短三和音とは何か — 構造・機能・実践ガイド

短三和音とは

短三和音(たんさんわおん、minor triad)は、音楽和声の基本的な構成要素のひとつで、基音(根音)から長3度と完全5度ではなく、短3度(小3度)と完全5度でできている三音の和音です。一般に「m」「min」「-」などの表記で示され、クラシック、ジャズ、ポピュラー音楽を問わず広く用いられます。和音の性格としては、一般に「暗め」「陰影のある」「哀愁を帯びた」響きと形容されますが、その機能や文脈によって印象は大きく変化します。

構造と音程

短三和音は三つの音から成り立ちます。順に基音(根音: R)、短三度(m3: 3半音上)、完全五度(P5: 7半音上)。たとえばC短三和音(Cm)は音階順にC–E♭–Gです。主要なポイントは次の通りです。

  • 短三度(小3度): 根音から3半音上。これは和音の「短(minor)」たる所以。
  • 完全五度: 根音から7半音上、和音の安定性を担う。
  • 構成としては短三度+長三度(3半音+4半音)で成り立つことが多い(根音から見ると短3度、上方向へ積むと長3度が続く)。
  • 転回形: 根音位置(根位)・第一転回(6)・第二転回(6/4)と表記される(通例、通奏低音の記譜法や楽曲分析で用いる)。

音律と倍音構造

短三和音の音程は調律方式によりわずかに変わります。平均律(12平均律)における短3度の比率は2^(3/12) ≒ 1.1892ですが、純正律(ジャスト・イントネーション)では短3度は6:5(比率1.2)で表されることが多く、完全5度は3:2です。純正律における短三和音の比は1 : 6/5 : 3/2、整数比で表すとおよそ10:12:15となります。

これにより、純正律では短三和音はやや豊かな倍音の一致を示し、平均律の短3度よりも「わずかに広く」聴こえる傾向があります。音色や感情表現に微妙な影響を与えるため、古楽復元や一部の現代音楽では調律選択が重要になります。

調性における機能

短三和音は調性(トーナリティ)内で様々な機能を果たします。具体例を挙げると:

  • 短調の主和音(i): 自然短音階・和声的短音階での主和音は短三和音。例:CマイナーならCm(C–E♭–G)がi。
  • 副和音としての短三和音: 長調においても第二度(ii)、第三度(iii)、第六度(vi)が短三和音となる。たとえばC長調ではDm(ii)、Em(iii)、Am(vi)。これらは副属、媒介、代替の機能を果たす。
  • 和声的利用: 和声的短音階(harmonic minor)や旋法的短音階(melodic minor)における和声処理では、短三和音はV(属)の形をとらない場合や、和声的改変により属和音が長三和音化するため文脈依存となる。

またモードや現代和声では、短三和音単独での機能だけでなく、並進や平行移動(例: i–VI–VII など)により進行感を作る手法も多用されます。ポピュラー音楽ではI–vi–IV–V のように長調の中に短三和音(vi)を組み込むことで感情の深まりを演出します。

記譜法・表記・分析

短三和音は和音記号では「m」や「min」、記号マイナス(例:C-)で表されます。ローマ数字分析では、調によってi, ii, iii, iv, v, vi などの位置に短三和音が現れます。通奏低音やバロック期の通時的分析では、根位置における5/3、第一転回は6、第二転回は6/4 と示します。第二転回は機能的には不安定で、通常は他の和音へ解決するパッシングや装飾的役割を持ちます。

声部書法と倍音の扱い

四声体(ソプラノ・アルト・テノール・バス)で短三和音を扱う際の一般的な注意点:

  • 根音の倍音: 根音を複数声で倍音することが多く、和音の安定性が増す。特に主和音(i)では根の倍音を優先。
  • 導音の扱い: 長調では導音(属音の半音上)が重要で、マイナーキーでは和声的改変により導音を出すか否かで和声機能が変わる。短三和音自体は導音を含まない場合が多い。
  • 声部間の平行五度・八度の回避: 旋律的・和声的に平行5度や8度が起きないように配慮するのは基本ルール。
  • 第一転回の利用: 第1転回(6)は和声的に滑らか、旋律的には上声を引き立てることが多く、バスラインに変化を与えたいときに良く使われる。

音楽ジャンル別の使われ方

短三和音はジャンルによって用法や意味合いが変わります:

  • クラシック: 機能和声の内部で緊張と解決の一部を担う。短調作品では主和音として曲全体の色調を形成する。
  • ジャズ: 短三和音はマイナーセブンスや拡張コードの基礎となる。モード的進行やテンションの扱いにより色彩的に用いられる。
  • ポピュラー/ロック: シンプルなコード進行(例:I–vi–IV–V や i–VI–VII)で感情表現の核として利用される。パワーコード的な扱い(五度のみ)でロック的な力強さを出すことも多い。

耳での識別と練習法

短三和音を聴き分けるコツ:

  • 長三和音(major triad)との比較: 長三度(4半音+3半音)と短三度(3半音+4半音)の順序差が響きの明暗を作る。長三和音は明るく、短三和音は暗いと感じやすい。
  • 倍音成分の印象: 短三和音は純正律でわずかに広い短3度を持つため、わずかな“きしみ”や“豊かさ”があると認識する訓練が有効。
  • 練習法: ピアノやギターで根音から短3度と五度を弾き、続けて長三和音を弾き比べる。さまざまな音域・転回で聞き分ける。

実例(楽曲と進行)

短三和音は以下のような場面で効果的に用いられます。

  • 悲しさや内省の表現: 短調のバラードやアリアで主和音として用いる。
  • コード進行の色付け: 長調の中のvi(短三和音)を挿入することで「一時的な陰り」を作る。
  • 並進によるムード形成: i–VI–VII や i–iv–v など、短調特有の響きが連続する進行でドラマを作る。
  • モード音楽・即興: ジャズやロックの即興で短三和音をスケールやモードと組み合わせ、色彩的なフレーズを作る。

よくある誤解と注意点

短三和音についての一般的な誤解を整理します。

  • 「短三和音=悲しい」は文脈依存: 和音自体に“悲しさ”が固定されるわけではなく、周囲の和声進行やリズム・歌詞によって印象が変わる。
  • 調律での差は小さいが重要: 12平均律と純正律の差は聴き分けにくいこともあるが、演奏・録音の質感に影響を与える。
  • 転回形による機能変化: 同じ短三和音でも第一転回・第二転回では低音の役割が変わり、和声機能や進行感が変わる。

まとめ

短三和音は単純な三音の集合ながら、音楽の表現や構造に非常に大きな影響を与えます。構造的には短3度+完全5度で成り立ち、調性やジャンル、調律の違いにより響きや機能が変化します。和声の基礎として、転回形や倍音・調律を理解し、実際の楽曲での用例を分析・模倣することで、より深い運用が可能になります。

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参考文献