作品概説:モーツァルト 交響曲第23番 ニ長調 K.181 (K.162b)
交響曲第23番 ニ長調 K.181(別番号 K.162b)は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの若年期に属する小編成の交響曲の一つです。一般には1773年ごろ、ザルツブルク在住時代に作曲されたとみなされており、古典派的な簡潔さと明快な表現を併せ持つ作品です。本稿では、作曲史的背景、楽曲構成と和声・主題の特徴、演奏・版の注意点、聴きどころと研究的観点からの考察を詳述します。
歴史的背景と成立
モーツァルトは1756年生まれで、1770年代前半には既に多くの交響曲やオペラ、室内楽を手がけていました。K.181はその時期に書かれた交響曲群の一作で、当時のザルツブルクの宮廷楽団や教会音楽の実務と、イタリアでのオペラ様式やドイツの交響的伝統が交差する環境で生まれました。楽器編成や楽曲の短さから、宮廷や市内の小規模な諸会での上演を意図した実用的な作品であったと考えられます。
編成と演奏慣習
典型的には、2本のオーボエ、2本のホルン、弦楽(第一・第二ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ/コントラバス)という編成が想定されます。通奏低音(チェンバロ等)の有無は当時の会場や奏者の習慣に依存しましたが、ザルツブルクの実演では通奏低音を伴うこともありました。モダン楽器で演奏する際は、ピッチ(A=430〜440Hz)、弓遣い、アーティキュレーションの古楽的な考え方を取り入れることで、より当時の色彩を再現できます。
楽章構成(概略)
- 第1楽章:速い楽章(典型的なソナタ形式)
- 第2楽章:緩徐楽章(歌謡性を持つ中庸のテンポ)
- 第3楽章:速い終楽章(躍動するリズムと明快な終結)
この作品は当時の交響曲の標準にならい三楽章構成を採ることが多く、舞曲的なメヌエットを含む四楽章構成を取る他の交響曲と比べて簡潔さが際立ちます。テンポ指定や楽章名は版により表記が異なる場合がありますが、機能的には速・緩・速の配列で統一的な物語性を描いています。
第1楽章の分析(テーマと形式)
第1楽章は活力と明瞭な主題提示が特徴です。冒頭はニ長調の輝かしい和音で始まり、弦楽と管楽器が対話するように主題を提示します。主題は短い動機を基に構成され、展開部では調性の移動と対位法的な展開が見られます。コーダは比較的簡潔に作品全体を締めくくり、若々しい勢いを保ったまま終結します。
第2楽章の分析(歌と装飾)
第2楽章は歌謡的な要素が強く、モーツァルト特有の旋律感覚が顕著です。和声は時折副和音や経過和音を用いて色彩を与え、オーボエや第一ヴァイオリンが主題を引き継ぐ場面で表情が豊かになります。短い装飾フレーズや装飾的な差し込みにより、単なる緩徐楽章以上のドラマ性が生まれます。
第3楽章の分析(終楽章の躍動)
終楽章はリズムの推進力を活かした音楽で、活発なリズム・フレーズと短い反復が多用されます。形式的には簡潔なソナタ形式やロンド風の要素が混在し、全体のテンポを保ちつつ多様な対話が展開されます。終結部では主要動機が再確認され、快活な雰囲気で幕を閉じます。
和声と対位法上の特徴
若年期の作品ながら、モーツァルトはしばしば対位法的な処理や巧みな転調を用いて表情を作ります。K.181でも短い発句の連鎖や対旋律の扱いが見られ、単純な伴奏以上の構造美が感じられます。また、ニ長調という明るい調性を最大限に活かし、ホルンとオーボエの加入により管楽器の色彩が効果的に配置されています。
演奏上の留意点
- テンポ設定:急がず急がせず、古典派の軽やかさを保つことが重要。フレーズの終わりでの自然な息継ぎを忘れない。
- 弦のアーティキュレーション:短いフレーズの切れ味とレガートの対比を明確にすることで、対話感が際立つ。
- 管楽器のバランス:オーボエとホルンは旋律線を支える重要な役割を持つため、弦楽との音量バランスに注意する。
- 装飾と即興的要素:当時の慣習を踏まえ、過度なロマンティックなルバートや過剰なビブラートは避ける。
版と校訂について
楽譜は複数の版や校訂が流通しており、原典に忠実な版(新モーツァルト全集やデジタル・モーツァルト・オーストリアの原典版)を参照することで、モーツァルトの意図に近い読みが可能になります。校訂者によっては小さな装飾やダイナミクスの補完がなされているため、演奏者は原典と校訂版を照合することを勧めます。
聴きどころと鑑賞ガイド
聴取時のポイントは以下の通りです。まず第1楽章では主題の提示とその発展を追い、どのように短い動機から楽章全体が構築されるかを意識してください。第2楽章では旋律の歌わせ方と伴奏の色合いに耳を傾け、オーボエやヴァイオリンの細かな表情を味わってください。第3楽章ではリズムの推進力と反復の変化に注目し、終結に向かってどのようにエネルギーが高まるかを感じ取ると、作品の完成度がより明確になります。
研究的視点と解釈の多様性
K.181は長大な交響曲群に比べると短く、注目度は必ずしも高くありません。しかしその簡潔さゆえに、モーツァルトの形式感覚やメロディ構築の初期段階を研究する上で重要な資料となります。楽想の反復や小さな対位法処理は後年の成熟した作風への予兆を示しており、解釈上は古楽器アプローチとモダン楽器アプローチのいずれでも新しい発見があり得ます。
実演・録音を選ぶ際の指針
録音を選ぶ際は、演奏アプローチ(歴史的演奏法=HIP、またはロマンティックな発展を許したモダン・アプローチ)を基準にしてください。短い作品ゆえに、演奏の切れ味や音色の明晰さが作品の魅力を左右します。スコアを手元に置いて、細部の変化やダイナミクスの処理を確認しながら聴くと理解が深まります。
まとめ
交響曲第23番 K.181は、モーツァルトの若き創造力が凝縮された作品であり、古典派の均衡と旋律美を短い枠の中で示した傑作といえます。演奏や聴取に際しては、バランス感、フレージング、古典派的な明晰さに注目することで、作曲当時の音楽的世界により近づくことができます。本稿がこの作品への理解と鑑賞の一助となれば幸いです。
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