複合三部形式とは何か:構造・歴史・代表例と聴きどころを徹底解説

複合三部形式(compound ternary)とは

複合三部形式は、楽曲形式のひとつで、全体の大枠が三部(A–B–A)に分かれ、それぞれの大きな部分がさらに小さな形式(多くは二部形式)から構成されるものを指します。英語では“compound ternary”とも呼ばれ、古典派の舞曲楽章(例:メヌエットとトリオ、スケルツォとトリオ)や小品で多用されました。単純な三部形式(単一のA部分・B部分・A再現)と異なり、複合三部形式ではA部分やB部分自身が内部的に繰り返しや細かな区切りを持つため、より階層的な構造が特徴です。

形式の構造と記譜上の特徴

典型的な表記は次のようになります:A (a :||: b) — B (c :||: d) — A' (a' b')。ここで各小文字は内部の小節群や句を表し、各大部分は反復記号(:||:)で繰り返されることがよくあります。実際の古典派作品では次の慣行が見られます。

  • ミニュエット/スケルツォ(A):通常は二部形式(ミニュエットは二部反復)で書かれ、最初の小節群が終わると反復記号が置かれる。
  • トリオ(B):やはり二部形式で、多くの場合音色や楽器編成が異なり、調性も主部と対照的(主調の平行調や属調など)になる。
  • ダ・カーポでのA再現:Bの後にAが繰り返されるが、しばしばAの反復記号は省略して演奏される。

譜例における特徴は、AとBがそれぞれ内的に完結している点です。したがって、聴き手は「全体は三部だけれども、各部はさらに小さな単位でまとまっている」ことを意識できます。

歴史的背景と語源

「トリオ(Trio)」という呼称は元来、3つの声部や3人の奏者のために書かれた箇所に由来するとされますが、時代が下るにつれて「中間の対照部分」を指すようになりました。バロック後期から古典派にかけて舞曲楽章の標準的な形式となり、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらが多用しました。19世紀以降もスケルツォやロンドとの組み合わせなどで派生的に用いられています。

調性と対照性:AとBの関係

複合三部形式における調性処理は作品や時代によって差がありますが、いくつか典型的なパターンがあります。古典派の舞曲ではAは主調(Tonic)にあり、B(トリオ)は同主調の近親調(多くは属調や同主調の平行長調/短調)に移ることが多いです。この対照によって中間部が明確に区別され、再現での戻りがより強調されます。ロマン派以降では調の扱いが自由になるため、遠隔調や劇的な調変が採用される例も増えます。

繰り返しの慣行と演奏実践

譜面上、多くの複合三部形式の楽章はAもBもそれぞれ内部反復が指示されています(例:|: A :|| |: B :||)。ただし、ダ・カーポでAに戻ったときに内部反復を行うか否かは演奏慣行に依ります。古典派の慣習としては、再現部で反復を省くことが多く、これによって全体時間を管理したり、表現上の変化をつけたりします。近現代の演奏では、作曲家の指示(たとえば“senza repeat”など)や演奏会の文脈に基づいて判断されます。

類型:複合三部と円格式(rounded binary)との違い

複合三部形式としばしば混同されるものに「円格式(rounded binary)」があります。円格式は二部形式の一種で、A部→B部という構造の中でB部の終わりにAの主題が短く戻ってくるタイプです(A :||: B A')。複合三部ではあくまで三つの大きな部分が自立しており、Bは独立した中間部として明確に存在します。実務上の区別はやや流動的ですが、内部の反復や音楽的役割(トリオが独立した音色や調性をもつか)が判断基準になります。音楽学者William E. Caplinの古典派形式論はこの区別を理論的に詳述しています。

代表的な作品と具体例

古典派以降、多くの有名な作品が複合三部形式を用いています。以下は分かりやすい代表例です。

  • モーツァルト:『ディヴェルティメント/セレナード 第13番 ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」』第3楽章(Minuet and Trio)。典型的なミニュエット+トリオ構成で、AとBがそれぞれ二部反復されます。譜面例や録音で形式を確認しやすい作品です。譜面:IMSLP: K.525
  • ベートーヴェン:交響曲第5番 ハ短調 作品67 第3楽章(Scherzo and Trio)。スケルツォ(A)とトリオ(B)から成る複合三部で、ベートーヴェンは再現部で素材を変形させたり、リズム的な対位法を導入したりしてドラマを作り出しています。譜面:IMSLP: Op.67
  • ハイドン:弦楽四重奏曲や交響曲の多くでミニュエットとトリオが用いられ、古典派の標準的な舞曲楽章として形式の典型例を示しています。

作曲技法と表現的効果

複合三部形式は、次のような作曲的・表現的利点があります。

  • 対照の明瞭化:B(トリオ)を調性や音色で対照させることで、Aの回帰がより効果的に聞こえます。
  • 経済性とバラエティの両立:AとBを使い分けることで、短い楽章でも変化に富んだ構成が可能になります。
  • 変奏的扱い:再現時に細部を変えることで、回帰を単なる反復ではなく発展として提示できます(古典派の作曲家はここで大小の装飾やテクスチャの変更を行うことがありました)。

近現代への影響と派生

19世紀以降、単純化や変形が進み、複合三部形式の要素は様々な形で残ります。ロマン派の交響曲や室内楽でもスケルツォとトリオの伝統は維持されつつ、トリオが劇的に拡張されたり、調性関係がより自由になったりしました。また、20世紀の作曲家は形式的枠組みを意図的に崩すこともあり、複合三部形式の「期待」を用いてそれを裏切るような手法も見られます。

聴きどころと分析の手順

複合三部形式を聴き・分析する際の実践的手順は次のとおりです。

  • 全体の大枠(A–B–A)をまず把握する。中間の対照部分(B)がどのように色付けされているかを見る。
  • AとBそれぞれの内部構造(反復・句の長さ・終止の形)を確認する。反復記号があるかどうか、再現で反復が省略されるかをチェックする。
  • 調性の移動を追跡する。A→Bでどのような調が採られているか、戻りでどのように解決されるかを聴き取る。
  • 再現時の変化点(装飾、アーティキュレーション、テクスチャの変化)を注視する。これが作品固有の表現ポイントになる。

まとめ

複合三部形式は、古典派の舞曲を中心に広く用いられてきた堅牢で分かりやすい形式です。外側の三部構造と内部の反復や二部形式が重層的に働くことで、短い楽章でも対照や回帰の美が引き立ちます。作曲家はこの枠組みを用いて、装飾・変形・対位法などで多様な表現を引き出してきました。聴く際にはまず大きな三部構成を掴み、その後に内部の句や調性の動きを追うと、曲の構造と表現意図がより明確に見えてきます。

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参考文献