オペレッタ入門:歴史・特色・名作から現代的意義まで徹底解説
オペレッタとは何か
オペレッタ(仏: opérette, 英: operetta)は、19世紀半ばにフランスで成立した軽歌劇の一形態で、台詞(スポーケン・ダイアローグ)と歌唱を織り交ぜた舞台作品を指します。声楽的な要素は強いものの、オペラに比べて音楽は軽快で娯楽性が高く、喜劇性や風刺、舞踊、舞台装置の華やかさを重視するのが特色です。上演時間や編成も比較的コンパクトで、当時の都市文化における大衆娯楽として幅広く受け入れられました。
起源と初期の発展
オペレッタの成立には複数の要因が絡みます。19世紀フランスの都市文化の成熟、音楽劇場(カフェ・コンセールや小型の劇場)の興隆、印刷技術や交通網の発達によるレパートリーの拡散などが背景にあります。一般には、フロリモンド・ロジェこと“エルヴェ”(Hervé, 1825–1892)やジャック・オッフェンバック(Jacques Offenbach, 1819–1880)が初期の重要な位置を占めるとされます。エルヴェは風刺と民衆的ユーモアを前面に出し、オッフェンバックはメロディのセンスと舞台構成力で「オペレッタの父」と評されることが多いです。
オッフェンバックの代表作『天国と地獄(Orphée aux enfers, 1858)』、『ラ・ベル・エレーヌ(La belle Hélène, 1864)』などは、古典や社交界を風刺する内容とキャッチーな音楽で爆発的な人気を得ました。これによりオペレッタはフランス国内のみならずヨーロッパ各地へ拡散していきます。
様式の多様化:フランス、ウィーン、イギリス、ドイツ圏
オペレッタは各国で独自に発展しました。代表的な潮流を整理すると次の通りです。
- フランス(オペレッタ/オペラ・ブッフ):オッフェンバックやエルヴェに代表される軽妙な風刺劇。増大する都市中産階級を対象に、政治や道徳をからかう要素が強い。
- ウィーン(ヴァイナー・オペレッタ):ヨハン・シュトラウス2世(Johann Strauss II)、フランツ・レハール(Franz Lehár)、エメリッヒ・コルマン(Emmerich Kálmán)らによって成熟。ワルツやポルカなどのダンス音型、豪華でロマンティックな旋律、社交界を描く恋愛劇が特徴で、『こうもり(Die Fledermaus)』『メリー・ウィドウ(Die lustige Witwe)』『チャールダッシュの女王(Die Csárdásfürstin)』などが生まれた。
- イギリス(サヴォイ・オペラ):ウィリアム・S・ギルバートとアーサー・サリヴァンのコンビが生み出した作品群は、機智ある台詞と洗練された合唱、社会風刺が特徴。代表作に『パイレーツ・オブ・ペンザンス』や『ミカド』がある。
- ドイツ圏:ドイツ語圏でもオペレッタは広がり、軽快な音楽と語りのバランスを持つ作品群が制作された。ウィーンの流派と近接するが、ローカルな舞踊やメロディを取り入れる点に特色がある。
音楽的・舞台的特徴
オペレッタは次のような要素を組み合わせます。
- スポーケン・ダイアローグ(台詞)と歌唱の交互配置。これは観客の理解を助け、喜劇的な間(ま)を生む。
- シンプルで耳に残るメロディ。しばしばワルツやポルカ、マーチ、チャールダッシュなどダンス・リズムが挿入される。
- 合唱や二重唱、アンサンブルを多用し、群衆場面の娯楽性を高める。
- 舞踊と舞台装置の華やかさ。バレエやフォルムの美しさも売りの一つ。
- 風刺・ロマン・軽喜劇の融合。社会風刺を含むことが多いが、恋愛や身分違いのロマンスなど普遍的なテーマも中心。
代表的作曲家と主な作品
主要な作曲家とその代表作は以下の通りです。
- ジャック・オッフェンバック:『天国と地獄』『ラ・ヴィ・パリジェンヌ』
- フロリモンド・ロジェ(エルヴェ):『プティ・ファウスト(Le petit Faust)』など、初期の風刺的作品
- ヨハン・シュトラウス2世:『こうもり(Die Fledermaus)』
- フランツ・レハール:『メリー・ウィドウ(Die lustige Witwe)』
- エメリッヒ・コルマン:『チャールダッシュの女王(Die Csárdásfürstin)』
