【図解あり】ソナタ形式とは何か──構造・機能・名曲で学ぶ完全ガイド
はじめに:ソナタ形式とは
ソナタ形式(ソナタ式、sonata form)は、18世紀後半から19世紀にかけての西洋クラシック音楽で最も重要かつ広く使われた楽曲構成のひとつです。特にソナタ、交響曲、室内楽の第1楽章や速いテンポの楽章(ソナタ・アレグロ)で典型的に用いられ、主題の提示・展開・再現を通じて音楽的ドラマを生み出します。本稿では、形式の基本構造、調性感・主題処理、発展と変種、歴史的経緯、そして具体的な名曲を例にした分析のポイントまで、専門的かつ実践的に掘り下げます。
ソナタ形式の基本構造(提示部・展開部・再現部)
伝統的にソナタ形式は大きく3つの部分に分けられます。
- 提示部(提示部、Exposition):主要主題(第1主題)が主調(トニック)で提示され、つなぎ(遷移部、bridge/transition)によって調性が移動し、第二主題(第2主題)は属調(長調の場合はドミナント、短調の場合はニ短調ならば変化する)や関係長調で提示されます。提示部の終わりにはしばしば明確な終止句が置かれます。
- 展開部(展開部、Development):提示された動機や主題素材が断片化・変形され、調性的にも多彩に変化します。ここでは緊張が高まり、再現部への戻り(再現へ向かう導音的役割を果たす再転調やリトランジション)が作られます。
- 再現部(再現部、Recapitulation):提示部の素材が再び現れますが、重要な違いは第二主題が主調(トニック)に置き換えられることです。これにより調性的均衡が回復され、曲全体が統一されます。必要に応じてコーダ(終結部、Coda)が付け加えられます。
主題と調性の役割
ソナタ形式の核は「動機(モティーフ)」と「調性の対立」にあります。第1主題はトニックの確立と作品の出発点を担い、第2主題はしばしば対照的な性格(旋律的に歌う、付点的、対位法的など)をもち、異なる調で現れることで〈旅〉と〈帰還〉という物語性を作り出します。
典型例として、長調の楽章では第2主題がドミナント(V)で現れることが多く、短調の楽章ではしばしば平行長調(♭III)や主調の長三和音(♭IIIやVの長三和音形)などが用いられます。19世紀以降は作曲家によって規則が緩やかになり、自由な調関係やモードの転換が見られます。
提示部の構成要素と機能
- 序奏(イントロ):必須ではないが、導入的な短い部分で主調の設定や素材の断片を提示する。
- 第1主題:トニックに根ざした主題。性格は力強く行進的なものから穏やかで歌うものまで多様。
- 遷移(つなぎ、bridge):第1主題から第2主題へと導き、調性を変化させる役割。調的張力を生むことが多い。
- 第2主題:対照的でしばしば歌謡的。新しい調により心理的効果をつくる。
- コデッタ(小さな終結):提示部の終わりを締めくくる短い終結部で、提示を確定する。
展開部の分析ポイント
展開部はソナタ形式の創造的中心です。ここでは以下が重要な分析ポイントとなります。
- 主題の断片化(モティーフの拡大/縮小、リズム変形、対位的処理)
- モジュレーション(転調):より遠隔の調へ移ることで緊張を作り出す。
- 再現へ向かうリトランジション(retransition):展開の終盤で再び主調に戻るための準備。和声的にVへの導音を強調することが多い。
- テクスチュアの変化(オーケストレーションや音域の操作)によるドラマ化
再現部とコーダの役割
再現部では提示部の素材が回収され、特に第2主題は主調に移されて再提示されることが基本です。再現部は楽曲全体を統一に導き、聴衆に「帰還」の満足を与えます。コーダはその後に続く追加の終結であり、提示された動機を再確認して完全な終止を作ります。ベートーヴェン以後、コーダはしばしば独立した発展的な機能をもち、楽曲のドラマをさらに拡張しました。
変種と発展:単一主題のソナタ、二重提示、ロマン派的拡張
古典派ではハイドンやモーツァルトによる「単一主題のソナタ」や「二重提示(特に協奏曲の二重呈示)」が見られます。単一主題式では第1主題の変形のみで第2主題の役割を果たすことがあり、統一感が強まります。一方、ロマン派の作曲家は調性や形式のルールを緩め、連続的な発展や変奏的な再現を行うことが増えました。
歴史的背景と主要作曲家の扱い方
ソナタ形式はバロック末期の二部形式から発展し、ハイドンが形式の実験と確立に大きく寄与しました。モーツァルトは透明で歌う第2主題と精巧な遷移の手腕で形式を洗練させ、ベートーヴェンはそれを劇的に拡張して、コーダや展開部をより劇的・構築的に扱いました。19世紀以降のロマン派は自由度を高め、ワーグナーやブラームスらは伝統を受け継ぎつつ独自に発展させました。
分析の方法論:和声、動機、ソナタ理論
ソナタ形式の分析にはいくつかのアプローチがあります。
- 和声分析:提示・展開・再現の各局面での調性移動と和声音程の機能を追う方法。再現での第2主題の主要調への移行が鍵。
- 動機分析:モティーフの変形・再現の仕方を追う。短い動機の組み合わせが楽曲全体の統一を生むことが多い。
- ソナタ理論(Hepokoski & Darcy):伝統的なモデルを超え、期待と逸脱、プロトタイプ(主調への帰結)、ジャンル的役割などを体系化する現代的手法。
代表的な実例(簡潔な指針)
- ハイドン:形式の実験家。単一主題や奇抜な展開で知られる。提示と再現の対比を巧みに操作。
- モーツァルト:対比的で歌う第2主題、緻密な遷移が特徴。例:交響曲第40番(K.550)の第1楽章。
- ベートーヴェン:展開部とコーダを劇的に拡張し、主題の運命的扱いを行った。例:交響曲第5番Op.67の第1楽章。
これらの楽曲を実際に譜面で追い、提示部の小節数、遷移の調性、展開部でのモジュレーション、再現部での再配列を確認すると学びが深まります。
実務的アドバイス:聴き方・書き方・教えるときのポイント
- 聴き方:提示→展開→再現の「物語」を意識して、どの主題がどの調で提示されるかをまず把握する。
- 作曲の視点:明確な第1主題、第2主題、遷移素材を用意し、展開でそれらを変形できるようにしておく。
- 教育の現場:視覚教材(譜面の色分け、調性の移り変わりの図示)を使うと理解が早い。
まとめ:ソナタ形式の本質
ソナタ形式は単なる「形式的ルール」ではなく、主題素材と調性の対立・再統合を通じて音楽的ドラマを構築するための言語です。古典派の均衡感、ロマン派の自由な表現、20世紀以降の変容などを通じて、ソナタ形式は常に作曲家の創造性を映し出してきました。楽曲をただ受動的に聴くのではなく、主題の出現場所や調性の動きに注意を向けることで、各時代の表現意図や作曲家の技巧がより明確に見えてきます。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica — Sonata form
- Wikipedia(日本語) — ソナタ形式
- James Hepokoski & Warren Darcy, Elements of Sonata Theory (Yale University Press)
- Charles Rosen, The Classical Style (Yale University Press)
- Mozart, Symphony No.40 in G minor, K.550 — IMSLP(スコア)
- Beethoven, Symphony No.5, Op.67 — IMSLP(スコア)
- Open Music Theory — Form
- MusicTheory.net — Sonata Form(入門)
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