グラフィックイコライザー完全ガイド:原理・使い方・プロのテクニックと落とし穴
はじめに
グラフィックイコライザー(Graphic Equalizer)は、音響・音楽制作・PA現場で広く使われるツールで、特定の周波数帯域の音量を視覚的に把握しながら操作できる点が特徴です。本稿では原理から実務での使い方、測定や耳の使い方、デジタル/アナログの違い、よくある誤解までを詳しく解説します。実践的な設定指針も提示するため、エンジニアやクリエイター、音響に興味がある方に有益な情報を目指します。
基本原理:スライダーで“帯域ごとの増減”を行う
グラフィックイコライザーは、固定された中心周波数(センター周波数)ごとにブースト/カットするスライダーを備えたEQです。スライダーの数は一般に10、15、31などがあり、31バンドは20Hzから20kHzまで1/3オクターブずつ分割した帯域をカバーすることが多いです。各スライダーは通常デシベル単位でゲインを調整し、複数スライダーの操作によって全体の周波数特性を形成します。
フィルターの種類とフィルタ特性
グラフィックイコライザー内部の各バンドは、一般にピーキング(ベル)型フィルターで実装されています。多くのユニットでは端の帯域がシェルビング(低域・高域の段付き)特性を持つことがあります。重要なパラメータは中心周波数、帯域幅(Q)/フィルタの幅、ゲインです。グラフィックEQは中心周波数とQが固定されているため、特定の周波数を“視覚的に”直感的に操作できる利点がありますが、パラメトリックEQほどピンポイントな操作はできません。
バンド数と分解能:1/3オクターブとクリティカルバンド
一般的に31バンドEQは1/3オクターブ分解能を持ち、人間の聴覚の『クリティカルバンド』とおおむね整合します。クリティカルバンドとは、人間が音の混ざり合いを識別する最小の周波数幅のことで、EQの帯域を1/3オクターブ単位にすることで音響的に自然な調整が可能になります。10バンドEQはおおざっぱな補正やライブの素早い調整に向き、31バンドは部屋のルームチューニングや精細な変化検討に適しています。
グラフィックEQとパラメトリックEQの違い
パラメトリックEQは中心周波数・Q・ゲインを自由に設定できるため、狭帯域での鋭い補正や特定の共鳴の除去(問題帯域のノッチ)に向きます。一方、グラフィックEQは視覚的に周波数特性を“グラフ”として直感的に操作でき、複数帯域を同時に滑らかに調整するのに強みがあります。実務では両者を併用することが多く、まずグラフィックで大まかな整形を行い、パラメトリックで微調整や問題の特定箇所を処理するワークフローが一般的です。
現場での用途別ポイント
- ライブPA:フィードバック(ハウリング)対策として問題周波数をカットする用途が最も一般的。31バンドを用いてホールの定在波やスピーカー・会場の特性を補正する。
- スタジオミックス:トラックやバスでのキャラクター作り、大まかなバランス調整に。ミックス段階ではパラメトリックでの調整が多いが、マスター段やオーバービュー用にグラフィックを使うケースもある。
- ルームチューニング:測定器(RTA、スペクトラムアナライザ)と併用して部屋の定常状態を補正。1/3オクターブ仕様のEQは部屋のエネルギー分布を自然に整えるのに適している。
- ライブモニター:ミュージシャン個別のモニタリングで耳障りな帯域を素早くカットし、クリアさを確保する。
実践テクニック:測定と耳の組み合わせ
効果的なEQは『測定』と『耳』の両立で得られます。まずRTAや測定マイクで周波数特性を計測し、目立つピークやディップを特定します。次にグラフィックEQで広がりのある調整(隣接帯域も含めて滑らかに)を行い、最後に耳で聞いて微調整します。フィードバック対策では、フィードバックが発生したときに該当帯を少しずつカットしてハンティング(大きく切りすぎて音色を損なう)を避けることが重要です。
注意点と落とし穴
・過度なブーストは歪みやヘッドルームの低下を招く。特にアナログ回路ではクリッピングやノイズ増加に注意する。
・隣接帯域の重なり(フィルタのQによる)で意図しない位相変化やピーク・ディップが生じる。大型のブースト/カットを複数バンドで行うと位相干渉が目立つ。
・“見る先行”で聴感を無視して操作すると不自然な音色になる。測定は導き手であり、最終的には耳での確認が必須。
・ライブでのスライダー調整は誤操作やスライダーノイズを招くため、シンプルな補正を心がける。
デジタルとアナログの違い
デジタルEQ(プラグインやデジタルミキサー内蔵)は、精度・再現性・プリセット管理・視覚化の面で優れ、帯域幅やフィルタ形状を可変にしたり、線形位相フィルタを選べるものもあります。アナログのグラフィックEQはサウンドに色付けが出ることがあり、温かみや独特の挙動を好むエンジニアも多いです。測定ベースのルーム補正ではデジタルでの緻密な操作が有利ですが、ライブの即応性や”触って直感的に操作する”という面ではアナログ機器の良さも残ります。
構築・設置時のチェックリスト
- 入力レベルと出力レベルを適正に合わせる(-18dBFSや0VUを基準にする等)。
- 過度なブーストは避け、必要なら代替策(マイクのポジショニング、スピーカーの位相調整)を検討する。
- フィードバック抑止はまずゲイン構造とマイク配置の見直し、その上で必要最小限のカットを行う。
- プリセットやスナップショットを活用して設定を記録し、変更履歴を残す。
よくある誤解
・「多くブーストすれば良く聴こえる」:ブーストしすぎると音が不自然になり、マスター段での調整余地を失う。
・「グラフィックEQで全て解決できる」:場末の共鳴や位相問題、録音時の問題はEQだけでは解決できないことが多い。
・「帯域をいじれば必ず改善する」:時にカットするよりも別のプロセス(コンプレッション、マイク変更、配置調整)が正解となる。
最新トレンド:ビジュアライズと自動補正
現代のデジタルEQやDSP機器はリアルタイムのスペクトラム表示や自動補正アルゴリズムを搭載しており、測定結果を基に自動でフィルタを提案する機能が増えています。ただし自動補正は万能ではなく、オーディオの目的(音楽性・自然さ)を考慮した人間による判断が補完されるべきです。
まとめ
グラフィックイコライザーは視覚的に周波数特性を操作できる便利なツールで、ライブ、ルームチューニング、ミックスの大まかな整形など広範な用途に適しています。実務では測定と耳を組み合わせ、過度な処理を避けることが重要です。パラメトリックEQとの使い分けを理解し、目的に合わせた帯域数や機種(アナログ/デジタル)を選ぶことで、より良い音作りが可能になります。
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参考文献
- Graphic equalizer — Wikipedia
- Equalization (audio) — Wikipedia
- Critical band — Wikipedia
- Sound On Sound — Articles on EQ and graphic equalisation


