バッハ BWV237『サンクトゥス ハ長調』徹底解説 — 形式・様式・演奏の実践ポイント

概説:BWV237とは何か

ヨハン・ゼバスティアン・バッハの〈サンクトゥス〉BWV237は、短い独立したサンクトゥス曲の一つで、ハ長調による明るく簡潔な合唱設定として知られます。ラテン語の典礼文「Sanctus(聖なるかな)」を扱った短い楽曲で、礼拝儀式の中で用いられることを前提に作られています。バッハは生涯にわたって複数のサンクトゥスを残しており、BWV237はその小規模で判りやすい例に当たります。

テキストと形式

BWV237が扱うのは典礼におけるサンクトゥスのテキスト、すなわち「Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus Deus Sabaoth / Pleni sunt caeli et terra gloria tua / Hosanna in excelsis」といった短いラテン語句です。バッハはこの短いテキストを一つの楽曲の中で凝縮して表現しており、通常は別に置かれるベネディクトゥス(Benedictus)を含まない短縮版となっています。

編成と写本・版

編成は基本的に四声合唱(S,A,T,B)と通奏低音(basso continuo)であるとされ、教会の機能的な用途を想定した実演上の取り扱いがなされてきました。多くの演奏ではオルガンが通奏低音を担い、場合によっては弦や木管が補助的に加わることがあります。楽譜および写本の情報は現存資料や研究成果(Bach‑Digital などのデータベース)で確認できますが、初期の写本伝承や楽器配列については写本によって差異が見られるため、演奏史的判断が必要です。

和声とテクスチュアの特徴

ハ長調という調性選択は、祭儀的で明るい色彩を与えます。BWV237では基本的にホモフォニー(和声的な動き)を中心に据えつつ、重要語句に対して短い装飾的な旋律や部分的な反復、対位法的な要素を挿入することで、テキストの強調を図っています。特に「Sanctus」の三連呼や「Pleni sunt caeli(天も地も満ちる)」における和声的充実は、典礼語の意味を音楽で増幅する典型的な手法です。

楽曲の進行は概して短く、明確な調性的方向性と機能和声に基づく流れを持ちます。終結は安定した完全終止で締められることが多く、礼拝の一場面として機能するよう設計されています。

声部書法と表現技法

BWV237の四声書法は、バッハの合唱術の簡潔な側面を示しています。旋律は各声部に自然に分配され、重要語句には上声部が旋律的役割を担い、低声部が和声的な支えを提供します。装飾やメロディックな跳躍は比較的控えめで、語語の明瞭な発音とリズム感が優先されます。

また、バッハは語尾や重要語句に小さなリタルダンド的処理やクレッシェンド/デクレッシェンドを示唆する書法を用いることがあり、これにより短い楽曲でも表情の幅を確保しています。特に ‘‘Hosanna in excelsis’’ の扱いは祝祭性を高めるために、しばしばテンポのピークやダイナミクスで強調されます。

演奏上の実践的助言

  • テクストの明瞭性:ラテン語発音を揃え、子音の切れと母音の共鳴を統一すること。短い曲ゆえに一語一語の明瞭さが全体印象を左右する。
  • テンポ設定:過度に速くしてしまうと和声の輪郭が曖昧になるため、拍子感を保ちながら清潔でコンパクトなテンポを選ぶのが良い。現代の教会やコンサート空間により若干の調整が必要。
  • 通奏低音の取り扱い:オルガン主体で演奏する場合、左手・ペダルの音量は合唱を覆わないようにし、和声の輪郭を固める方向で伴奏を行う。チェンバロやヴィオローネ、リチェルカーレ的弦の補助も有効。
  • 表情付け:バッハの短い典礼曲では、局所的な強調(語句ごとのアクセント、短いルバート、ダイナミクスの微調整)が曲のドラマを作る。全体としては抑制された表現が品位を保つ。

楽史的・様式的背景

サンクトゥスはカトリック・ルター派を問わずミサ典礼の一部であり、バッハはライプツィヒでの聖務においてこのテキストを数度にわたり設定しました。BWV237のような短縮されたサンクトゥスは、礼拝の都合や編成の制約に合わせた実用的な産物であると解釈できます。対照的に、ミサ曲(たとえば《ミサ曲ロ短調》BWV232)のサンクトゥスは大規模で複合的な構造を持ち、テキストの扱い方もより拡張的です。

様式的にはバロック後期の合唱技法と和声感覚が反映されており、バッハ特有の対位法的技巧と実用的な宗教音楽のバランスが取れている点が評価されます。

演奏史と編曲の諸相

BWV237は写本や校訂版により細かな差異が存在するため、演奏史の研究においては校訂版選びが重要になります。歴史的演奏実践の観点からは、原典版や信頼できる校訂(Bach‑Gesellschaft や Neue Bach-Ausgabe に基づくもの)を参照することが推奨されます。一般にはオルガンのみの伴奏で演奏されることが多いですが、合唱団によっては室内弦楽器や木管を補助的に用いるアプローチも採られます。

比較:他のバッハのサンクトゥスとの位置づけ

バッハは複数のサンクトゥス設定を残しており、それぞれが用途や規模によって異なる顔を持ちます。BWV237は小規模で実用的な設定であり、対してBWV232のような大曲内のサンクトゥスは複雑で壮麗な造形を持ちます。この差は、目的(教会での日常礼拝向けか、特別な祭礼か)と編成(小合唱かオーケストラ伴奏か)によって生じます。

合唱指導者・歌手への具体的アドバイス

  • 発声とフォーカス:宗教的なテキストの明瞭さを優先し、声の中央寄りで均一に響かせる。過度なヴィブラートは避ける。
  • フレージング:句ごとに短い呼吸と集中を置くことで、短い楽曲内でも起伏をつくる。
  • ダイナミクス:楽譜に大きなダイナミクス指定がないことが多いため、合唱内で微妙な強弱を共有し、言葉の意味に合わせて統一的に処理する。

録音・研究の手がかり

BWV237の聴き比べを行う際は、歴史的演奏実践(古楽器・教会オルガン伴奏)と近代的合唱オーケストラの両方を聴くと曲の多面性が理解しやすいでしょう。版や写本の違いが演奏に影響するため、演奏とともに原典資料や校訂報告を参照することが研究的に有益です。

まとめ:BWV237の魅力

BWV237は短くも機能的で、バッハの宗教音楽における実用性と芸術性の両面を示す作品です。簡潔な形式の中に言葉の意味を的確に表現する技巧が凝縮されており、合唱団や演奏者にとってはテキスト解釈とアンサンブルの力が直接問われる好素材と言えます。儀式的な役割を持ちながらも音楽としての完成度が高く、演奏・鑑賞ともに楽しめる作品です。

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参考文献