オーストリアの作曲家 ― ウィーンを中心に紡がれた音楽史と代表作ガイド
はじめに:オーストリアと作曲家の系譜
オーストリアは、ウィーンを中心に長くヨーロッパ音楽の中核を担ってきました。ハプスブルク帝国の宮廷文化、教会音楽の伝統、19世紀以降の市民社会とサロン文化が交差する土地柄は、多くの名作曲家を生み出しました。本稿では、古典派からロマン派、20世紀の前衛まで、オーストリア出身またはオーストリア文化圏で活動した主要な作曲家とその作品・背景を詳述します。
古典派:ハイドンとモーツァルトが築いた形式
古典派の基盤は、宮廷と教会の両方で磨かれました。ヨーゼフ・ハイドン(1732–1809)はローハウ(Rohrau)出身で、エステルハージー家に長く仕えながら交響曲と弦楽四重奏というジャンルを確立しました。ハイドンは楽曲の構成と主題展開における規範を作り、「交響曲の父」「弦楽四重奏の父」と評されます。代表作にはロンドン交響曲(いわゆるロンドン交響曲群)や弦楽四重奏曲作品群があります。
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756–1791)はザルツブルク生まれ。幼少期から欧州各地で演奏・作曲活動を行い、ウィーン期に最も多彩な作品群を残しました。オペラ(『ドン・ジョヴァンニ』『フィガロの結婚』)、交響曲、協奏曲、室内楽、宗教曲(『レクイエム』)などジャンル横断的に傑作を遺し、旋律美と劇的構成の巧みさが際立ちます。
ロマン派:シューベルトとワルツの文化
フランツ・シューベルト(1797–1828)はウィーンで生まれ、歌曲(リート)を芸術の中心に置いた作曲家です。『魔王』や『冬の旅』などの歌曲集は詩と音楽の結合によって新たな精神性を示し、また交響曲「未完成」や弦楽五重奏曲など、短い生涯に深い芸術的到達を残しました。
同時代にウィーンの社交と舞踏文化が育んだ軽音楽、特にヨハン・シュトラウス2世(1825–1899)のワルツやポルカは、市民文化の象徴となりました。『美しく青きドナウ』やオペレッタ『こうもり』はウィーンの音楽的アイデンティティの一翼を担います。
後期ロマン派とシンフォニズム:ブルックナーとマーラー
アントン・ブルックナー(1824–1896)はオーストリアの教会音楽と交響曲を結びつけた巨匠で、壮麗な和声と拡張された楽曲構造を特徴とします。交響曲第7番や第8番は巨大な建築物のようなスケール感を持ち、演奏においても大規模な編成を要します。
グスタフ・マーラー(1860–1911)は作曲家であると同時に一流の指揮者でした。ウィーンとヨーロッパの歌劇場で活躍しながら、交響曲に声楽や歌曲的要素を導入して交響詩的な濃密さを示しました。『交響曲第2番〈復活〉』や『大地の歌』、『さすらう若人の歌』などは、人生・死・救済を主題に据えたスケールの大きな作品群です。
20世紀の前衛:第二ウィーン楽派と十二音技法
20世紀初頭、ウィーンで生まれた新たな音楽潮流は世界音楽史に大きな影響を与えました。アルノルト・シェーンベルク(1874–1951)は調性を超える十二音技法(dodecaphony)を体系化し、ピエロ・ルナール(『月に憑かれたピエロ/Pierrot Lunaire』)などで新しい音楽語法を示しました。彼の弟子であるアルban・ベルク(1885–1935)とアントン・ヴェーベルン(1883–1945)は、シェーンベルクの理念を継承しつつ個別の発展を遂げました。ベルクの『ヴォツェック』は表現主義的なオペラとして、ヴェーベルンは極小の素材を緻密に構築する作風で知られます。
オペレッタと軽音楽の流行:レハールとサプペー
19世紀末から20世紀初頭、ウィーンはオペレッタの中心地でもありました。フランツ・レハール(1870–1948)の『メリー・ウィドウ(楽長)』は国際的に成功し、ウィーンの社交的・軽快な音楽文化を象徴します。フランツ・フォン・サプペー(1819–1895)らもオペレッタや序曲で広く親しまれ、劇場音楽の伝統を支えました。
音楽教育・演奏機関とウィーンの役割
ウィーンには長年にわたって名門の教育機関や演奏団体が存在します。ウィーン国立歌劇場やウィーン・フィルハーモニー管弦楽団、ウィーン音楽大学(University of Music and Performing Arts Vienna)は、作曲・演奏双方の伝統を継承し、世界の演奏文化に大きな影響を与えています。これらの場は作曲家たちにとって創作と上演の重要なプラットフォームでした。
社会的背景と近代への移行
オーストリアの作曲家たちはしばしば社会的・政治的変動と密接に関わりました。19世紀の市民階級の台頭はコンサート文化と出版市場を拡大し、作曲家の独立性を高めました。一方で20世紀前半には反ユダヤ主義とナチズムの台頭が、多くのユダヤ系作曲家の国外亡命や活動停止をもたらしました。シェーンベルクやマーラー(マーラーはユダヤ系で一時改宗)はその影響を受け、音楽的エクスペリメントと個人的運命が交錯しました。
代表作品:入門として聴くべき10選
- ヨーゼフ・ハイドン:交響曲第94番〈驚愕〉、弦楽四重奏曲「皇帝」
- ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:歌劇『ドン・ジョヴァンニ』、ピアノ協奏曲第21番
- フランツ・シューベルト:歌曲集『冬の旅』、交響曲第8番〈未完成〉
- ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ『美しく青きドナウ』、オペレッタ『こうもり』
- アントン・ブルックナー:交響曲第7番、第8番
- グスタフ・マーラー:交響曲第2番〈復活〉、『大地の歌』
- アルノルト・シェーンベルク:『ピエロ・ルナire』、弦楽四重奏曲第2番
- アルban・ベルク:オペラ『ヴォツェック』、室内作品
- アントン・ヴェーベルン:管弦楽作品や室内楽でのミニマルな構成
- フランツ・レハール:オペレッタ『メリー・ウィドウ』
現代への継承とグローバルな影響
オーストリアの作曲家が築いた形式、演奏習慣、教育システムは現代音楽にも確実に受け継がれています。ウィーンは現代音楽祭や学術研究の重要拠点でもあり、新しい奏法や電子音楽の実験も行われています。歴史的レパートリーと前衛的な試みが共存する点が、オーストリア音楽文化の強みです。
まとめ:多層的な音楽文化としてのオーストリア
オーストリアの作曲家群は、宮廷文化、教会、ふんだんな市民文化、そして20世紀の思想的変革という複数の層を重ね合わせて音楽史を形成しました。ハイドンとモーツァルトが古典的形式を定着させ、シューベルトが歌曲の深みを拓き、ブルックナーやマーラーが交響曲の可能性を拡張し、シェーンベルク以降は音楽の構造自体を問い直す道が開かれました。各時代の代表作を通じて、オーストリアが世界音楽史に与えた影響を実感していただければ幸いです。
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参考文献
- Joseph Haydn - Britannica
- Wolfgang Amadeus Mozart - Britannica
- Franz Schubert - Britannica
- Anton Bruckner - Britannica
- Gustav Mahler - Britannica
- Arnold Schoenberg - Britannica
- Alban Berg - Britannica
- Anton Webern - Britannica
- Johann Strauss II - Britannica
- Franz Lehár - Britannica
- Franz von Suppé - Britannica
- Second Viennese School - Britannica
- University of Music and Performing Arts Vienna - Wikipedia


