ヴィオラ・ダ・ガンバ — その歴史、構造、奏法、現代での復興まで詳解

ヴィオラ・ダ・ガンバとは

ヴィオラ・ダ・ガンバ(viola da gamba、和名:ガンバ属、一般に「ガンバ」とも)は、ルネサンスからバロック期にかけて主にヨーロッパで用いられた擦弦楽器群の総称です。英語では「viol」や"viola da gamba"と呼ばれ、語義は「腿(gamba)で弾くヴィオラ」を意味します。チェロと並ぶ低弦楽器ではありますが、構造や奏法、音楽上の役割において独自の伝統を持ちます。

構造と製作

ヴィオラ・ダ・ガンバは通常6本(一般的)または7本の弦を持ち、フレット(多くは腸や合成材の結びフレット)を備えます。指板はフレットで区切られており、これはヴィオラ・ダ・ガンバ特有の音程の安定性と装飾的分割(division)を可能にします。胴は比較的平らな背板とやや低めのアーチを持ち、横板と響板の厚みや内部のバスバー配置が現代チェロとは異なる独特の倍音構成を生みます。

弓は「手のひら下向き(アンダーハンド)」で持ち、弓の毛はやや張りが弱く、毛を張った側が外向き(外反)になっている場合が多いです。弦は歴史的には羊腸(ガット)が用いられ、現在でも歴史的演奏法を志向する演奏家はガット弦を好みますが、合成弦や複合弦も普及しています。

調弦とサイズ

ヴィオラ・ダ・ガンバには複数のサイズがあります。一般的な6弦のバス・ヴィオラ(bass viol)は低音域を担い、テノールやアルト、ソプラノといったサイズも存在します。標準的な6弦の調弦は四度進行に中央に長三度を置く形で、低音側から高音へ向かって「D–G–C–E–A–D」(日本語表記ではニ重オクターブ表記の違いはありますが、間隔のパターンが重要)というパターンがよく用いられます。これはリュートの和声音列に通じるため和声的な扱いがしやすい構成です。

奏法の特徴

ヴィオラ・ダ・ガンバの最大の特徴はアンダーハンドの弓使いとフレットの存在、そして比較的平らな指板による和音奏法の容易さです。ブリッジの曲率がチェロより緩やかなため複数弦を同時に鳴らしやすく、和声的な演奏(分散和音や連続和音)が豊富に現れる点がバロック期の音楽に適しています。左手はフレットを用いるため理論的には正確な半音を再現しやすく、即興的な変奏(division)や装飾にも向きます。

音色はチェロよりも明瞭で倍音成分が豊か、かつ柔らかく「歌う」ような表現が可能です。ダイナミクスの幅はチェロに比べ狭いものの、緻密なニュアンスで表現することが求められます。

歴史とレパートリー

ヴィオラ・ダ・ガンバは16世紀後半から17世紀、18世紀初頭にかけてヨーロッパで広く使われました。ルネサンス期にはコンソート(同一ファミリーの楽器による室内合奏)文化が盛んで、複数のヴィオラを揃えたコンソート作品が数多く作られました。バロック期には独奏楽器としての発展も見られ、フランスやイギリス、ドイツで独自の文学が形成されます。

代表的なレパートリーには、フランスのマラン・マレ(Marin Marais)のガンバ曲集、サント=コロンブ(Sainte-Colombe、伝承中心の作曲家)やフォルクレ(Antoine Forqueray)といったバロックの巨匠たちの作品、イングランドではジョン・ジェンキンズやトビアス・ヒューム、クリストファー・シンプソンらによる室内音楽や教本が挙げられます。また、J.S.バッハの作品ではヴィオラ・ダ・ガンバとクラヴィコード/チェンバロのためのソナタ(BWV 1027–1029)が知られ、バッハの楽器観の多様性を示す重要な例です。

