ラウドネス処理の全解説:メーター、規格、配信対策とマスタリング実践

はじめに — ラウドネス処理とは何か

ラウドネス処理(loudness processing)は、音声・音楽作品の主観的な“聞こえの大きさ”を測定・調整し、再生環境や配信プラットフォーム間での音量差を抑えるための一連の手法を指します。単なるピーク(瞬時の最大レベル)制御ではなく、人間の聴感特性に基づいた測定(LUFS/LKFSなど)と、それに基づくノーマライズやダイナミクス調整が含まれます。近年、ストリーミングサービスや放送局がラウドネス基準を採用したため、制作段階での正しいラウドネス処理が必須になっています。

ラウドネスの基礎知識:単位とメーター

主に使われる単位と用語:

  • LU / LUFS / LKFS:LUはLoudness Unit、LUFS(Loudness Units relative to Full Scale)/LKFS(Loudness, K-weighted, relative to Full Scale)は実際のラウドネス値を示します。LUFSとLKFSは実質的に同義に使われます。
  • Integrated(統合ラウドネス):トラック全体を一定のアルゴリズムで評価した平均ラウドネス。放送や配信のターゲット比較に使われます。
  • Short-term / Momentary:短時間(3秒など)や瞬間(400msなど)のラウドネスで、ダイナミクスやピークの挙動を把握するのに有用です。
  • True Peak(真のピーク):サンプル再構成後に発生する可能性のあるピーク値。デジタルピーク(0 dBFS)を超えたインターサンプルピークが問題となるため、True Peakの監視と制御が重要です。
  • LRA(Loudness Range):音量変動の幅を示す指標で、ダイナミクス量の目安になります。

測定規格:ITU・EBU・AESの要点

主要なラウドネス測定・正規化規格は以下です。これらはK-weightingフィルタとゲーティングを含む測定法を定めています。

  • ITU-R BS.1770:ラウドネス測定の国際標準で、KウェイティングとTrue Peakの概念を採用。複数の改訂があり、現在の実務ではBS.1770-4相当のアルゴリズムが基盤になっています。
  • EBU R128:欧州放送連合のガイドライン。統合ラウドネス目標を-23 LUFS(放送向け)と定め、ラウドネスレンジ(LRA)やゲーティングの詳細も示します。
  • AESおよびその他ガイドライン:放送や映画向けの追加ガイドやTrue Peak規定を補完します。

ストリーミング/放送の実務目標値(概略)

プラットフォームごとにターゲットが異なります。代表的な目安:

  • Spotify:おおむね-14 LUFS(ノーマライズされる設定がデフォルト)。True Peakは概ね-1 dBTPの目安が安全。
  • YouTube:プラットフォームにより変動しますが、目安は約-13〜-14 LUFS。True Peakは-1 dBTP前後が推奨されることが多いです。
  • Apple Music / iTunes(Sound Check):伝統的にiTunes Sound Checkは-16 LUFS前後の基準が参照されることが多い。
  • Netflix(映像配信/放送基準):番組制作向けに厳格で、ダイアログ中心のターゲットは-27 LKFS(±2 LU)など、True Peak最大値は-2 dBTPを求められるケースが多い。
  • 放送(EBU):ヨーロッパ放送の基準は-23 LUFS。

注意:プラットフォームは内部ポリシーを更新するため、配信前に各サービスの最新ドキュメントを参照してください。

ラウドネスノーマライズの挙動とその影響

ラウドネスノーマライズは、楽曲ごとの統合ラウドネス値に基づいて再生レベルを調整します。結果として:

  • 過度にラウドネスを上げたマスターは再生時にゲインを下げられ、ダイナミクスの損失は改善されます(=“ラウドネス戦争”の終焉を促す)。
  • プラットフォームによってはTrue Peakやフォーマットに基づく再エンコードでインターサンプルピークが発生するため、マスター側でのTrue Peak管理が重要です。
  • ノーマライズ設定をオフにできるユーザーもいるため、極端にラウドにするのはリスク(音質劣化、クリッピング、リプレイの差)があります。

