バッハ:BWV1037 ソナタ ハ長調 — 深層解説と演奏ガイド
作品概観
BWV 1037 は「ソナタ ハ長調」としてバッハ作品目録(BWV)に収められている番号です。作品番号だけを見ると一見明瞭に思えますが、作曲時期・編成・原典などについては議論があり、演奏史・版の流通にも影響を与えてきました。本稿ではまず作品の帰属と伝来を整理し、その音楽構造と様式的特徴を分析し、演奏・解釈の実践的な指針、さらには利用可能な版・資料と参考録音・研究文献を紹介します。
成立と帰属問題(概観)
BWV番号はヴォルフガング・シュミーダーによるカタログで管理されていますが、番号の付与は作品の帰属や成立年代の確定とは必ずしも一致しません。BWV 1037 についても、稿本の筆跡や写本の伝来、楽器編成の記述の有無から、J.S.バッハの自筆か、あるいは弟子・同時代の作曲家による写し/編曲かという議論が伝統的にあります。そのため、楽曲を扱う際には「バッハ作品として演奏する」立場と「帰属に慎重な立場」の双方を踏まえることが重要です。
楽器編成と演奏上の位置づけ
表題に「ソナタ」とある場合、バロック期の慣習としてはフルート(またはヴァイオリン)と通奏低音(通奏鍵盤+チェロ/ヴィオローネ等)という編成が想定されることが多いです。BWV 1037 もその範疇で演奏されることが一般的ですが、原典がフルート独奏用なのかフルート+通奏低音なのか、あるいは鍵盤独奏用に編曲されたものかについては写本や版によって解釈が分かれる場合があります。
様式的特徴と分析(総論)
バッハ(または同時代の作曲家)がハ長調でソナタを書く場合、明るく開放的な音調を生かした対位法的な展開や、シンプルな二声的あるいは三声的テクスチャを用いる傾向があります。旋律は有機的な動機連結と発展、通奏低音は和声基盤と同時に対位的役割を果たすため、ソロ楽器と通奏の間で緻密な対話が行われます。
各楽章の想定構成と音楽的ポイント
- 第1楽章(序奏的・歩合の緩い楽章)
多くのバロック・ソナタの第1楽章はゆったりとした序奏的性格か、あるいは緩徐→速い部分を含むことがあります。主題の提示部では明確な動機が示され、それが短いシーケンスや転調を通じて発展します。フレージングは呼吸を念頭に置いた自然な区切りに基づき、装飾は時代的慣習に従って補助されるべきです。
- 第2楽章(速い舞曲風・対位法的展開)
速い楽章ではスケーリングやアルペジオ的なパッセージが目立ちます。バッハ的な対位法が前面に出るときは、ソロと通奏の間で主題が掛け合う場面が見られ、短い模倣や転回、偽終止からの再生などが聴きどころになります。運指・舌使い(フルートの場合)を含め技術的な検討が演奏に直結します。
- 第3楽章(歌唱的緩徐楽章/終楽章)
終楽章はダンス風のリズムやリトルネロ的繰り返しを持つことがあり、曲全体を閉じるための再現的要素やコーダが置かれることがあります。ここでの装飾は抑制的に、しかし表現的に用いるのが当時の習慣です。
対位法と和声進行の見どころ
バッハに由来する作品であれば、簡潔な動機が対位法的に発展していく過程に注意すると、作曲者の構築法が読み取れます。特にハ短調とハ長調の近接関係、ドミナント周りの転調処理、二次属和音や二度進行(連続した第五進行)をどう扱うかは音楽的緊張の作り方に直結します。通奏低音の実現は和声の綾を形作る重要な手がかりです。
演奏・解釈の実践ポイント
- テンポ設定:バロックのテンポは現代理論に一対一で当てはまらないため、舞曲性や語りの自然さを重視して決める。速楽章は技巧的明晰さ、緩楽章は歌唱的なフレーズを優先する。
- 装飾(オルナメント):主要な装飾は楽曲の語法として機能する。トリルやモルデントは文脈依存的に用い、過剰な装飾は主題の輪郭を曖昧にする。
- 通奏低音の扱い:鍵盤奏者は補助的和声にとどまらず、対位的要素を補強する役割を担う。バス楽器(チェロ等)は和声の輪郭をしっかり支える。
- 音色・ヴィブラート:歴史的演奏慣習に則り、フルートのヴィブラートは場面ごとに節度をもって用いる。音色はフレーズのアーチを作るための重要な手段。
版・資料と校訂上の留意点
原典に直接当たることが最も望ましいため、可能であれば写本や初期版のファクシミリを参照してください。近年はオンラインで写本画像を公開している機関もあり、校訂を行う際には筆写者の訂正跡や目立つ誤記に注意を払う必要があります。現代版では装飾符の付与や指使いの推定が編集者によって異なるため、複数版を比較検討することをおすすめします。
録音と聴きどころ(聴衆向けガイド)
聴取時には、まず各楽章の構造(反復やコーダの有無)を意識し、ソロと通奏の対話に耳を傾けてください。速いパッセージでは明晰さと呼吸のポイント、緩徐楽章ではフレーズの呼吸と装飾の位置が鑑賞の鍵になります。複数の録音を比較することで、演奏慣習やテンポ感、装飾法の違いが浮かび上がり、曲の多面性を理解できます。
学術的研究と今後の課題
BWV 1037 に関する研究は、写本・校訂史・演奏実践の三点が中心課題です。帰属問題を巡る文献学的検証、写譜者や写本の流布経路の再検討、近年の演奏史的アプローチを踏まえた新たな録音・校訂の提示が今後の研究の焦点となるでしょう。
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参考文献
- Bach-Digital(バッハ・デジタル) — 作品データベース
- Neue Bach-Ausgabe(バエレンライター) — 完全版カタログ
- Grove Music Online(オックスフォード音楽大事典) — バッハ関連記事
- IMSLP(楽譜ライブラリ) — 楽譜・写本の参照
- Bach-Werke-Verzeichnis(BWV) — 作品目録の概説(参考)


