バッハ BWV 532a フーガ ニ長調を徹底解説:成立・構造・演奏のポイント

概要:BWV 532aとは何か

J.S.バッハの「プレリュードとフーガ ニ長調」BWV 532には、いわゆる初稿・別稿とされる版があり、それが通称BWV 532aと呼ばれています。BWV 532aは後の最終稿(一般にBWV 532と呼ばれる)と比べて細部に差異があり、作曲・改訂の過程を知る上で重要な資料です。本コラムでは特にフーガ(ニ長調)に焦点を当て、史的背景、楽曲の構造と特徴、演奏上の留意点、現代における受容と代表的な録音・版について詳述します。

成立と史的背景

BWV 532/532aの成立時期はバッハの初期〜中期のオルガン作曲群に位置づけられ、通説ではヴァイマール在任期(1708–1717年頃)に関連づけられることが多いです。BWV 532aは初期稿ないし校訂稿と見なされ、後にBWV 532として完成版が確定されたと考えられています。これらの版は手稿伝承や写譜譜例の差異により識別され、楽曲構想の変遷やバッハのオルガン技術・登録(レジストレーション)に対する考え方の変化を示します。

資料と版の問題

BWV 532aに関する情報は写譜や版の比較研究によって得られます。主要な情報源はバッハ・デジタル(Bach Digital)、IMSLP上のスコア、各種版(BärenreiterやBreitkopf等)および近年の学術論文です。版ごとに音形の追加・削除、手の分配、ペダルの書法、装飾の有無などが見られ、演奏家はどの版を参照するかで解釈が変わります。学術的にはBWV番号体系(Bach-Werke-Verzeichnis)によって532aという表記が用いられ、初期稿の存在を明示しています。

フーガの形式と主題(分析の概観)

BWV 532aのフーガは、バッハの標準的なバロック期フーガ技法を踏襲した作品で、明確な主題(テーマ)とそれに続く応答・対位進行によって構成されます。主題は調性(ニ長調)を生かした明るくしっかりした輪郭を持ち、動機の展開や転調を通じて作品全体に統一感を与えます。以下は一般的観点からの構造的要点です。

  • 主題導入(提示部):フーガの開始時に主題が順次提示され、各声部が応答することでフーガの素材が提示される。
  • エピソード:主題の断片や調性的な移動を扱う部分で、連結やモジュレーション(転調)により緊張と解放を作る。
  • 再現と発展:主題の再現、逆行的使用、断片化、スタッカート的な動機の拡大・縮小などで曲が拡大・収縮を繰り返す。
  • 結尾(コーダ):最終的に主調に戻り、主題が壮麗に提示されて終結する。

BWV 532aと532の差は、主に音形の装飾、ペダルの扱い、あるいは一部の音進行の書き換えに現れ、結果として作品の表情や手触りに影響します。初期稿では、より直線的で器技的な側面が強く、完成稿では対位法的精緻化や和声的な安定が図られていることが多いとされています。

和声・対位の特徴

このフーガはニ長調という明確な主要調を基盤に、短調へ短い側面移動を行いつつ、主にダイアトニックな和声進行で推移します。バッハ特有の対位法的操作(転倒、模倣、増強、縮小、スタッカート的断片の連鎖)が随所に見られ、特にエピソード部では主題断片を素材としてモジュレーションを進めることで曲の推進力を生み出します。ペダル書法はオルガン作品としての骨格を与え、低音の反復と動機の支えとして機能します。

演奏上のポイント(レジストレーション/テンポ/タッチ)

BWV 532aを演奏する際の実践的留意点は以下の通りです。

  • テンポ:フーガの提示部は明瞭さを優先してややしっかりとしたテンポが推奨されます。速すぎると対位線の輪郭が崩れるため、音の粒立ちと対位の独立性を保てる速さを選ぶこと。
  • レジストレーション:歴史的オルガンではフル・プランチャー(principal chorus)にペダルを加えるのが一般的です。主題が明瞭に出るよう、手鍵盤は中位のフルートやプレーンなプリンシパル系、ペダルは16'や8'の太い音で支えるのが基本的アプローチです。BWV 532aが初期稿である点を踏まえ、より軽やかなレジストレーションでバロック期の機敏さを引き出す解釈も可能です。
  • タッチとフレージング:各声部の独立性を保つために明確なアーティキュレーションが必要です。主題提示時は特に輪郭を作り、エピソードでは語り口を少し柔らかくすることで対比を付けます。
  • ペダル・ワーキング:初稿と完成稿でペダリングが異なる場合があるため、選択した版に忠実に、かつ実際の機械的可奏性を考慮して指・足の分配を工夫します。

版と校訂の選び方

演奏・研究のためには信頼できる版を選ぶことが重要です。学術的にはBärenreiter(Urtext)やBreitkopf等の校訂版が推奨され、これらは主要な写譜資料と自筆譜の比較を基に編集されています。IMSLPでは公開版や写譜の閲覧が可能で、BWV 532/532a両方の版を比較する際に有用です。演奏者は自分の解釈に合わせて初稿(532a)と最終稿(532)を比較検討し、どの箇所を採るかを明確にするべきです。

楽曲としての位置づけと影響

BWV 532はバッハのオルガン曲群の中でも技巧性と対位法的完成度が高い作品に数えられます。初期稿である532aの存在は、バッハが同一楽曲で複数段階の推敲を行っていたことを示し、作曲過程の理解に貴重な手がかりを与えます。後代のオルガン作曲家や編曲者に対しても、バッハのフーガ技法は学習と演奏の対象となり続けています。

おすすめの録音・版(代表例)

  • 録音:マリー=クレール・アラン(全集)、ヘルムート・ヴァルヒャ、トン・クープマン、ダニエル・ロス、ジャン=ギアン・ケラスなどの録音は解釈の参考になります。各演奏者は使用楽器・レジストレーションが異なるため、版の差と演奏解釈の違いを聴き比べると学びが多いです。
  • 版:Bärenreiter(Urtext)、Breitkopf & Härtel、IMSLP(写譜・公開版)を参照することを推奨します。学術的検討にはBach Digitalの資料も参照してください。

聴きどころガイド(フーガ編)

聴取時にはまず主題の提示を把握し、各声部がどのように主題を受け渡すかを追ってください。エピソードの転調箇所では主題断片がどのように再構成されるか、そして終結部に向けてどのように動機が集約されるかを意識すると、楽曲全体の構成感が掴みやすくなります。初稿(532a)と完成稿(532)を比較すると、同じ素材の異なる扱い方が聴き取れて興味深いです。

まとめ(研究と演奏への示唆)

BWV 532aのフーガは、バッハの作曲過程やオルガン音楽の演奏解釈を考えるうえで魅力的な題材です。初稿と最終稿の差異を詳しく検討することで、バッハの対位法的思考や音響設計への理解が深まります。演奏では版選択・レジストレーション・テンポ設定が解釈に大きな影響を与えるため、史的資料と現代の楽器事情を照らし合わせた慎重な判断が求められます。

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参考文献