実践的なラウドネス処理ワークフロー

制作〜マスタリングで考慮すべきステップ:

  • 1) ミックス段階でのゲイン構造の最適化:各トラックのレベルを整え、最終バスでの余裕を確保(通常-6〜-12 dB FSのヘッドルーム)。
  • 2) ラウドネスメーターでのチェック:ミックス時にShort-termやIntegratedを確認し、ターゲットに近づける。曲間やフェードも影響するため注意。
  • 3) マスタリングでの統合ラウドネス調整:リミッター/マキシマイザーで統合ラウドネス目標に到達させる。真のピークを監視し、インターサンプルピーク回避のためにTrue Peakリミッティングを使用。
  • 4) ノーマライズを前提としたダイナミクス設計:プラットフォーム目標に合わせ、LRAを残すか圧縮で潰すかを判断。
  • 5) 複数フォーマットでのチェック:ストリーミング向けAAC/Opus、放送向けコーデック再エンコード後のラウドネスとTrue Peakを確認。

よく使われるプラグインとツール

主要なメーター・処理ツール:

  • Youlean Loudness Meter(無料/有料):LUFS測定で人気。
  • NUGEN VisLM, NUGEN MasterCheck:放送・配信対応の検証ツール。
  • iZotope Insight:視覚的なメータリングとTrue Peak。
  • Waves WLM, FabFilter Pro-L:高性能リミッター/メーター。
  • DAW内蔵メーター:Logic、Pro Tools、Cubase等はLUFS計測機能を備えることが増えています。

マスタリングの具体的なテクニック

・ラウドネスに到達するために直列で過度なリミッティングを行うのではなく、マルチバンドコンプレッションやトランジェント形成で音像を整えてから最終リミッターに入れる。
・True Peakは必ず監視し、ストリーミング向けは-1〜-2 dBTP程度のマージンを確保する。
・LRAを残したいジャンル(クラシック、ジャズ等)は統合ラウドネスをターゲットに合わせつつ、ダイナミクスを保持するために過度な圧縮を避ける。
・音量の知覚は周波数やスペクトルにも依存するため、低域の処理(サブベース)によってLUFSが上がりやすい点に注意する。

配信前のチェックポイント

  • 各プラットフォームの最新ルール確認(ノーマライズの有無、ターゲット値、True Peak要件)。
  • 異なるリスニング環境(スマホ、PC、AV)での聞こえを確認。聴感上のバランスが崩れていないかチェック。
  • 複数フォーマット(WAV 24bit/44.1kHzなど)でのTrue Peak測定。リサンプリングによるピーク変化に注意。

よくある誤解と落とし穴

  • 「LUFSが高ければ良い音」ではない:高LUFSを目指すとダイナミクスが失われ、長期的には楽曲の魅力を損なう場合がある。
  • ピークだけの管理は不十分:0 dBFSに余裕があっても主観的にうるさく感じることがあるため、LUFSでの評価が必要。
  • メーター依存の危険:アルゴリズムやゲーティングの違いで数値が変わるため、複数ツールでクロスチェックするのが安全。

ライブ配信や放送での注意点

ライブではリアルタイムでラウドネス管理を行う必要があります。自動利得制御(AGC)は会話の明瞭性を保つ一方で、ノイズや突発音を過度に持ち上げるリスクがあるため、ゲートやコンプの設定を慎重に行う必要があります。放送ではEBU R128の遵守や番組ごとのダイアログレベル管理が求められます。

まとめ — 制作現場での実践的アドバイス

ラウドネス処理は単なる数値あわせではなく、作品のダイナミクス、ジャンル特性、再生環境を総合的に考慮する工程です。重要なのは:

  • 制作段階からラウドネスメータを常時見ること。
  • プラットフォームごとのターゲットを理解し、True Peakに余裕を持たせたマスターを作ること。
  • 必要以上のラウドネス競争に巻き込まれず、音楽的なダイナミクスを優先すること。

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参考文献