ジェルメーヌ・タイユフェール — レ・シス唯一の女性作曲家が紡いだ軽やかな近現代フランス音楽
はじめに — 近代フランス音楽の忘れられた才人
ジェルメーヌ・タイユフェール(Germaine Tailleferre、1892年‑1983年)は、20世紀フランス音楽のなかでしばしば語られる〈レ・シス(Les Six)〉のただ一人の女性作曲家として知られます。彼女の名は時にグループの華やかさに隠れがちですが、明快なライン、リズミカルな機知、室内的で親密な色彩感を併せ持つ作品群は、今日あらためて再評価されています。本コラムでは、彼女の生涯、作風、代表作、そして現代における受容までを、出来る限り事実確認に基づいて詳細に掘り下げます。
生涯の概観
ジェルメーヌ・タイユフェールはフルネームをマルセル・ジェルメーヌ・タイユフェス(Marcelle Germaine Taillefesse)として生まれ、後にプロの場でタイユフェール(Tailleferre)を名乗るようになりました。1892年にフランスの郊外で生まれ、パリの音楽院(コンセルヴァトワール)で学び、ピアノや和声・作曲の基礎を身につけます。20世紀初頭のパリは新しい感覚や前衛的芸術が集積する場であり、ジャン・コクトーやエリック・サティらと接点を持つことで、のちのレ・シス形成へとつながっていきます。
「レ・シス」は、プーランク、ミヨー、オネゲル、オーリック、デュレおよびタイユフェールの6人を指す呼称で、詩人や評論家たちが作り上げた文化的な枠組みの中で注目を集めました。タイユフェールはこのグループの唯一の女性であり、彼女の存在は当時の音楽界における性別の壁を象徴的に示すものでもありました。
作風と作曲技法 — 簡潔さと明晰さの美学
タイユフェールの音楽は、一般にネオクラシシズムの系譜に位置づけられることが多く、透明で軽快なテクスチャ、短いモティーフの巧みな連結、景色を切り取るような色彩感が特徴です。複雑さを追求するよりも、旋律線と和声のバランス、そしてリズムの生き生きとした運動感を重視する傾向があります。
また、彼女の作品には室内楽的な親密さや、歌心に満ちた小品の美しさが多く見られます。声楽曲やピアノ曲、弦楽器を中心とした室内作品においては、歌詞やテキストに対する細やかな配慮と、舞台的あるいは舞踊的な緩急が備わっています。加えて、映画音楽や舞台音楽にも取り組み、実用的かつ表現的な音楽制作能力を示しました。
代表的な作品群(ジャンル別)
タイユフェールは多彩なジャンルで作品を残しました。以下はジャンルごとの概観です。
- 室内楽:ピアノを含む小編成の作品が多く、フルートやヴァイオリンなどとの組合せによるソナタや小品群が知られています。
- 鍵盤作品:ソロ・ピアノ曲は軽やかな短品から技巧的な曲まで幅があります。ピアノは彼女の主要な創作媒体の一つでした。
- 声楽曲:歌曲や合唱曲も多数を占め、フランス語の詩に即した抒情性と語りの自然さが特徴です。
- 舞台・映画音楽:バレエや映画のための音楽を手がけ、劇的場面に即した色彩的な書法を用いました。
- オーケストラ作品:交響的な大作は少なめですが、管弦楽のための小品や協奏曲的作品などを残しています。
同時代との関係性 — コクトー、サティ、そして仲間たち
20世紀前半のパリは、作家・画家・音楽家が密接に交流する場でした。タイユフェールはジャン・コクトーやエリック・サティらと芸術的に関わり、また同じ「レ・シス」の作曲家たちとも共同のプロジェクトや上演で関係を築きました。グループのメンバーそれぞれが異なる個性を持ちながらも、当時の前衛的(あるいは反浪漫的)志向を共有していたことが、彼女の音楽にも反映されています。
評価の変遷と現代の再評価
タイユフェールの音楽は、生前から一定の評価を得ていましたが、20世紀後半になると女性作曲家全般の作品が埋もれがちになったこと、さらにはレパートリーとしての普及が限定的であったことから、長く広い認知を欠いていました。しかし近年、音楽学や演奏界で女性作曲家の発掘・再評価が進む中、タイユフェールの作品もCD録音やコンサートで再び注目されるようになっています。彼女の小品に見られるメロディの魅力や器楽的な色彩感は、現代の聴衆にも十分訴求力を持ちます。
聴きどころ — 初めて聴く人への案内
初めてタイユフェールを聴く場合は、以下の点に注目すると理解が深まります。まず、旋律の自然な歌いまわしと短い主題の巧みな展開。次に、楽器編成の「対話」を重視した書法。たとえばピアノと管楽器、あるいは声と少人数アンサンブルの間で交わされる呼吸を感じてください。さらに、リズムの躍動とユーモア、そして時に垣間見える哀感も彼女の魅力です。
研究と資料 — 現状と課題
タイユフェールに関する資料は散在しており、全集的な編集や近年の包括的研究はまだ限定的です。自筆譜や出版譜の整理、初稿と改訂稿の比較、個人的書簡や日記などの一次資料の公開が、今後の評価にとって重要になります。日本語での専門的研究も増えつつあり、演奏者・研究者双方の取り組みが鍵となります。
まとめ — 軽やかさの中に潜む芯
ジェルメーヌ・タイユフェールは、レ・シスという歴史的枠組みの中でしばしば語られてきましたが、その音楽はグループ外でも独自の価値を持っています。明晰で歌心ある抒情、室内楽的なきめ細かさ、舞台的応答性――これらは彼女の作品を今日においても魅力的にしています。聴き手・研究者・演奏家がさらに関心を寄せることで、今後一層その評価は深まるでしょう。
エバープレイの中古レコード通販ショップ
エバープレイでは中古レコードのオンライン販売を行っております。
是非一度ご覧ください。

また、レコードの宅配買取も行っております。
ダンボールにレコードを詰めて宅配業者を待つだけで簡単にレコードが売れちゃいます。
是非ご利用ください。
https://everplay.jp/delivery
参考文献
- Britannica: Germaine Tailleferre
- Wikipedia: Germaine Tailleferre
- IMSLP: Germaine Tailleferre(楽譜・作品目録)
- Naxos: Germaine Tailleferre(バイオグラフィーと録音紹介)
投稿者プロフィール
最新の投稿
カメラ2025.12.23単焦点レンズ徹底ガイド:特徴・選び方・撮影テクニックとおすすめ
カメラ2025.12.23写真機材ガイド:カメラ・レンズ選びから運用・メンテナンスまでの完全解説
カメラ2025.12.23交換レンズ完全ガイド:種類・選び方・性能解説と実践テクニック
カメラ2025.12.23モノクロ写真の魅力と技術──歴史・機材・表現・現像まで深堀りガイド

