコンサートで曲間に話すことが多く、その語り(スピーチ)から人柄や思想、当時の観衆との関係が伝わります。ライヴ盤やコンサート収録は、彼の「声」だけでなく「存在感」を体感するのに最適です。
おすすめ:スピーチやMCを含む音源を収録した盤を選ぶと、単なる歌唱の記録以上に歴史的な臨場感が得られます。
レコード選びの実務的アドバイス(音質・版の見極め)
信頼できる復刻レーベルを選ぶ:Naxos Historical、Smithsonian Folkways、Document Records、Archeophone、Major reissue labels(RCA/Columbia系の公式復刻)など、音源保全に定評のあるレーベルを優先するとよいです。
“Complete”や“Selected”の違い:網羅的に聴きたい場合は「Complete」系の編集(全集・年代順収録)を、代表曲だけ短時間で押さえたいなら「ベスト」/「The Essential」系を選ぶのが便利です。
ライナーノーツの有無:ロブソンのように歴史的背景が重要なアーティストは、充実した解説(録音年、共演者、社会的背景)が付いている盤を選ぶと理解が深まります。
原盤の情報をチェック:オリジナルのレーベル(Victor、Columbia など)と録音年代を確認すると、その録音がどの音響環境下で制作されたかが分かります。
聴きどころ・聴き比べの提案
同一曲の比較:例えば「Ol' Man River」を複数の録音(スタジオ録音とライブ、または別年の録音)で比べると、テンポ感・フレージング・感情表現の違いが見えて面白いです。
ジャンルの違いを横断:スピリチュアル、ロシア民謡、ミュージカル曲、労働歌など異なるジャンルを並べて聴くと、ロブソンの「声の柔軟性」が実感できます。
語り(スピーチ)に注目:録音の合間の語りは彼の思想とパフォーマンスの背景を示します。歌だけでなく語りの文脈を拾うことで理解が深まります。
まとめ — どの盤から聴くべきか
まずは代表曲(「Ol' Man River」「Deep River」「Sometimes I Feel Like a Motherless Child」「The Song of the Volga Boatmen」等)を収めた信頼できるベスト盤や、解説の充実したコンピレーションを一枚選ぶのがおすすめです。さらに興味が湧いたら、全録音集やライブ盤で時期ごとの変化やコンサートでの語りを追うと、ロブソンという人物と芸術の全貌が見えてきます。
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参考文献
- Wikipedia:ポール・ロブソン(日本語)
- Wikipedia:Paul Robeson(英語)
- AllMusic:Paul Robeson(ディスコグラフィーと解説)
- Discogs:Paul Robeson(詳細なリリース一覧)
- Smithsonian Folkways / Paul Robeson に関する資料


