レガートとは何か?定義・記譜法・楽器別の実践テクニックと練習法

レガートとは何か — 定義と記譜法

レガート(legato)はイタリア語で「つなぐ」を意味し、音楽では「滑らかに連続して演奏すること」を指します。具体的には各音の間に明確な切れ目や隙間(無音の断絶)が感じられないように音をつなぎ、ひとつの流れとしてフレーズを表現する技法です。

記譜上は、主に次のような表現で示されます。

  • スラー(slur):音符の上または下に架かる曲線。スラー内の音を切れ目なく演奏する指示。
  • 「legato」や「leg.」という文字指示:より明示的に滑らかに、という指示。
  • テンユート(tenuto:短横線)やレガティッシモ(legatissimo:さらに滑らかに)など、補助的に用いられる記号。

スラーとフレーズマークの違い

スラーは技術的な「つなぎ」の指示で、弦楽器・管楽器では一つの弓や一息で演奏すべき範囲を示すことが多いです。一方でフレーズマークはもっと広い音楽的まとまり(フレーズ)を示すことがあり、必ずしも「一息で」や「一弓で」という厳密な技術指示ではありません。楽器や時代、作曲家の意図によって解釈が変わるため、楽譜と様式を照らし合わせることが重要です。

各楽器・声楽におけるレガートの実現方法

レガートの「聴感」は同じでも、実現方法は楽器ごとに異なります。以下に主要な楽器別のポイントをまとめます。

ピアノ

  • 鍵盤は打鍵後に音色がすぐ減衰するため、レガートは指の置き換え(フィンガー・レガート)とペダル(サステイン=ダンパー・ペダル、半踏み)を組み合わせて作ります。
  • フィンガー・レガート:次の音に指を素早く重ねる、あるいは指を入れ替えることで音のつながりを作る。特に片手で大きな跳躍があるときに有効。
  • ペダル:和音や流れるラインの持続に使う。全踏み(フル・ペダル)では響きが濁ることがあるので、半踏みやタイミングを合わせた「ペダリング技法(部分的リリース)」が重要。

弦楽器(ヴァイオリン・チェロ等)

  • 弓の運動(ボウイング)と左手の指使いが鍵。スラーがかかっている場合は基本的に同一弓で演奏し、弓圧・弓速・弓幅を整えて滑らかな音の連続を作ります。
  • フレーズの頂点やポジション移動(シフト)では左手の音を少し重ねる(指の重なり)ことで音を途切れさせない。
  • 弓換え(リボウ)の際は微妙に緩急をつけて音が切れないようにする練習が必要。

木管楽器・金管楽器

  • 基本は「息」と「舌(タンギング)」のコントロール。レガートでは舌による攻撃(タング)を控えめにし、支えられた空気流で音をつなぎます。
  • スラーでつながる場合、通常は舌を使わず指だけで音程を切り替える(リップや指孔でのスラー)。特にトランペットなどはリップ・レガート(唇の使い方)も重要。
  • フレーズを一息で歌い切れない場合、緩やかなバーブレーションやスピーチ的に一瞬のブレスを使って自然に接続する技術も使われます。

声楽(歌)

  • 声のレガートは呼吸(ブレス)と支え(ブレッシング)、そして母音の均一性が中心。母音の形を変えずに次の音に滑らかに移行することが重要です。
  • 喉で音を切る(グロッタル・ストップ)ことを避け、横隔膜と腹筋の支えで一定の空気圧を保ちます。
  • 言葉のアクセントや語尾の処理もレガート感に影響するため、テキストの意味に合わせて呼吸とフレージングを計画します。

ギター(クラシック・エレキ)

  • クラシックギターでは左手のハンマリング・オン、プリング・オフ、レガート・スライド等で音をつなぎます。右手の指弾きも滑らかさに寄与。
  • エレキギターではハンマリング/プリング・オフやレガート奏法、さらにエフェクト(リバーブ、スロー・アタックのシンセ)を用いて連続感を出すことが多いです。

