ヘンリク・シェリングの聴くべき名盤ガイド:バッハから現代曲までの聴きどころと選び方
はじめに — ヘンリク・シェリングという名手
ヘンリク・シェリング(Henryk Szeryng, 1918–1988)は、ポーランド生まれでメキシコ国籍を持った名ヴァイオリニストです。端正で澄んだ音色、無駄のないフレージング、安定したイントネーションで知られ、バロックからロマン派、20世紀作品まで幅広いレパートリーを残しました。本稿では「聴く価値の高いレコード」に絞って、その聴きどころや選び方、各録音の魅力を深掘りします。
聴きどころの共通点:シェリングの演奏の特徴
- 音色の純度と弓遣いの明快さ:重厚さに頼らず、線の美しさで音楽を構築するタイプ。
- 無理のないテンポ感と歌わせ方:ロマン派でも過剰に感情表現を付けない、理知的で品のある表現。
- バロックから現代まで自然に渡るレパートリー感覚:バッハの対位法的把握や、ブラームスの構築的アプローチなど、作品ごとの「内部論理」を重視。
おすすめレコード(作品別に詳説)
1. ヨハン・セバスチャン・バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ
なぜ聴くか:シェリングのバッハ演奏は、音程の安定性とフレーズの明晰さが魅力。バッハ特有の対位法的なラインを輪郭よく示しつつ、過度にロマンティックにならないバランスが好評です。ソナタ第1番やパルティータ第2番の「シャコンヌ」など、表現の抑制が作品の構造美を際立たせます。
聴きどころメモ:
- 各声部の独立性をどう聴き取れるかに注目。特にポリフォニックな線(低音域の跳躍など)が明瞭に聴こえます。
- 速度よりも音の「輪郭」を重視した解釈で、反復やアーティキュレーションの違いを楽しめます。
2. ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
なぜ聴くか:シェリングのベートーヴェンは、ソロの歌い口と協奏曲全体のスケール感の両立が特徴です。華美さに逃げず、古典的な均衡を保ちながら深い表現を示します。特に第1楽章の主題提示や第2楽章の静謐さは聴きどころです。
聴きどころメモ:
- 第一主題の提示での音の平衡感、伴奏(オーケストラ)との呼吸合わせを注意して聴くと、演奏の良さがよく分かります。
- ロマン的解釈ではなく「古典的な構築」を尊重するタイプの演奏です。併聴することで解釈の違いを比較できます。
3. ブラームス:ヴァイオリン協奏曲
なぜ聴くか:ブラームスは技術と深い音楽性が求められる難曲ですが、シェリングはその重量感と繊細さを両立して演奏します。特に第3楽章のリズム感、第1楽章の厳格さと歌心のバランスが魅力のポイントです。
聴きどころメモ:
- 旋律の歌わせ方に注目。激しさではなく内面の熱を静かに伝えるタイプの解釈です。
- オーケストラとの音量バランス、カデンツァの構造処理を確認すると、シェリングの解釈の骨格が見えてきます。
4. エドゥアール・ラロ:スペイン交響曲(Symphonie espagnole)
なぜ聴くか:この作品ではヴァイオリニストの色彩感覚とリズム感が試されます。シェリングは過度に情熱的になるのではなく、リズムと音色の鮮やかさでスペイン的な味わいを表現するため、作品本来の華やかさと品格が同居した演奏になります。
聴きどころメモ:
- 舞曲的パッセージの切れ味、装飾の明快さに注目すると、シェリングの工夫が分かります。
- エネルギーの見せ方が技巧ではなくフレーズのデザインに根ざしている点が魅力です。
5. 現代作品・民族色のある作品(メキシコやラテンの作品含む)
なぜ聴くか:シェリングはメキシコの音楽文化と深いつながりがあり、ラテン系・近現代作品の録音も残しています。ヴァイオリンの色彩感を生かしたレパートリーの扱い方は、クラシック標準曲とは違った魅力を提供します。
聴きどころメモ:
- 旋律線の歌わせ方、リズムに対する身体感覚の出し方が良い参考になります。
- 欧米古典にはない語法をヴァイオリンでどう翻訳しているかを比較すると発見があります。
どの盤(版)を選ぶか:初級〜上級リスナーへの指針
レコード(LP)やCDで選ぶ際の大枠のガイドライン:
- まずは「代表録音」をストリーミングやコンピレーションで聴いてみる:シェリングの個性を素早く掴めます。
- 全集ボックスやアーティスト・セレクションCDは入門用に便利:名演の抜粋を高音質でまとめていることが多いです。
- 特定の作品に深く入りたい場合は、オリジナル録音(LP時代の初出)やリマスター盤を比較してみてください。音質で印象がかなり変わることがあります。
- 全集やボックスを買う際は、収録年と録音条件(モノラル/ステレオ、リマスターの有無)を確認することをおすすめします。
聴き比べの楽しみ方(具体的な聴取ポイント)
- 同一作品を他の名ヴァイオリニスト(例:ハイフェッツ、ミルスタイン、メニューインなど)と聴き比べ、テンポ感・音色の差異を確かめる。
- シェリングの「沈黙の瞬間」や間(ま)を意識する:言葉に例えれば“語尾”や“息づかい”が彼の特徴を表します。
- オーケストラとの掛け合い、カデンツァ処理、装飾の扱いに注目すると、その演奏の思想(伝統尊重か革新志向か)が見えてきます。
まとめ:シェリング盤を聴く価値
ヘンリク・シェリングは「過度な個性の演出」を避け、曲そのものの構造や歌を際立たせるタイプの名手です。バッハの対位法的明晰さ、ベートーヴェンやブラームスにおける古典的均衡、ラテン系作品での色彩感――これらを均整の取れた音で聴かせてくれます。まずは代表的な協奏曲や無伴奏曲から入り、気に入ったら全集や個別の録音で深掘りすると良いでしょう。
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参考文献
- Henryk Szeryng — Wikipedia
- Henryk Szeryng — Discogs(ディスコグラフィ)
- Henryk Szeryng — AllMusic(アーティストページ)
- Gramophone(検索結果:Henryk Szeryng)


