ゲイン調整の極意:録音・ミキシング・ライブで失敗しないための実践ガイド

ゲイン調整とは何か──音作りの基礎中の基礎

ゲイン調整(gain staging)は、音声信号が録音機器やミキサー、プラグイン、アンプ、スピーカーといったシステムを通る際に、それぞれの段階で適切なレベルを保つ作業のことです。単に大きさを合わせるだけでなく、ノイズフロアの最小化、クリッピングの回避、ダイナミクスの保全、そして最終的な音色や歪みのコントロールに直結します。良いゲイン構造がないと、後工程でいくらEQやコンプを使っても解決できない問題が残りがちです。

アナログとデジタルの違い:クリッピングとヘッドルーム

アナログ機器は徐々に飽和(ソフトクリップ)していく性質があり、特定の機材では意図的に前段をドライブして暖かい飽和を得ることもあります。一方デジタルは0 dBFSを超えると即座にハードクリップ(デジタル歪み)が発生し、不快な高調波が生じます。従って入力段で過剰に振ることは避け、デジタルの域では必ず十分なヘッドルームを確保するのが基本です。

基礎的なレベルの単位と目安

  • マイクレベル:一般に「マイクレベル」と呼ばれ、レンジは大雑把に-60 dBu〜-40 dBuなど。マイク種類や演奏音量で変化します。
  • ラインレベル:プロ機器は+4 dBu(バランス)、コンシューマ機器は-10 dBV(アンバランス)が標準。
  • dBFS(デジタルフルスケール):デジタルの最大値。録音時にはピークを-6〜-3 dBFS、作業の平均(RMS)は-18 dBFS前後を意識するのが一般的なワークフローです(24ビット録音ならさらに余裕をとってもよい)。
  • LUFS / ラウドネス:ストリーミング配信ではサービスごとの正規化があるため、最終マスターのターゲットとしてSpotifyは概ね-14 LUFS付近、Appleはやや低めの-16 LUFS前後、YouTubeは-13〜-14 LUFS 程度が目安とされています(サービスにより変動)。

録音時の実践ワークフロー(スタジオ/ホームレコーディング)

  • 1) マイク/楽器→プリの入力ゲイン:最初にプリのゲインを決めます。パルス(ピーク)を-12〜-6 dBFSの間に収めるのが安全な目安。ピークがこれより高ければクリップの恐れ、低すぎるとノイズが目立ちます。
  • 2) パッドとインピーダンス:ラウドな音源(スネア近接、ギターキャビネットのマイクなど)はプリのパッド(-10dB/-20dB等)を使う。DIやアクティブピックアップではパッドや入力格納の選択が重要。
  • 3) 追い込み過ぎない:アナログ機材で意図的にドライブする場合を除き、デジタルクリップは絶対に避ける。24bitなら十分な余裕を持って録ることができるが、保険としてピーク-6 dBFSは確保したい。
  • 4) モニタリング:ヘッドフォンやモニターの音量(ボリューム)と入力ゲインは分けて考える。モニタを上げて入力ゲインを下げる、という誤った操作はノイズ比を悪化させることがある。

ミキシングでのゲイン構造(Gain Staging)

ミキシング段階では、各トラックの入力ゲイン(クリップゲイン/トリム)とチャンネルストリップのゲインを整え、プラグインの内部処理に十分なヘッドルームを与えることが重要です。以下は一般的な流れです:

  • 1) クリップゲインで大きな振幅差を補正(必要なら)。
  • 2) 各トラックのフェーダーはまずユニティ(0 dB)付近に設定し、チャンネルの音量調整はフェーダーで行う。プラグインの入力を過度にブーストしない。
  • 3) EQやコンプを適用する前に音量が不意に大きくならないように、各プラグイン前後のゲインを確認する。
  • 4) バスやグループの合計レベルが過度に上がらないように、サブミックス段でヘッドルームを確保。マスターでのピークが-6 dBFS前後に収まるようにするのが安全策。

メータリング:どのメーターを信じるか

メーターにはピークメーター、RMS/VU、LUFS、PPMなどがあります。用途に応じた使い分けが重要です。デジタルクリップを避けるならピークメーター、音量感(耳で感じるラウドネス)を把握するならLUFSやRMS、音の平均感を見るならVUが有効です。複数のメーターを同時に確認して総合的に判断しましょう。

ライブサウンドでの注意点

  • ハウス(FOH)での初期ゲイン設定:すべてのチャンネルのフェーダーを下げておき、チャンネルゲイン(プリ)だけで十分なレベルを得る。ステージモニターやスピーカーの入力で無理にアンプを上げるとクリップやフィードバックの原因になる。
  • ゲイン構成:マイク→コンソール→出力バス→パワーアンプ→スピーカーという流れで、それぞれに適切なヘッドルームを持たせる。アンプのゲインはスピーカーの感度(dB SPL @1W/1m)と現場のSPL目標に合わせて調整。
  • フィードバック対策:ゲインを上げる前にマイク配置やEQ、ハウリング抑制を検討する。過度なゲイン上げは即座にフィードバックを引き起こす。

よくある誤解と対処法

  • 誤解:マスターリミッターでクリップを防げばOK→対処:リミッターは救済手段であり、ソースの歪みやノイズを消すわけではない。ソース段で適切にゲインを設定するべき。
  • 誤解:とにかく大きくするのが良い→対処:大きさ(ラウドネス)と音質は別。過度なプッシュはミックスのダイナミクスを失わせる。
  • 誤解:24ビットだから何でも小さく録ってOK→対処:確かに24ビットは広いダイナミックレンジ(理論上約144 dB)を持つが、極端にレベルを下げるとノイズや量子化誤差(低ビット変換時)で問題になることがある。適切なレベルは重要。

実用的なチェックリスト(簡潔版)

  • 録音前:プリのゲインを調整してピークが-12〜-6 dBFSに収まっているか確認。
  • ミキシング開始:各トラックの平均レベルを-18 dBFS前後に揃える(耳とメーターの両方で確認)。
  • バス/マスター:マスターのピークが-6 dBFSを超えないように。最終ラウドネスは配信先に合わせる。
  • ライブ:マイクの位置、パッド、ゲインノブ、フェーダーの役割を明確にしてから本番に臨む。

まとめ

ゲイン調整は音作りの土台です。小さな設定ミスがミックス全体の品質を大きく左右します。録音時からマイクの選定、プリでのゲイン、ミキシング中のトラック間バランス、そして最終マスターのラウドネスに至るまで、一貫したゲイン構造を意識することでノイズの少ない、ダイナミクスに富んだ音を得られます。メーターと耳の両方を使い、各段階でヘッドルームを確保することを忘れないでください。

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参考文献