バッハ:ノイマイスター・コラール集(BWV1090–1120)徹底解説 — 発見から演奏まで

概要:ノイマイスター・コラール集とは何か

ノイマイスター・コラール集(Neumeister Collection)は、コラール前奏曲(コラールプレリュード)を中心とする手稿集合で、後世の写譜者ヨハン・ゴットフリート・ノイマイスター(Johann Gottfried Neumeister)が編んだ写本が出発点になっています。この写本から発見された稿の中に、ヨハン・セバスティアン・バッハに帰される作品群が含まれており、これらはBWV(Bach-Werke-Verzeichnis)番号のうち1090番台から1120番台に割り当てられています。

これらの楽曲は規模としては短めの前奏曲が多く、典型的なコラール旋律を素材として用いながらも、バッハの多様な作曲技法――対位法的処理、装飾的変奏、二声/三声の配置、ペダルを含む独立した声部の扱いなど――が示されています。発見と版の公刊により、バッハのオルガン作品群の理解は大きく広がりましたが、同時に出所や帰属に関する検討も活発になり、現在でも一部は帰属が確定していないものがあります。

発見の背景と歴史的意義

ノイマイスター写本は、18世紀末から19世紀初頭にかけての写本伝承が残る史料の一つです。19世紀以降、多くのバッハ作品は写本を通じて伝えられてきましたが、ノイマイスター写本は長らく注目されずに存在していました。20世紀末になって再評価され、その中からバッハの作品と考えられる短いコラール前奏曲群が学界の関心を集めました。

この発見は二つの点で重要です。第一に、バッハのオルガン作品のレパートリーが物理的に拡大したこと。第二に、作品の様式的特徴から彼の作曲年代や発展過程を考察する材料が増えたことです。特に初期から中期に至るまでの様式の揺らぎや、南ドイツ・北ドイツのオルガン伝統との接点を検討できる点が学術的価値を高めました。

収録曲とBWV番号について(概観)

ノイマイスター写本由来の作品は、一般的にBWV1090からBWV1120の範囲に含まれるものが多く、それぞれが短いコラール前奏曲として分類されています。個々の曲は元々は礼拝に関連するコラール旋律に基づき、前奏や応答、替え歌的な変奏などの機能を担ったと考えられます。

重要なのは、写本由来であっても作曲者の帰属は一律ではない点です。写譜者の注記や同一旋律の他の伝承、音楽学的な様式分析により、J.S.バッハ作とする意見、家族や同時代の門弟の作とする意見が分かれるものがあります。そのためBWV番号の割り当てがあっても、今日の学界では個別に帰属の信頼度が議論されます。

音楽的特徴と様式的分析

ノイマイスター由来のコラール前奏曲群に共通する特徴を挙げると、以下の点が注目されます。

  • 短い形式で完結する点:長大なフーガや厳格な前奏曲に比べ、実用的に即した短い合奏様式が多い。
  • 対位法と和声の巧みな結合:旋律の装飾や下声部の動きが、コラール旋律の自然な流れを損なわずに対位的に扱われる。
  • 手鍵盤のみで完結する〈manualiter〉作品と、ペダルを含む〈pedaliter〉作品の混在:教会での実践に即した配慮が見える。
  • 装飾的な禱唱的扱いや即興的要素の残存:後期バロック的な完全整備された書法というよりは、即興感や地域的な特徴が残る例がある。

これらの特徴は、バッハがオルガン作曲を通じて習得した技術と実践上の要請が反映された結果と理解できます。特に、短い前奏曲でありながらも内的緊張と解決を持たせる構成力は、若き日の習作段階から成熟期に至る過程を読み取る手掛かりになります。

典型的な形式と機能

コラール前奏曲にはいくつかの典型的な型があります。旋律の単純な伴奏を行う伴奏型(accompanied chorale)、旋律を長音で保持し下声部で装飾的に動くオルガン独特の表現、三声あるいは三部形式で合奏音楽的に展開するトリオあるいはフーゲット形式などです。ノイマイスター群では、これらが短い時間で凝縮され、礼拝の実際(合唱や会衆歌の導入、聖餐など)に合わせて機能していたことがうかがえます。

様式比較:北ドイツと中央ドイツの影響

バッハのオルガン作曲は、北ドイツのブクステフーデらの華麗で自由な即興的伝統と、中央ドイツの整然とした対位法――例えばパッヘルベル等の影響――の両者の要素を取り込んでいます。ノイマイスター写本の諸作はいずれの流れも反映しており、特に装飾的な上声の扱いや、対位法的技巧の配置において両者の結合が見られます。

実践的な演奏上のポイント

演奏者がノイマイスター由来のコラールを扱う際の実践的注意点は以下の通りです。

  • 登録(ストップの選択):短い楽曲の中で旋律が際立つように登録を絞ることが効果的。会衆歌を支える機能であれば明瞭な音色、独奏的表現を狙うなら柔らかいフルート系のストップの活用を考える。
  • 装飾の扱い:写譜上の装飾符は地域や写譜者ごとに解釈が分かれる。装飾を過度に演出せず、旋律の流れを損なわないことが重要。
  • テンポ感と発語:礼拝中の前奏曲としての機能を意識し、歌唱や会衆の動作と呼吸が合うようにテンポを取る。
  • ペダルの使用:ペダル声部が独立する箇所では明瞭な足捌きと音価の区別を重視する。古楽器ではペダルのニュアンスが現代オルガンと異なるため調整が必要。

版と録音・受容史

ノイマイスター稿の公開後、楽譜刊行と録音が相次ぎました。学術的校訂版やリサーチペーパーが提示され、オルガン奏者たちによる録音は多様な解釈を示しました。歴史的演奏慣習に則った解釈、あるいは現代オルガンでの雄大な演奏など、演奏環境によって曲の表情は大きく変わります。

研究面では、写譜伝承の検討、作曲年代の推定、類似旋律との対照検討などが進められ、結果として一部作品の帰属が他作曲家に移される例もあります。これによりノイマイスター群は単なる「発見物」ではなく、バッハ研究および18世紀末から19世紀初頭の写譜文化を読み解く重要資料として位置づけられています。

学術的論点と未解決問題

現在も議論が続く主な論点は次の通りです。

  • 個別作品の真確な帰属:筆跡学、典礼的使用跡、和声・対位法の分析により帰属が検討されている。
  • 作曲年代の推定:様式比較による年代推定は可能だが確定的証拠を欠く場合がある。
  • 写本が伝えた演奏慣習の解釈:装飾符や指示の意味が地域差・時代差により変化するため、史実に即した演奏解釈が必要。

まとめ:ノイマイスター・コラール集の位置づけ

ノイマイスター・コラール集由来のBWV1090–1120群は、バッハのオルガン作品群を理解する上で欠かせない資料です。短いながらも緊密に構成された楽曲群は、礼拝音楽としての実用性と作曲技術の結合を示しており、バッハ研究・演奏史の両面で重要性を持ちます。帰属や写本の来歴に関する学術的検討は続いており、今後も新たな知見が出される可能性があります。聴き手としては、各演奏の解釈差や楽器の違いを楽しみつつ、楽曲が持つ即興性や祈りの感覚を味わうことができるでしょう。

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参考文献