コード理論を徹底解説:構成・機能・応用テクニックと実践アレンジ法
はじめに:コードとは何か
音楽における「コード(和音)」は、同時に鳴る複数の音の集合で、ハーモニー(和声)を形成します。メロディーに対して和音が与える色彩や進行が楽曲の感情や方向性を決定します。本コラムでは、コードの基礎から高度な応用(テンション、借用和音、転調、ボイシング、ギター/ピアノでの実践)まで、理論と実例を交えて詳述します。
1. コードの基本構造
コードは一般に「根音(ルート)」「3度」「5度」を基礎に組み立てられます。ここからメジャー/マイナーの判定や7th、9th、11thなどの拡張が生まれます。
- トライアド(三和音): 例)C(C E G)→メジャー、Cm(C Eb G)→マイナー、Cdim(C Eb Gb)→ディミニッシュ
- 7thコード: 例)C7(C E G Bb)→ドミナント7th、CM7/Cmaj7(C E G B)→メジャー7th
- 拡張(テンション): 9th, 11th, 13th はオクターブ上の音を含む色彩音。例)C9(C E G Bb D)
2. 表記と読み方
コード記号は根音+種別(M, m, 7, maj7, dim, aug, sus, add, sus2/sus4 など)で表します。スラッシュコード(例:C/G)はベース音を明示する表記で、ベースを変えることで和音の機能や声部構成を変化させられます。
3. ローマ数字と機能和声(ダイアトニック)
ダイアトニック(調内)の和音はローマ数字で表記され、機能(トニック T、サブドミナント S、ドミナント D)を示します。Cメジャーのダイアトニック・コード例:
- I = C(C E G)
- ii = Dm(D F A)
- iii = Em(E G B)
- IV = F(F A C)
- V = G(G B D)
- vi = Am(A C E)
- vii° = Bdim(B D F)
進行の典型例:ii-V-I(ジャズ)、I-vi-ii-V(ポップ/スタンダード)、I-IV-V(ブルース/ロック)など。
4. 二次ドミナントと代理和音
二次ドミナント(V/Vなど)は、ある和音を一時的に支配するドミナントを導入して動きを強めます。例:CメジャーでD7(V/ii)がiiへ解決する。代理和音とは機能が似ているが異なる和音で、トライトーン代理(Tritone substitution)はドミナントの代理として使われます。例:G7の代理はDb7。(G7 の B–F のトライトーンは Db7 の F–C のトライトーンに等価)
5. 借用和音(モーダルインターチェンジ)
同じ根音でも平行調やモードから和音を借用して色彩を変える手法です。CメジャーでCm(bIII)やEb(bVI)などを使うと、より哀愁やドラマを与えられます。ポップスや映画音楽で多用されます。
6. ボイシングとアレンジ
ボイシング(和声配置)は同じコードでも印象を大きく変えます。開放ボイシング(広い間隔)やクローズドボイシング(密な間隔)、テンションの配置(ベースから遠い位置に置く)など、目的によって使い分けます。
- ピアノでは左手でルート&5度、右手で3度&7度やテンションを配置するのが基本。
- ギターではバレーコード、ハイコード、スラッシュコードを使って音域やベースラインを操作。
- ポップ編曲ではサスペンデッド(sus4)やadd9で透明感を出すことが多い。
7. 声部進行(ボイスリーディング)の原則
各声部(ソプラノ、アルト、テノール、バス)が滑らかに動くことが良い和声を書く鍵です。共通音を維持しつつ最小移動で次和音へ進行させると自然な流れになります。例:C(C E G)→Am(A C E)はCとEが共通音で、GがAに1音移動するだけ。
8. モードとコード・スケールの関係
各コードは特定のスケール(モード)と密接に関連します。例:Dm7はドリアン、G7はミクソリディアン、CM7はイオニアン(メジャー)と結びつきます。ジャズではコードに合わせたスケール選択(スケール・セレクション)が即興ソロの基盤になります。
9. ジャンル別のコード運用
ジャンルによって典型的なコード進行やテンションの使い方が異なります。
- ジャズ:豊富なテンション、II-V-I、代替ドミナント、モーダル進行
- ロック/ポップ:シンプルなトライアド、パワーコード(5度のみ)、ストローク主体の進行
- ブルース:12小節進行、ブルーノートとドミナント7thの多用
- 映画音楽/アンビエント:拡張和音(add9, sus2/4, 11th, 13th)をゆったり配置して色彩を作る
10. 実践テクニックと作曲のためのヒント
- 耳トレ:トライアドの音を聞き分け、進行を耳コピーする習慣をつける。
- リハーモナイズ:既存のメロディーに対して別のコードを当ててみる(二次ドミナント、借用和音、サブスティチューション)
- テンションの取り扱い:テンションは3度や7度と競合しない位置に置く。必要ならテンションを省略してシンプルに。
- MIDI/DAWではピッチベンドやモジュレーションで和声音色を動的に変えると現代的な表現が可能。
11. 分析の実例(短い例)
曲のイントロ例:Cmaj7 | Am7 | Dm7 G7 | Cmaj7 これはI — vi — ii — V の循環で、ジャズ・バラードやポップの落ち着いたブリッジでよく使われる。二次ドミナントを加えると:Cmaj7 | A7 | Dm7 | G7 | Cmaj7(A7がV/iiとしてiiを導く)
12. 楽器別の注意点
ギターでは開放弦やバレーで音域制約があるため、ボイシングを工夫する。ピアノでは両手の分担で低音を支えつつ右手でテンションを置くと効率的。編曲ではベースがルートを強調する場合とライン的に動く場合で和声感が変わる。
まとめ:コード理解のステップ
- 三和音と7thの構造を理解する
- ダイアトニックとローマ数字で機能を把握する
- ボイシング、テンション、リハーモナイズを実践で試す
- 耳で進行を聞き取り、分析する習慣をつける
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参考文献
- Chord (music) — Wikipedia
- MusicTheory.net — 基礎理論と演習
- Functional harmony — Wikipedia
- Secondary dominant — Wikipedia
- Tritone substitution — Wikipedia
- Modal interchange — Wikipedia
- Mark Levine — The Jazz Theory Book(参照文献)
- Kostka & Payne — Tonal Harmony(教科書)
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