カプリース(Caprice)とは?歴史・名曲・演奏の魅力を徹底解説
カプリースとは何か — 名称と概念
「カプリース(caprice/capriccio)」は、音楽用語として「気まぐれ」「気紛れ」を意味するイタリア語に由来し、定型に縛られない自由な表現・構成を特徴とする小品を指します。古くはバロック期から見られ、器楽独奏や管弦楽の小品、さらにはオペラの副題に用いられてきました。楽曲の形態としては短く、幻想的・即興的な性格を持つことが多く、作曲者の個性的な技巧や感情表現が色濃く反映されます。
歴史的な展開
カプリースの源流はバロック期にさかのぼり、自由な奏法や即興風のスケッチが演奏されていました。代表的な初期例として、J.S.バッハの鍵盤曲『愛する兄との別れのためのカプリッチョ(Capriccio on the Departure of a Beloved Brother)』BWV 992が挙げられます。バロックから古典派、ロマン派を通じて、カプリースは次第に個人の技巧や感情を前面に出す場となりました。
19世紀になると、ニコロ・パガニーニ(1782–1840)の《24のカプリース》がカプリースというジャンルを代表する存在となり、ヴァイオリン独奏の技巧書としての側面と芸術作品としての価値を両立しました。その影響はピアノ曲や管弦楽にも波及し、チャイコフスキーの《イタリア奇想曲(Capriccio Italien)》Op.45やリムスキー=コルサコフの《スペイン奇想曲(Capriccio espagnol)》Op.34など、民族色豊かな管弦楽作品にも発展しました。
代表的な作品と作曲家
- ニコロ・パガニーニ:24のカプリース — ヴァイオリン独奏のための24曲集。技巧的な難易度と独創的な発想で知られ、後世の作曲家や演奏家に多大な影響を与えました(作曲期間は19世紀初頭、出版は1819年頃)。
- J.S.バッハ:BWV 992 — 「愛する兄との別れのためのカプリッチョ」。鍵盤楽器のための作品で、物語的・表情的な構成が特徴です。
- ピョートル・チャイコフスキー:イタリア奇想曲(Capriccio Italien)Op.45 — イタリア旅行の印象を管弦楽で描いた華やかな作品。
- ニコライ・リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲(Capriccio espagnol)Op.34 — スペイン音楽の色彩と管弦楽的な技巧が見事に融合した作品。
- リヒャルト・シュトラウス:オペラ『カプリッチョ(Capriccio)』 — 1942年に初演されたオペラで、音楽と言葉の関係を論じる“会話劇”的な作品。
- セルゲイ・ラフマニノフ:ラプソディー(作品におけるカプリース的利用) — 代表的な例としてパガニーニ第24番の主題を取り入れた《パガニーニの主題によるラプソディ(Rhapsody on a Theme of Paganini)》Op.43(1934)は、カプリース的主題の変奏可能性を示す好例です。
楽曲的特徴と形式(何が“カプリース”らしさを作るか)
カプリースの共通点として、次のような特徴が挙げられます。
- 自由な構成:厳密なソナタ形式やリート形式に従わない、エピソード的・断片的な展開。
- 即興性の匂い:装飾的で即興風のフレーズや突発的な転調、リズムの変化。
- 技巧の見せ場:特にヴァイオリンやピアノの独奏曲では、左手・右手の特殊奏法、トリル、スピッカート、ハーモニクス、ダブルストップ(重音)など、技術を誇示するパッセージが多い。
- 表情の急激な変化:テンポやダイナミクスの急変、情緒の起伏の激しさ。
- 短いが印象的な主題:短い動機やリフが曲全体を牽引する場合が多く、変奏や発展の素材として使われる。
特にパガニーニの第24番のように「主題と変奏」の形式をとるカプリースは、短い主題から多彩な技法とドラマを引き出す点でジャンルの典型とされています。
演奏と練習上の意義
カプリースは単なる見せ物ではなく、演奏技術の到達点と表現力を同時に鍛える教材としても重要です。ヴァイオリンのカプリースは、ボウイングのコントロール、左手のポジション移動、音色の変換、鋭いアーティキュレーションなど、総合的な技術を鍛えるのに最適です。教師はしばしばエチュード(練習曲)とカプリースを組み合わせ、技術的課題を音楽的文脈に落とし込む形で指導します。
練習のポイントとしては、ゆっくりしたテンポでの確実な音程とリズムの把握、部分練習による難所の分解、録音して外部から聴くことによる表現の客観化などが挙げられます。またカプリースには即興的な要素があるため、決まり切った弾き方だけでなく、フレージングやテンポ処理の自由度を持たせることがしばしば求められます。
編曲・再解釈と現代的利用
多くのカプリースは他楽器用に編曲され、別ジャンルへ橋渡しされてきました。パガニーニの主題はピアノや管弦楽、室内楽、さらにはジャズやポピュラー音楽の素材としても取り上げられています。リストやラフマニノフなどの作曲家がパガニーニの主題を出発点にして大規模な変奏曲や練習曲を作ったことは、カプリースが持つ“多様な変容可能性”を象徴しています。
聴きどころと選曲のヒント
カプリースを鑑賞する際のポイントは、表面的な技巧だけでなく「意外性」と「内的な一貫性」を探すことです。短い楽想がどのように発展し、どの瞬間に作曲者の“気まぐれ”が表れるのかに注目すると、曲の面白さが見えてきます。入門者はまず、チャイコフスキーやリムスキー=コルサコフの管弦楽作品で色彩感を楽しみ、演奏家志向の聴き手はパガニーニの原典演奏や名演奏家の録音で細部の技巧と表現を比較するのがおすすめです。
代表的な録音(参考)
- ニコロ・パガニーニ《24のカプリース》:Jascha Heifetz、Salvatore Accardo、Nathan Milsteinなどの録音は歴史的評価が高く、各演奏家の個性を比較することで演奏解釈の幅が見えます。
- チャイコフスキー《イタリア奇想曲》やリムスキー=コルサコフ《スペイン奇想曲》:各国の名門オーケストラと著名指揮者による録音で、色彩的な管弦楽表現を楽しんでください。
- シュトラウス《カプリッチョ(オペラ)》:歌手とオーケストラの対話の妙を聴き取ると、カプリッチョの持つ劇的側面が理解できます。
まとめ — カプリースが教えてくれること
カプリースは「自由」と「技巧」の交差点に立つ音楽です。即興的な気まぐれさ、技術的挑戦、民族色や物語性を含む多様な顔を持ち、作曲家や演奏家の個性を如実に映し出します。聴く側も弾く側も、型にはまらない表現と技巧の融合を通じて、新たな音楽的発見を得られるジャンルと言えるでしょう。
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参考文献
- カプリース(Wikipedia 日本語)
- 24 Caprices for Solo Violin (Niccolò Paganini) — Wikipedia (English)
- Capriccio on the Departure of a Beloved Brother (Bach) — Wikipedia (English)
- チャイコフスキー:イタリア奇想曲(Wikipedia 日本語)
- リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲(Wikipedia 日本語)
- リヒャルト・シュトラウス:カプリッチョ(Wikipedia 日本語)
- Rachmaninoff: Rhapsody on a Theme of Paganini — Wikipedia (Japanese)


