コード進行の完全ガイド:和声機能・定番進行・ボイスリーディングを身につける実践と応用
はじめに — コード進行とは何か
コード進行(コードプログレッション)は、和音(コード)が時間的につながるパターンのことを指します。メロディーとリズムと並んで音楽の骨格を作る重要な要素であり、楽曲の感情、テンションの生成と解放、曲構成の方向性を決定づけます。ポップ、ロック、ジャズ、クラシック、ブルースなどジャンルごとに好まれる進行やテクニックがあり、理解すると作曲・編曲・演奏の幅が大きく広がります。
和声機能の基礎(トニック・ドミナント・サブドミナント)
西洋音楽の機能和声(functional harmony)は大きく三つの機能に分けられます。
- トニック(T):安定と休止(例:I、vi).
- サブドミナント(S):動きを作る準備(例:IV、ii)。
- ドミナント(D):緊張を生み、トニックへ解決を促す(例:V、vii°)。
多くの進行は「S → D → T」の流れで緊張と解決を作ります。ローマ数字表記(I, ii, iii, IV, V, vi, vii°)はキーに依存した機能理解を助けます。
代表的なコード進行(ジャンル別の定番)
以下は実用的でよく耳にする進行とその特徴です。
- I–IV–V(例:C–F–G):最も基本的な進行。シンプルで力強く民謡やロックで多用されます。
- ii–V–I(例:Dm7–G7–Cmaj7):ジャズの中心的進行。Vのドミナント機能を強調して確実にトニックへ導きます。
- I–vi–IV–V(例:C–Am–F–G):50s進行やポップスで頻出。親しみやすい感情の流れを生みます。
- vi–IV–I–V(例:Am–F–C–G):「ポップ・プログレッション」として現代ヒット曲に多く登場。
- 12小節ブルース(I–I–I–I–IV–IV–I–I–V–IV–I–V):ブルースの骨格。ペンタトニック/ブルーススケールとの組合せで強いグルーヴを作ります。
- Pachelbel進行(I–V–vi–iii–IV–I–IV–V):バロック由来でポップでも派生形が多用されます。
サークル・オブ・フィフス(五度圏)の活用
五度圏は調の近さやコードの機能を視覚的に示すツールで、近接調へのモジュレーションやドミナントの連続(V→Iの連鎖)を理解するのに有用です。例えば、C→G→Dと進むのは五度上へ進む連続で、強い方向性を持ちます。
進行を豊かにするテクニック
以下はコード進行を深めるための主要テクニックです。
- セカンダリードミナント(Secondary Dominant):目的のコードに対する一時的なドミナントを挿入する(例:CキーでA7はV/ii)。解決感を強め、線的な動きを作り出します。
- モーダル・インターチェンジ(借用和音):同主音の別モード(例:CメジャーにCmやbVIIなどを借用)から和音を借りて色彩を加えます。ポップスや印象派的表現で有効。
- クロマティック・メディアント:半音・大きな音程で関係の薄い和音を挿入してドラマを作る(例:C→E♭→A♭など)。ロックや映画音楽で多用。
- トライトーン・サブスティチューション:Vをその平行トライトーン(例:D7の代わりにA♭7)で置換し、ベースラインやテンションを変化させます。ジャズで特に効果的。
- パッシング/ネイバーチャード(経過和音・隣接和音):滑らかな進行のために経過的に挿入する短い和音。ベースラインの階段状移動と組み合わせます。
カデンツ(終止形)の種類と役割
楽曲の区切りやフレーズの終わりで使われるカデンツは、進行の「解決感」を決めます。
- 完全終止(完了終止 / Perfect Authentic Cadence, PAC):V → I(主要三和音のルートと3度が正しい配置)。最も強い終止感。
- 不完全終止(Imperfect Authentic Cadence):V → I だが配置や音が違うためやや弱い終止。
- プラガル終止(Plagal Cadence):IV → I(「アーメン終止」)。柔らかな終止。
- 半終止(Half Cadence):何か → V。中間的で次へつなぐ効果。
- 偽終止(Deceptive Cadence):V → vi(期待を裏切る終止、感情の転換を演出)。
ボイスリーディングとベースラインの重要性
コード進行は単に和音の羅列ではなく、個々の声部(特にベース)の動きで印象が大きく変わります。以下のポイントを押さえると進行が自然になります。
- 共通音を保持すると滑らかなつながりに聞こえる(例:C→AmはEが共通音)。
