和声法を徹底解説:機能和声から近現代和声までの理論と実践ガイド

はじめに — 和声法とは何か

和声法(和声学、harmonics/harmony)は、同時に鳴る複数の音(和音)とそれらの進行、そして和音間の機能や動き(解決・緊張など)を体系化して扱う学問です。西洋音楽のクラシック(特に17世紀以降の和声体系)を中心に体系化されてきた概念ですが、近現代の作曲技法やジャズ、ポピュラー音楽にも応用できる普遍的な知見を含みます。本稿では、基本概念から実践上の注意点、さらには20世紀以降の拡張和声まで、体系的かつ実践的に解説します。

基本要素:音程・和音の構成

和声法の出発点は音程(interval)と和音(chord)の理解です。三和音(トライアド)は根音から長(または短)の3度を重ねたもので、長三和音(長3度+完全5度)、短三和音(短3度+完全5度)、減三和音(短3度+減5度)、増三和音(長3度+増5度)に分類されます。四和音では第7音を加えることで、属七(V7)や半減七、完全減七などが生まれ、機能的な引力が強化されます。

ローマ数字分析と機能和声

ローマ数字分析(Roman numeral analysis)は和音を調のスケール度で表し、和音の機能(T:Tonic・主、P:Predominant・下属、D:Dominant・属)を明示します。例えば、ト長調(G major)でG(I)は主音、C(IV)は下属、D(V)は属です。機能和声の核心は、属和音(V→I)の強い解決志向にあり、属和音は次第音(leading tone)を含むことで主音へ向かう力を持ちます。

進行とカデンツ(Cadence)

カデンツはフレーズ終止を示す和声的な骨格で、代表的なものに完全終止(V→I)、半終止(~→V)、斜終止/プラガル終止(IV→I:いわゆる〈アーメン〉終止)などがあります。クラシック音楽では、終止形は楽曲構成の安定性を決める重要な要素です。カデンツの前に現れる下属和音や属和音の分岐・変化(例えばV/V=二次属)により、緊張と解決の色が変化します。

声部書法(Voice-leading)の原則

和声法は単に和音の列ではなく、各声部(ソプラノ、アルト、テナー、バス)が滑らかに動くことを重視します。基本原則をまとめると:

  • 平行5度・平行8度を避ける(声部間の独立性を保つため)。
  • 最小移動(最短距離の音程移動)を選ぶ(滑らかな旋律線を保つ)。
  • 属七(V7)の7度は下行し、導音(3度の音)は上行して主音に解決することが望ましい。
  • 三和音の倍音・音域配分(ダブリング)のルール:根音の倍音は安定。第一反転(6)では第三音の倍音に注意、完全和音では根音を通常ダブルする。
  • 四声体では音域の均衡、同声部間の間隔(上声部同士は通常8度以内)を保つ。

分散和音と低音記号(通奏低音・figured bass)

通奏低音(バッソ・コンティヌオ)とフィギュアード・ベースはバロック期の和声実践で中心的手法でした。低音に対する度数記号で和音構成を示し、演奏者が即興的に和音を補完します。現代の和声解析では、フィギュアード・ベースの考え方は、転回形(6, 6/4, 7など)の理解に直結します。

二次的和音(Applied chords)と借用和音(Modal mixture)

・二次属(V/Vなど): 調の役割を一時的に借りて他の和音へ向かう手法。例えばI→V/V→V→Iは属の機能を強める常套句です。
・借用和音(モーダル・ミクスチャー):平行短調・平行長調から和音を借用することで色彩を加える。例:I(長調)に対して♭VIや♭IIIを使うとやや暗い響きが生じます。

特異な和音:ネアポリタン、増6和音、減7

・ネアポリタン(♭II6)は主に第一転回形で用いられ、柔らかな半終止的効果や属へ向かう準備に使われます。
・増六和音(イタリア、フランス、ドイツ型)は、ドミナントへ強い解決圧をかける特殊和音で、増6度の不協和が解決時に強い期待感を生みます。解決規則に従い、特にドイツ式は転換時に並行五度に注意する必要があります。
・完全減七(fully diminished 7th)は全て短3度で重なる四和音で、変ロ長(多くの場所)での解決や転調の媒介として非常に便利です。

転調とモジュレーション

転調は調性の移動で、ピボット・コード(共通和音)を介した自然な転調、直接転調(突然の調性変更)、間接的(順次的)転調などの手法があります。近接調(五度圏で近い調)への転調はスムーズで、遠隔調への移行には二次属や増七、並行短調の借用がよく用いられます。旋律・低音の共通音を用いると違和感が少なくなります。

非和声音(非和声音・装飾音)と機能

隣接音、通過音、付点的音、前打音、経過和音などの非和声音は、和声進行を滑らかにし、テンポラルな緊張を作ります。和声分析では非和声音を正確に区別して、和音の「骨格」を見極めることが重要です。

近現代の和声的拡張

19世紀末以降、ロマン派から印象派、20世紀にかけて和声法は拡張されました。代表的な技法:

  • テンションとテンション・リゾルブ(9th, 11th, 13th):ジャズや近代クラシックで三和音にテンションを積むことで色彩を拡張。
  • 四度積み(quartal harmony)・五度積み(quintal harmony):三度積み(tertian)に依存しない新たな和声進行。
  • 音列技法・12音技法や非機能和声(atonality):調性の枠を超える手法で、和声の機能性が相対化されます。
  • 平行移動(planing):和声を並行移動させることで、機能的解決を無視した色彩的効果を生む(ドビュッシーなど)。
  • ポリトーナリティ(polytonality)・ポリコード:同時に複数の調を重ねる。

教育的アプローチと練習法

実践的に和声を身につけるには、以下の順序と練習が有効です:

  • 音程とトライアド・第7の聞き取り訓練(耳トレ)。
  • 四声体の練習:基本進行(I-IV-V-I, vi-IV-V-Iなど)を四声で書く。
  • 通奏低音のリダクション作業:バロック曲を抜き書きして和音を認識する。
  • 分析演習:モーツァルトやベートーヴェンの楽曲をローマ数字で分析し、機能・声部書法を検証。
  • 近現代曲の分析:ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキーの和声処理を比較する。

実務上の注意点と現代的配慮

和声法のルールはあくまで「記述」と「推奨」です。歴史的文脈により作曲技法は変化し、規則の破り方も学習すべきスキルです。現代の作曲や編曲では、ジャンル固有の慣習(ジャズのテンション使用、ポップスのコード進行の簡略化など)を尊重しつつ、クラシック和声の声部書法を応用することで透明で強固なアレンジが可能になります。

まとめ:和声法の本質と応用

和声法は、和音の構造・進行・機能・声部の動きを系統的に理解するためのツールセットです。基礎(トライアド、指導音、機能和声、声部書法)を押さえたうえで、増六和音、二次属、転調などの拡張技法を学べば、古典から現代まで幅広い音楽に対応できます。和声学の学習は、演奏・作曲・編曲のいずれにも即効性のある技能を提供します。

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参考文献