ABACA形式とは何か — ロンド形式の深掘りと分析ガイド
はじめに:ABACA形式の概観
ABACA形式は、音楽の形式論でしばしば「ロンド(rondo)」の一種として扱われる反復と対照を基盤とする構造です。基本的な形式記号で表すと、主題Aが定期的に戻り、その間に複数の異なるエピソード(B, C)が挟まれる配置、すなわちA–B–A–C–Aという並びになります。古典派以降の器楽作品の終楽章やカデンツァ的な楽章で多用され、聴衆に親しみやすい回帰感と、エピソードによる新鮮さを両立させます。
ABACA形式の基本構造と要素
ABACAは次のような機能的区分を持ちます。
- A(主題・リトルネル):主題Aは通常トニック(主調)にあり、はっきりした動機と終止感を持ちます。形式全体の帰着点であり、各回で完全あるいは装飾的に回帰します。
- B(第1エピソード):Aと対照をなす部分。調性はしばしば属調や近親調に移り、リズム・音色・扱いが変化します。長さや内部構造は可変。
- C(第2エピソード):さらに対照的な素材。Bとは異なる調性や主題性を示し、しばしばより劇的/コントラストの強い性格を持ちます。
- 転換部・接続部:Aとエピソードの間は短い導入やブリッジで繋がれ、調性の移動や再導入のための機能を果たします。
調性設計(トナル・プラン)
古典派以降のABACAでは調性が形式の理解に重要です。典型的には:
- A:主調(トニック)
- B:属調、平行調、あるいは近接する調(例:トニックの属、または関係短調/長調)
- A:トニックへ回帰
- C:より遠隔の調あるいは平行調へ移動(劇的対比を生む)
- A:最終的にトニックで再現して終結
この調性移動が、回帰に伴う安心感とエピソードによる緊張の変化を生みます。Cがより遠隔の調へ踏み込むほど、最後のAの戻りは「解決」としての効果が強まります。
ABACAとロンド・フォーム、リトルネルとの関係
「ロンド」とは一般に、A主題が繰り返し現れ、エピソードが挟まる形式を指します。ABACAはロンドの具体例であり、同時にバロックのリトルネル(ritornello)形式との親縁性も持ちます。違いをまとめると:
- リトルネル(バロック協奏曲など):大規模なオーケストラのリフレイン(ritornello/tutti)が現れ、ソロがエピソード的に展開する。リトルネルは断片的で調性移動が頻繁。
- ロンド(古典派以降):A主題が明確に完全帰結し、エピソードは対照的に設定される。ABACAはその典型形の一つ。
- ソナタ=ロンド(sonata-rondo):ABACABAなどのロンド形にソナタ的発展・展開(development)や再現の機能を取り入れた形で、ABACAを拡張したり、BやCが発展部的役割を担ったりする。
歴史的背景とジャンル的使用
ABACAタイプのロンドは18世紀後半から19世紀にかけて特に多用されました。古典派のソナタや室内楽、ピアノ・ソナタの終楽章で好んで用いられ、聴衆に親しみやすい反復構造を提供しました。19世紀ロマン派でも寓話的・軽妙な楽章(小品やカプリッチョ)に採用されます。バロックのリトルネルを祖型としつつ、古典派で明確なA主題の回帰と対照的なエピソードという形で定着しました。
作曲技法:Aの変奏とエピソードの役割
重要な点は、毎回戻るAが「まったく同じ」ではないことが多い点です。作曲家は次のようにAを変化させます。
- 装飾やハーモニーの変化(オブリガートや装飾的パッセージの付加)
- 伴奏形(アルベルティ、オスティナート、ストリングスの色彩)の変化
- ダイナミクスやテクスチャの変更(薄く・厚く、独奏化など)
- 終止形の変化(略式にして次へ繋ぐ、あるいは完全終止で区切る)
BやCのエピソードは単なる対比以上の働きをします。短い主題群を提示して展開的に扱われることもあり、特にsonata-rondoではCが展開部の役割を担って動機を発展させたり、調性的に遠心力を与えて再現の効果を引き立てます。
分析の実際:どこをどう分析するか
ABACAを分析する際のチェックリスト:
- 各Aの始点と終止(主調への完全終止かどうか)
- B, Cの調性とその始終点(転調経路)
- Aの反復における変化点(装飾、和声替え、伴奏形)
- 接続部やブリッジの存在と機能(調性移行、動機的連結)
- 動機的な共通素材の有無(AとB/Cの共通動機があるか)
- 最後のAの終結方法(コーダを伴うか、フェードアウト的な終止か)
楽譜上は、形式記号と並行して和声分析(ローマ数字)や動機ラベリング(a, b, c…)を行うと、細部の関係が見えやすくなります。
代表的な用例と聴取上のポイント
ABACAは多くの作品に現れます。ジャンル別の聴取ポイントは:
- ピアノや室内楽の終楽章:Aの親しみやすさと、B/Cの色彩の違いを聴き分ける。Aが戻るたびにどのように変化しているかに注目。
- オーケストラ作品のロンド:編成による色彩の違い(管楽器のソロ、弦の伴奏形)を聴く。リトルネルと比較して、Aの復帰がどれほど完全かを見る。
- ソナタ=ロンド:BやCが展開部的に機能するかどうかを確認すると、形式の混成性が理解できる。
演奏上・解釈上の注意点
演奏者は単にAを『同じもの』として繰り返すのではなく、会話のように「回帰の度合い」を調整します。具体的には:
- 第1回のAは提示的に、中央のAは対照を支えるように、最後のAは総括的に演奏する。
- 各エピソードで音色を変え、聴衆に明確な対比を提示する。
- テンポ感は一貫性を保ちつつ、接続部で推進力を付加して緊張を作る。
形式の変種と現代的な応用
ABACAは固定された鋳型ではなく、作曲家は自由に変奏します。代表的変種には:
- ABACABA(七部形)など、Aの回帰回数を増やした拡大ロンド
- sonata-rondo(ソナタと融合)で、BやCが発展・再現の機能を兼ねるもの
- 複合ロンド:各エピソード自体が二部形式や小さなソナタ形式を含む場合
現代作曲でもロンドの手法は使われ、モジュラー的回帰や反復と対比の扱いが新しい意味づけを持つことがあります。
まとめ:ABACAの魅力と分析の価値
ABACA形式は、反復による親密さとエピソードによる新鮮さを両立させるため、作曲技法として極めて有効です。形式分析を通じて、なぜ「戻ること」が聴き手に安心を与え、なぜエピソードが強い印象を残すのかが見えてきます。演奏や編曲に際しては、各回のAの変化とエピソードの色彩を意識することが重要です。
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参考文献
- Britannica — Rondo (Encyclopaedia Britannica)
- Oxford Music Online / Grove Music Online (Rondo, Ritornelloなどの項目)
- IMSLP — Mozart: Rondo Alla Turca (K.331)(楽譜)
- IMSLP — Beethoven: Rondo a capriccio, Op.129(楽譜)
- Grove Music Online — "Rondo" 記事(DOI/有料)
- Oxford Reference — Sonata-Rondo, Rondoの定義
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