タムのすべて:構造・音色・チューニングから演奏テクニック・レコーディング・購入ポイントまでの完全ガイド

タムとは — ドラムセットにおける“メロディの要素”

タム(tom、一般に「タムタム」「タムドラム」とも呼ばれる)は、スネアやバスドラムと並ぶドラムセットの主要構成要素の一つで、胴体(シェル)に打面(バッターヘッド)と共鳴面(レゾナントヘッド)を備えた打楽器です。スネアのようなスナッピー(スナッパー)はなく、音程感のあるピッチと余韻(サスティン)を持つため、フィルやフレーズでメロディ的に使われることが多いのが特徴です。

起源と名称(簡潔な概説)

「tom-tom(タムタム)」という名称の起源は完全に確立されていませんが、英語圏での呼称は18世紀〜19世紀にかけて定着しました。西洋のドラムセットに組み込まれる形での「タム」は、軍隊や舞台音楽用の大型太鼓から進化し、録音技術とロックの発展に伴って現代的なセットアップへと発展しました(出典:Tom-tom - Wikipedia、ドラムメーカー各社の歴史資料)。

構造と素材

  • シェル(胴体):木製(メイプル、バーチ、オーク、ブナなど)や金属(スチール、ブラス、アルミ)や合成材が使われます。材質と厚み、プライ数が音色(温かさ、倍音、アタック、サスティン)に大きく影響します。一般的にメイプルは温かくバランスの良い倍音、バーチは低域の強調と明瞭なアタックが得られるとされます。
  • ヘッド:バッターヘッド(上面)とレゾナントヘッド(下面)。シングルプライ(例:Remo Ambassador)とダブルプライ(例:Remo Emperor)で耐久性と音色が変わります。コーテッドとアンコーテッドでサウンドの質感も変化します。
  • フープとラグ:フープ(テンションをかける輪)やテンションロッド、ラグ、ベアリングエッジ(ヘッドが当たるシェル端部の形状)などのパーツがチューニングの安定性や共鳴に影響します。
  • マウント方式:バスドラムマウント、スタンドマウント、ラックに固定するタイプ、フロアタムは通常脚で支持。最近のサスペンションマウント(シェル振動を妨げない)方式は音の伸びを良くします。

サイズと種類

タムは用途やジャンルによって多様なサイズが存在します。一般的な分類は以下の通りです。

  • ラックタム(Mounted tom):バスドラムやスタンドに取り付けられる小〜中型タム。一般的な直径は8", 10", 12", 13"など。
  • フロアタム(Floor tom):脚で床に立てる大型タム。一般的に14", 16", 18"が多く、16"がロックでは標準的。
  • ピッコロタム / ユーロタム:直径が小さく浅い深さのタム(6"〜8"など)で、鋭く短い音が特徴。ポップ、ファンク系でアクセントに使われる。
  • エクゾチック/巨大タム:20"前後の大型タムや特注サイズもあり、特殊な低音やサウンドデザインに使用されます。

サイズ(直径)と深さ(シェルの深さ)の組み合わせにより「ピッチ感」「アタック」「サスティン」が決まります。深めのシェルは低域とサスティンが増し、浅めはアタックが早く切れる傾向があります。

チューニングとサウンドデザイン

タムのチューニングは音色の核です。基本的なポイントは以下の通りです。

  • バッターヘッド(上)とレゾナントヘッド(下)の張力関係でピッチやハーモニクス(倍音構造)を作る。両方を近いピッチに揃えると明確で長いサスティンが得られる。レゾナントをやや緩くすると短くタイトな音になる。
  • ヘッドの種類(シングル/ダブルプライ、コーテッド/アンコーテッド)で倍音やアタック感が変わる。ロックでよく使われるのはダブルプライのエンペラー系、ジャズではシングルプライのアンバサダー系が好まれることが多い。
  • ムッフリング(ダンピング)で余計な倍音や過度なサスティンを抑える。手法はモーングル(Moongel)などのゲル、テープ、フェルトリング、内部マフラー、あるいはヘッドの外周にリング状のドーナツスポンジを置くなど多様。
  • チューニングツール:耳を頼りにするのが基本だが、Tune-Botのような電子チューナーを使うとピッチの整合が容易。複数タムを音程的に階段(例えば5度や4度)に合わせるとメロディックなフィルが作りやすい。

演奏テクニックと役割

タムはリズムの“色付け”と“推進力”を担います。主な使い方とテクニック:

