作曲家ボフスラフ・マルティヌー:生涯・作品・聴きどころを徹底解説
ボフスラフ・マルティヌー(Bohuslav Martinů)──概観
ボフスラフ・マルティヌー(Bohuslav Martinů)は20世紀のチェコ出身の作曲家で、国民的な旋律性とモダニズムの技法を融合させた独自の音楽語法で知られます。生年は19世紀の末から20世紀中頃にかけて活動し、多岐にわたるジャンル(交響曲、協奏曲、室内楽、オペラ、声楽曲、バレエ音楽など)にわたる膨大な作品を残しました。彼の音楽は民族性と国際性が共存し、リズムの活力、豊かな色彩感、親しみやすい歌謡性を特徴とします。
生涯の概略と創作の段階
マルティヌーはチェコの小都市ポリチカ(Polička)出身で、地方の音楽環境の中で育ちました。若い頃は地元で演奏活動や働きをしつつ独学で作曲を始め、その後プラハやパリの音楽界と接触することで作風が大きく広がっていきます。1920年代にはパリで暮らし、フランスの前衛的な潮流やネオクラシシズムの影響を受けつつ、チェコ的な旋律とリズム感を保ち続けました。
第二次世界大戦の勃発を受け、マルティヌーはアメリカへ亡命します(1940年代初頭)。アメリカ滞在期には国際的な評価が高まり、交響曲や協奏曲、映画音楽の機会なども得ました。戦後は再びヨーロッパで活動し、晩年はスイスに定住してより内省的で濃密な作品を残しました。
作風の特徴
- リズムと推進力:マルティヌーはリズム的な躍動感と複雑なアクセントの扱いに長け、しばしば跳躍感あるモーター的な推進を音楽に与えます。
- 旋律性と民謡的要素:チェコ民謡に根ざした素朴で歌いやすい旋律が、モダンな和声や対位法と結びつくことで独特の暖かさを生みます。
- 和声と言語感:純粋な調性を離れる場面があっても、モード的な感覚や古典的な対位法の手法を取り入れ、透明で輪郭のはっきりした和声処理を行います。
- 色彩的なオーケストレーション:楽器編成や独特の組合せによる鮮やかな色彩感覚が特徴で、精緻な音響効果をよく用います。
- 形式の自由さ:ネオクラシックな均衡感と即興的な自由さが同居し、伝統的形式を参照しつつ柔軟に展開させます。
代表作とその聴きどころ
マルティヌーの作品は多数ありますが、特に注目されるものをいくつか挙げ、聴きどころを示します。
- オペラ『ユリエッタ(Julietta)』:夢と現実の境界を扱う心理的な作品で、繊細な歌の流れと幻想的なオーケストレーションが魅力。劇的なドラマと音楽的描写が見事に融合しています。
- 交響曲(特に第3番など):戦時下・亡命期に書かれた交響曲群は、悲哀と希望、力強さと叙情が混在したスケール感ある作品群です。第3番は劇的な起伏と透明な楽想の対比が特徴です。
- 『二つの弦楽合奏とピアノとティンパニのための協奏曲(Double Concerto)』:二つの弦楽群を対話させる実験的な編成で、空間感と対位的な効果が音楽の中心にあります。リズムと色彩の妙を楽しめます。
- 室内楽と独奏曲:チェロ、ヴァイオリン、ピアノのための作品群は、緊密な対話、詩的なメロディ、技巧的な要求が同居します。小編成での鮮やかな表現が際立ちます。
- 声楽作品:チェコ語の詩や宗教的テキストを用いた歌曲や合唱曲には、深い抒情と同時に簡潔な表現の美しさがあり、言語感覚と音楽の結び付きが強く感じられます。
鑑賞のポイントと演奏の留意点
聴く際のポイントとしては、まず〈歌〉の要素に注意してください。マルティヌーの音楽は旋律を大切にする一方、リズム的なアクセントや、しばしば不規則に揺らぐ拍感が作品の個性を形づくります。演奏においては、透明な音色を保ちながらも推進力を失わないこと、そして各声部の対話を明瞭にすることが求められます。
また、彼の作品はしばしば〈チェコ的〉な要素と国際的なモダニズムの折衷であるため、民族色を過度に強調するのではなく、普遍的な音楽語法としてのバランスを取ると良い演奏になります。
録音と入門盤のおすすめ
- チェコのレーベル(Supraphon)はマルティヌー全集や代表作の優れた演奏を多数残しており、音楽の文脈をつかむには最適です。
- Naxosやハイペリオンなどの国際レーベルも良質な録音を出しており、手頃に入手できる全集や選集があるため入門者にもおすすめです。
- 指揮者ではラファエル・クーベリック(Rafael Kubelík)らチェコ系の指揮者の録音が、民族性と国際性のバランスに優れていると評価されます。
後世への影響と評価
マルティヌーは生前から国際的な評価を受けましたが、戦後の冷戦期には(チェコの政治的事情も関係して)評価の変動がありました。近年は再評価が進み、彼の交響曲やオペラ、室内楽がコンサート・レパートリーに戻りつつあります。現代作曲家や演奏家には、民謡的要素とモダニズムを自然に統合した点が評価され、教育現場でも研究対象として注目されています。
作曲技法の掘り下げ(幾つかの視点)
- モードと民謡の融合:純粋な民謡そのものを引用するよりは、旋法的な要素や簡潔な歌謡線を作品の骨格に取り入れることで〈チェコらしさ〉を示します。
- モチーフの展開:短いリズムや断片的なモチーフを巧みに組み合わせ、対位法的に発展させることでダイナミックな形成力を持たせます。
- 色彩的配置:木管やハープ、打楽器を特徴的に配置し、箇所ごとの色彩対比で劇的効果や詩的効果を作り出します。
聴きどころ:入門的な聴取順
- オペラ『ユリエッタ』の抜粋でマルティヌーの語法(歌と幻想性)を掴む。
- 『二つの弦楽合奏とピアノとティンパニのための協奏曲』で編成実験と対位の面白さに触れる。
- 交響曲(中期以降)でスケールと感情の幅を味わう。
- 室内楽・歌曲で細やかな情緒と個人的な表現を確かめる。
まとめ
ボフスラフ・マルティヌーは、民族的素養と国際的視野を兼ね備えた作曲家で、その音楽は明朗さと内面性、実験性と伝統性が両立しています。初めて聴く際は〈歌〉と〈リズム〉という二つの軸に注目すると、彼の多面性を効率よく理解できます。深く掘り下げるほどに発見が多い作曲家ですので、オペラから室内楽、交響曲へと段階的に聴き進めることをおすすめします。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Bohuslav Martinů
- Naxos: Composer Biography — Bohuslav Martinů
- Boosey & Hawkes: Bohuslav Martinů — Composer Page
- Supraphon: Bohuslav Martinů(録音・解説)
- Wikipedia: Bohuslav Martinů(参考として)