主要な作曲家・重要作品

  • Marin Marais(フランス) — 多数のガンバ作品、特に五巻にわたる作品群が重要。
  • Antoine Forqueray(フランス) — 高度な技巧を要するパッセージが特徴。
  • Sainte-Colombe(フランス) — 極めて表現的な独奏作品で知られる。
  • Christopher Simpson(イングランド) — 教則書「The Division Viol」(1659)は演奏法と即興的変奏の指南書として貴重。
  • J.S. Bach — ヴィオラ・ダ・ガンバと通奏低音のためのソナタ(BWV 1027–1029)。

コンソートと通奏低音の役割

ヴィオラ・ダ・ガンバはコンソート(同族合奏)で中心的役割を果たしました。フル・コンソート(同一ファミリーで統一)では、各パートが対位的に絡み合う精緻な音楽が生み出され、ルネサンス〜バロック初期の室内音楽文化を代表します。またバロック期には通奏低音の一員として、チェンバロやリュート類とともに和声を支える役割も担いました。ガンバはその倍音的特性により basso continuo の中でも独特の暖かさと輪郭を付与します。

19〜20世紀の衰退と復興

18世紀末から19世紀にかけて、オーケストラと室内楽の楽器編成が変化する中でヴィオラ・ダ・ガンバは徐々に主流から外れ、チェロなどに取って代わられました。しかし20世紀に入ると歴史的演奏運動(Early Music movement)の高まりの中で復興が進みます。アーノルド・ドルメッチ(Arnold Dolmetsch)らの手による史料復元や実演活動を契機に、ガンバの製作と演奏が再興されました。

20世紀後半以降、ジョルディ・サヴァール(Jordi Savall)、ヴィレンド・クイッケン(Wieland Kuijken)、パオロ・パンドルフォ(Paolo Pandolfo)ら現代の名手が国際的に活躍し、ガンバ演奏は専門的な演奏分野として確立されました。彼らの録音や教育活動により、古楽復興は一層広がりました。

楽器の選び方と保存・調律のポイント

ヴィオラ・ダ・ガンバを選ぶ際は、サイズ(ソプラノ〜バス)、表板の共鳴、フレットの状態、ネックと胴のバランスを確かめます。ガット弦を用いる場合は湿度や温度に敏感なので保管環境の管理が重要です。フレットは結び目式のため調整が可能ですが、適切な位置と締め具合でないと音程や演奏性に影響します。調律は歴史的音律(平均律以外)を用いる場合もあるため、演奏するレパートリーやアンサンブルに応じて選ぶとよいでしょう。

学習・教育資源と練習法

ヴィオラ・ダ・ガンバ学習には、伝統的な教本(Christopher Simpson『The Division Viol』など)や現代の教材、録音を用いた模倣学習が有効です。基本は弓のアンダーハンド技術、フレット上での正確な左手、装飾(ディヴィジョン)の習得です。合奏ではコンソートのリズム感と抑揚の合わせが求められます。早めに古楽奏法に精通した師を見つけると効率が上がります。

おすすめ録音と聴きどころ

入門者にはジョルディ・サヴァール率いる演奏や、ヴィレンド・クイッケン、パオロ・パンドルフォの独奏録音が分かりやすく魅力的です。Marin Marais の作品は音楽的語彙が豊富で、フランス・バロック特有の表現を学ぶのに最適。Sainte-Colombe関連の録音は内省的な独奏表現の極致を示します。またバッハのガンバ・ソナタはチェンバロとの対話に注目すると、楽器の特性が良く分かります。

現代での位置づけと新作

現代では歴史的演奏に基づく古楽専門家の演奏だけでなく、現代作曲家とコラボレーションして新作を発注する動きもあります。ヴィオラ・ダ・ガンバ特有の音色は現代音楽にも新たな表現可能性を提供しており、フェスティバルや専門アンサンブルで現代曲と古典の共演が行われることが増えています。

まとめ

ヴィオラ・ダ・ガンバは、フレットとアンダーハンド・ボウ、豊かな倍音と和声的構造により、ルネサンス〜バロック音楽に不可欠な音色と表現を提供してきた楽器です。19世紀に一時衰退したものの20世紀以降の復興で再評価され、現代でも古楽演奏のみならず新しい音楽表現の素材として注目されています。歴史的背景・構造・奏法を理解することで、より深い鑑賞と演奏が可能になります。

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参考文献