  • フィル(fills):小節の終わりやフレーズの切替で使う。手順や順序(上下に走らせる、交差(linear)パターン、両手交互のロール)で表情を変える。
  • メロディック・アプローチ:複数タムのピッチを音階的に配置し、メロディのように叩く手法。ジャズやフュージョン、プログレッシブ系でよく使われる。
  • ダイナミクス:強打でパンチのあるアタック、ブラシやマレットを用いた柔らかいトーンなど、奏法で性格を大きく変えられる。
  • 特殊奏法:リムショット、スナップ、ブラシ、マレット使用、手で叩く(アコースティック表現)など。

ジャンル別のタムの使われ方

  • ロック/ハードロック:深めで低めにチューニングされたタムを大きなダイナミクスで使用。John Bonhamに代表される重厚なサウンドが有名。
  • ジャズ:小さめでピッチが高めのタムが好まれ、シンバルと組み合わせて軽やかなフレーズを作る。Tony WilliamsやElvin Jonesのアプローチが影響力大。
  • フュージョン/プログレッシブ:多タム編成でメロディック/テクニカルなフィルを多用。
  • ポップ/R&B:コンパクトなタムセットにミュート/ダンピングを施し、短く抜けの良いサウンドで楽曲に合わせる。

レコーディングとマイキングの基礎

タムの録音では「アタック」と「ボディ」をどう捕えるかが重要です。基本的な手法:

  • ダイナミックマイク(例:Sennheiser MD 421、Shure SM57、Audix D2)をバッターヘッド付近、斜めに向けて設置。マイク先端からヘッドまでの距離は2〜5cm程度が一般的(ジャンル・好みにより調整)。
  • 位相やトリガーの観点からオーバーヘッドやルームマイクと組合せる。ルームでの反射を利用してサスティン感を加える。
  • EQの目安:低域(80–200Hz)でパンチ、300–800Hzでボックス感を調整、5kHz付近で打撃のアタックを強調。ゲートやコンプレッサーで余計なブリードを抑えることが多い(出典:Sound On Sound、Shure、Modern Drummerの記事)。

メンテナンスと寿命

  • ヘッドの張り・割れ点検:打痕やヘッドの伸びは音色悪化のサイン。使用頻度によるが、激しく叩くドラマーは数週間〜数ヶ月で交換する場合あり。
  • テンションロッド、ラグの緩みチェック:定期的にドラムキーで均等に締める。ラグのネジ山部分は清掃・潤滑すると安定性向上。
  • シェルの保管:極端な温湿度変化を避ける。木材は収縮・膨張でベアリングエッジに影響が出る。

購入のポイントとセッティングの考え方

セット選びやタム導入の際の実務的ポイント:

  • 目的(スタジオ、ライブ、ジャンル)を明確にする。ライブ主体なら耐久性と汎用性、スタジオなら音質やキャラクター重視。
  • タムの数・サイズのバランス:一般的な3点セット(バスドラム+2タム+フロアタム)か、2タム+フロアというシンプル構成が汎用性が高い。多タムは音域管理とチューニングの手間が増える。
  • マウント方式の互換性:既存のスタンドやラックと合うか、サスペンションマウントか直接取り付けかで音が変わる。
  • ブランドとコスト:Yamaha、Tama、Pearl、DW、Ludwigなど各社に音の特徴と価格帯がある。実際に試奏してシェル材とヘッドの組合せを確認するのが最も確実。

有名なドラマーとタム・サウンドの例

  • John Bonham(Led Zeppelin)— 低く太いタムサウンドと巨大なバスドラムでロックにおけるタムの可能性を示した。代表作:「When the Levee Breaks」など。
  • Neil Peart(Rush)— 多数のタムを用いた複雑でメロディックなフィルが特徴。ライブでの多彩な配置とチューニング管理も有名。
  • Tony Williams、Elvin Jones(ジャズ)— ライドやスネアと同列にタムを使い、フレーズの色彩を増やした先駆的プレイヤー。

まとめ

タムはドラムセットの中で「音程」と「表情」を担う重要な要素です。素材、サイズ、ヘッド、チューニング、マイキング、そして奏法のすべてが音に直結します。ジャンルや楽曲に合わせて適切にチューニングし、ムッフリングやマイキングを工夫することで、楽曲に合ったタムの存在感を最大化できます。購入時は試奏と目的の明確化、日々のメンテナンスを心がけることが良いサウンドの近道です。

参考文献