関連用語の整理:ポルタメント、ポルタート、テヌート

レガートと似ているが異なる用語がいくつかあります。混同しないように定義を押さえておきましょう。

  • ポルタメント(portamento):音と音の間を滑らかに「滑る」こと。特に声や弦で隣接しない音程間を滑らかにつなぐ技法で、装飾的に用いることが多い。
  • ポルタート(portato、mezzo-staccato):スラーで括りながらも軽い抜き(点や小線)を付けることで、短く区切りながらもまとまりを保つ弾き方。
  • テヌート(tenuto):音を通常より長めに、しっかり支えて演奏する指示。レガートと組み合わせることで音の重みを感じさせる。

演奏解釈と表現—単なる「つなぎ」ではない

レガートは単に音を切らないことだけではありません。フレーズの方向性、呼吸や呼吸感、音色の変化、ダイナミクスの流れを用いて「歌う」ことが肝要です。たとえばピアノでのレガートはペダルで長く響かせるだけでは機械的になりがちで、指ごとの音のニュアンス(アタックの強さ、微妙な音色変化)を調整して歌うように仕上げる必要があります。

練習法と具体的エクササイズ

実践的な練習をいくつか紹介します。どの楽器でも「ゆっくり」「意識的に」「反復する」ことが基本です。

  • スケールのレガート練習:ゆっくりとしたテンポで、各音を均一に接続する。弦楽器ではスラーをかけて一弓で弾く練習、ピアノでは指替えを確実にする練習。
  • 半テンポ、半脈動でのフレージング:フレーズごとに小さなクレシェンド/デクレシェンドをつけて歌わせる。
  • 呼吸の計画:声楽・管楽器はどこでブレスを取るかを楽譜の前から計画し、短い休みをフレーズの自然な区切りに合わせる。
  • 録音してチェック:自分のレガートが途切れていないか、音色の変化は自然かを客観的に聴く。
  • 楽曲に即した練習:ショパンやドビュッシーの旋律を使い、“歌う”ことを意識して練習する(例:ショパンのノクターン)。

スタイル別の留意点

時代やジャンルによってレガートの扱いは変わります。バロックでは通奏低音やアーティキュレーションに厳密な慣習があり、モダンなロマン派以降の「歌う」レガートとは異なる解釈が必要です。またジャズやポピュラーでは、敢えて微妙な切れやスライドを入れることで個性的なフレージングを作ることが多く、純粋なクラシック的レガートとは一線を画します。

よくある誤解と注意点

  • 「ペダルを踏めばそれはレガートである」:ペダルは有効な道具ですが、ペダル任せにするとフレーズの輪郭や音楽的な呼吸が失われます。
  • 「レガート=全て同じ音量」:滑らかさは音量の均一性だけではなく、表情(強弱の流れ)によっても表されます。
  • 「スラー=必ず一息/一弓」:作曲家や時代、楽器の事情で解釈が異なる場合があります。原典や演奏慣習を参照しましょう。

実際の作品とレガートの扱い(例)

実際の楽曲でレガートがどう活かされるかを見ると学びが深まります。例:

  • ショパン(ノクターン):ピアノの歌うようなメロディーがレガートで表現される典型。ペダルと指使いの併用で歌わせる。
  • モーツァルトのアリア:古典派的なフレーズ感。過剰なポルタメントは避け、均整の取れたレガートが求められる。
  • ドビュッシー(前奏曲等):色彩的なサウンドと微妙なペダリングで滑らかな響きを作る。音色の変化を重視。
  • ジャズ・サックス:舌を最低限にして息でつなぎ、フレーズの語り口(スイング感やブルージーなニュアンス)を表現。

まとめ:レガートは「技術」と「表現」の橋渡し

レガートは単なる技術的指示ではなく、フレーズを「歌わせる」ための根幹的な表現手段です。楽器ごとの物理的制約を理解し、呼吸・弓・指・舌・ペダルなどの要素を意図的にコントロールすることで、初めて音楽的なレガートが生まれます。楽曲の様式と作曲家の意図を踏まえつつ、多様な練習法を繰り返して自分なりの「滑らかな語り口」を築いてください。

参考文献