- ギルバート&サリヴァン:『ミカド』『海賊(H.M.S. Pinafore, Pirates of Penzance)』
上演と受容の歴史
オペレッタは19世紀末から20世紀初頭にかけて最盛期を迎えました。ウィーンでは社交界やカフェ文化の中で人気を博し、パリではサロンや小劇場の常連レパートリーとなりました。一方、英語圏ではギルバート&サリヴァンが独自の高い完成度を築き、後のミュージカルに大きな影響を与えました。
しかし20世紀に入ると、映画やジャズ、ミュージカルの台頭、第一次世界大戦による社会構造の変化などによりオペレッタの人気は次第に衰えます。多くの作曲家が映画音楽や新しい舞台形式へと適応し、一部の作品は映画化やポピュラーソングへの転用で新たな命を得ました。
オペレッタとミュージカルの違い
オペレッタとミュージカルは重なる部分が多く、境界は流動的です。一般的な違いを整理すると次の点が挙げられます。
- 音楽の比重:オペレッタはクラシック音楽の技法や器楽編成を強く引き継ぐ傾向があるのに対し、ミュージカルはポップスやジャズ、ロックなど流行音楽の影響が強い。
- 声楽の要求:オペレッタは訓練された声楽家が活躍することが多く、弦楽主体のオーケストレーションを用いる。ミュージカルは必ずしも伝統的な声楽訓練を必要としない。
- 表現様式:オペレッタはクラシックの形式感や楽曲構築を重視し、言語や地域性が強く出る。ミュージカルは演劇性やダンス、視覚的表現に重点が置かれることが多い。
演奏・上演の実務的ポイント
現代のオペレッタ上演では、言語問題や演出の解釈が重要になります。初演当時の方言や風刺は現代観客に伝わりにくいため、翻案や台詞の改変、字幕・訳詞の工夫が行われます。また楽譜は出版社や版によって細部が異なる場合があるため、信頼できる版を選ぶこと、編曲(小編成)に対応することがしばしば求められます。
歌手は声楽的基盤に加え、コミカルな演技力や台詞の明瞭さが不可欠です。合唱や舞踊団を含む総合芸術としての演出計画、衣裳と舞台装置の歴史的再現と現代化のバランスも制作側の重要な判断となります。
録音・映像化と現代的再評価
20世紀半ば以降、オペレッタはレコード会社や放送局を通じてアーカイブ化が進みました。名演や名盤が残され、近年は歴史的演奏や舞台映像の復刻、映像配信によって新たな観客層に届いています。NaxosやDeutsche Grammophonなどがオペレッタ作品を含む録音を手掛けており、専門の音楽学者や劇場による復元上演も活発です。
また、オペラとミュージカルの中間に位置する表現として学術的にも再評価が進み、ジェンダー、都市文化、政治風刺といった観点から作品研究が行われています。
現代のオペレッタ制作・教育への示唆
現代の音楽教育や劇場制作において、オペレッタは複合的な学習素材となります。声楽の伝統、舞踊、演技、合唱指導、編曲技法、翻訳上演の実践など、総合芸術教育の場で役立つ要素が多いのです。地域劇場やアマチュア団体でも小規模編成に合わせたアレンジによる上演が可能であり、コミュニティ参加型の芸術活動としても親和性が高いジャンルです。
まとめ:オペレッタの魅力と今後
オペレッタは19世紀の都市生活と結びつきながら誕生し、軽やかな音楽、美しい舞踊、鋭い風刺、ロマンティックなメロディを併せ持つ総合芸術として発展しました。20世紀に主流の座をミュージカルや映画に譲った部分はあるものの、その音楽的価値や舞台的魅力は現在も色褪せていません。現代の上演や録音、学術研究を通して、オペレッタは新たな解釈や表現を獲得し続けています。
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参考文献
- Encyclopaedia Britannica: Operetta
- Encyclopaedia Britannica: Jacques Offenbach
- Encyclopaedia Britannica: Franz Lehár
- Encyclopaedia Britannica: Johann Strauss II
- Naxos: What is Operetta?
- Oxford Reference: Operetta