- ベースラインを段階的に動かす(歩きベース)は進行に線を与える。
- 転回形(1st、2nd inversion)を活用するとベースの動きや和声の色合いを変えられる。
ジャンル別の応用例(簡単な分析付き)
実例とその解説を見て、理論を実践に落とし込みます。
- ポップ(例:C–G–Am–F):I–V–vi–IV の循環。親しみやすい進行でサビに高い耳馴染みがある。トニック(C)への戻りが自然で、メロディーが上昇するとサビ感が増す。
- ジャズ(例:Dm7–G7–Cmaj7–A7):ii–V–I に続けて A7(V/ii)が入るパターン。セカンダリードミナントが導入され、次のフレーズへ強い推進力を与える。
- ブルース(12小節):IのオンパレードにIVとVがタイミング良く現れ、ブルース・スケールを用いたリフや即興と相性が良い。
リハーモナイズ(再和声化)の実践テクニック
既存のメロディーに新しいコードを当てはめることで曲の表情を変えられます。よく使われる手法:
- 元のコードの「近親和音」へ置換(例:C → Am / Em)。
- セカンダリードミナントで強調したい和音に向かわせる。
- モーダル・インターチェンジで色彩を変える(メジャー曲にマイナーivを入れるなど)。
- トライトーン代替でVを別のドミナントに置き換える(ジャズ的な雰囲気)。
作曲・編曲の実践的ヒント
作曲する際のステップと注意点を簡潔に示します。
- まずキー(トニック)を決め、基本の機能(T, S, D)のバランスを考える。
- シンプルな進行(I–V–vi–IVなど)から始め、必要に応じてスパイス(セカンダリー、借用和音)を加える。
- メロディーが和音の重要な音(3度や7度)に触れるよう調整すると和声と密に結びつく。
- リズムやストレッティング(コードを刻む/伸ばす)で同じ進行でも印象が変わる。
- 反復と変化のバランスを取る:繰り返しでキャッチーさを作り、差異で興味を持続させる。
練習課題(実践で身につける)
習得のための具体的な練習をいくつか挙げます。
- キーを変えながら I–IV–V を弾き、各音域でのベースの動きを確認する。
- ii–V–I を全調で練習し、トライトーン代替(例:D7 → A♭7)を試す。
- 既存のポップ曲のコードを見て、モーダル・インターチェンジやセカンダリードミナントを入れてリハーモナイズする。
- 12小節ブルースを即興でソロして、和音へのアプローチ(ターゲットノート)を意識する。
よくある間違い・注意点
- 「複雑=良い」は誤り。曲の文脈に合ったシンプルさが重要。
- 借用和音やクロマティックな和音を多用しすぎると調性感が不明瞭になる場合がある。
- 理論に固執しすぎると創造性が損なわれる。ルールはガイドラインとして捉える。
まとめ
コード進行は音楽の言語であり、機能和声の理解、代表的進行の習熟、モーダル借用やセカンダリーの使い分け、ボイスリーディングの配慮によって豊かに表現できます。まずは基本の進行を身体で覚え、少しずつ応用(ジャズのii–V–Iやトライトーン代替、ポップのリハーモナイズなど)を加えることで独自の音世界が広がります。
参考文献
以下はこの記事で触れた概念をさらに深めるための参考資料です。クリックして参照してください。
- MusicTheory.net — 基礎から応用までのオンライン教材
- Teoria — 和声・進行の解説とインタラクティブ教材
- Wikipedia — Chord progression
- Wikipedia — Functional harmony
- Wikipedia — Secondary dominant
- Wikipedia — Modal interchange
- Wikipedia — Circle of fifths
- Wikipedia — Tritone substitution
- Wikipedia — Turnaround (music)
- Wikipedia — 12-bar blues
- Berklee Online — 音楽理論と和声に関する教材(Berklee)
- Wikipedia — Voice leading
- Wikipedia — Chord substitution
- Mark Levine — The Jazz Theory Book(ジャズ理論の代表的参考書)
- Walter Piston — Harmony(クラシック和声学の定番)


