ハチャトゥリアン:アルメニアの旋律とソビエト時代を彩った作曲家の全貌
序章 — ハチャトゥリアンという名
アラム・ハチャトゥリアン(Aram Khachaturian, 1903–1978)は、ソヴィエト連邦時代に活躍したアルメニア系の作曲家で、力強く情熱的な旋律、民族的なリズム感、色彩豊かなオーケストレーションによって広く知られます。特にバレエ音楽や協奏曲を通じて多くの聴衆に親しまれ、『サバの舞踏(Sabre Dance)』などの一節はクラシックの枠を越えてポピュラー文化にも深く浸透しました。本稿では生涯、主要作品、音楽的特徴、歴史的背景や評価、現代での受容までを詳しく掘り下げます。
生涯概観
ハチャトゥリアンは1903年に当時のロシア帝国領であったトビリシ(現ジョージア・トビリシ)でアルメニア人の家庭に生まれ、後にモスクワで作曲を学びます。若年期にはピアノや舞台音楽に関わりつつ独学的に作曲を続け、やがてモスクワを拠点に作曲家としての地位を確立しました。1940年代から1950年代にかけてはバレエ『ガイーヌ』や『スパルタクス』などの成功により国際的な名声を得ます。
ソ連体制下においては、国家からの栄誉や公的な活動に深く関与する一方で、1948年のソ連による「形式主義」批判(いわゆるジダーノフ批判)の対象になったことでも知られます。この批判は作曲家たちに大きな影響を与えましたが、ハチャトゥリアンはその後も創作活動を継続し、1978年にモスクワで逝去しました。
主要作品とその位置づけ
ハチャトゥリアンの作品群は多岐にわたりますが、特に以下のジャンルで重要作が残されています。
- バレエ:『ガイーヌ』『スパルタクス』— 劇的なドラマ性と民族舞踊の要素を融合させた代表作。
- 協奏曲:ピアノ協奏曲(1936年)、ヴァイオリン協奏曲(1940年)— 技術的要求と叙情性が同居する作品群。
- 舞台・劇音楽:『仮面舞踏会(Masquerade)』のワルツなど、演劇音楽から独立して演奏される曲も多い。
- 交響曲:3つの交響曲— 劇的な構成と時に民族的素材の統合が見られる。
なかでも『サバの舞踏(Sabre Dance)』はバレエ『ガイーヌ』の一場面から切り出され、世界的なヒットとなってポピュラー音楽や映画、テレビ、スポーツ演出など幅広い場面で使用されました。また、『スパルタクス』のアダージョは映画『2001年宇宙の旅』の影響も相まって、静謐で壮大な美を象徴する楽曲として定着しています。
音楽の特徴 — 民族性とモダニズムの接点
ハチャトゥリアンの音楽は、アルメニアをはじめとするコーカサス地域の民俗音楽からの影響が色濃く現れます。特徴として以下が挙げられます。
- 旋律性:濃厚で歌心に満ちた主題が多く、東方的な間隔や装飾が用いられることがある。
- リズム感:不均整拍(複合拍子)や切迫したリズムが多用され、ダンス的な活力を生む。
- 和声・色彩:管弦楽法が非常に色彩的で、打楽器や金管の効果的な使用により劇的な響きを作る。
- 形式感:伝統的な西洋の形式と民族素材を折衷し、聴衆にわかりやすいドラマ性を重視する傾向がある。
これらは、ソ連時代に求められた「大衆性」や「民族主義的要素」とも合致し、演劇的・視覚的な舞台芸術と親和性が高かったため、バレエや映画音楽での成功につながりました。
政治的背景とジダーノフ批判
1948年のジダーノフ批判は、ソ連の芸術政策が硬直化した象徴的事件で、作曲家たちは「形式主義」を批判され、作品や創作姿勢を問われました。ハチャトゥリアンもこの一連の攻撃の対象となり、公的な批判や制約を受けました。この経験は彼にとって痛手であったものの、晩年にかけて徐々に評価が回復し、国内外での演奏や録音が増えていきます。
演奏・録音の受容と現代的評価
ハチャトゥリアンは生前から広く演奏され、没後も特にバレエ音楽や協奏曲の録音が多く残されています。近年は歴史的録音の再評価や、演奏解釈の多様化により、新たな観点からその作品が見直されています。専門家の間では民族性とソヴィエト的機能主義のはざまで彼の位置づけを再検討する動きがあり、音楽学的にも興味深い対象となっています。
聴きどころと入門のための指針
初めてハチャトゥリアンを聴く人には以下のポイントを意識すると理解が深まります。
- メロディを追う:多くの作品で印象的な主題が繰り返し現れ、変容する様子が物語性を作る。
- リズムの躍動:ダンス由来のリズムが楽曲の推進力となっている場面を注目する。
- オーケストレーションの色彩:金管・打楽器の使い方や弦楽器の重ね方で劇的効果が生まれる。
- 楽曲の場面性:バレエに由来する曲は視覚的イメージを想起させやすいので、場面を思い描きながら聴くと楽しめる。
具体的な入門曲としては『サバの舞踏』『スパルタクス』のアダージョ、『ガイーヌ』組曲、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲あたりが勧められます。
演奏・録音のおすすめ(参考)
- 『スパルタクス』組曲や『ガイーヌ』組曲のオーケストラ録音(ロシア系の主要指揮者によるものは色彩感が豊か)。
- ピアノ協奏曲・ヴァイオリン協奏曲の歴史的録音や現代の再演(楽器・奏者による音色の違いを比較してみると面白い)。
- バレエ全曲録音:舞台の構成がわかるため、バレエ音楽としての流れを掴みやすい。
ハチャトゥリアンの遺産
ハチャトゥリアンは単に“民族的な旋律を用いた作曲家”という枠を超え、20世紀前半から中盤のソヴィエト音楽界において重要な橋渡し役を果たしました。大衆的な魅力と芸術的表現のバランスを追求した彼の音楽は、今日でもコンサートやメディアを通じて広く聴かれ続けています。また、世界各地のオーケストラやソリストが彼の作品をレパートリーに取り入れ続けており、教育的・文化的な価値も高いと言えるでしょう。
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