和声とは何か ─ クラシック音楽を深く聴くための理論と実践

和声とは

和声(わせい、harmony)は、複数の音が同時に鳴ることで生じる音の関係性とその進行を扱う音楽理論の分野です。単一旋律(メロディ)に対して和音が付随することで、調性、機能、緊張と解決といった時間的な構造が生まれます。西洋音楽においては、特に17世紀以降に確立した「調性(tonality)」を前提とする和声の体系が発展し、これが“機能和声”と呼ばれる分析法や作曲技法の基礎となりました(以降は主にこの伝統を中心に述べます)。

和声の歴史的背景

和声の理論的出発点は17世紀以前の対位法(ポリフォニー)にありますが、18世紀初頭にジャン=フィリップ・ラモーやジャン=フィリップ・ラモーに先立つジャン=フィリップ・ラモーの影響以前に、特にジャン=フィリップ・ラモーの同時代の作曲家が和声を実践的に整理しました。理論家として重要なのはジャン=フィリップ・ラモー(Jean-Philippe Rameau, 1683–1764)で、彼の『和声論(Traité de l'harmonie)』(1722)は和声を調和(fonction)として説明し、近代的な機能和声の基礎を作りました。17〜19世紀の共通和声語法(common-practice period)では、調性の確立、属和音の強い求心性、転調の技法などが体系化されました。

和声の基本要素

  • 和音(Chord): 最も基本的な単位。三和音(長・短・減・増)や七の和音(dominant seventh など)を含む。
  • 音程(Interval): 和音内での距離。三度積み重ね(tertian harmony)が西洋和声の基本。
  • 機能(Function): 調に対する和音の役割。主にトニック(T)、ドミナント(D)、サブドミナント(S)。
  • 転回(Inversion): 和音のテキスト上の配置。低音の音により性格が変わる。
  • 声部書法(Voice leading): 各声部がどう動くか。平行五度・八度の回避、近接進行と離隔の管理など。

機能和声の具体—トニック・ドミナント・サブドミナント

機能和声では、ある調(例:ハ長調)における和音は三つの主要な機能に分類されます。トニック(I)は安定、始まりと終わりの役割を持ちます。ドミナント(V)は強い欲求を生み、トニックへの解決を求めます。サブドミナント(IV)はドミナントへの移行を媒介する傾向があります。これらの機能は代理和音や二次的な支配(secondary dominants)によって補強され、音楽の方向性を作ります。例えばII-V-I進行はジャズでもクラシックでも極めて重要な機能進行です。

和音の種類と構成

基本的な三和音は長三和音(major triad)、短三和音(minor triad)、減三和音(diminished triad)、増三和音(augmented triad)です。さらに七の和音(dominant seventh, major seventh, minor seventh, half-diminished, fully-diminished)やテンション(9th, 11th, 13th)に拡張された和音があり、これらはより豊かな色彩を生みます。クラシックでは特に属七(V7)、半減七(viiø7)や増六(augmented sixth)といった特殊和音が機能的に用いられます。

転回形と低音の役割

和音の転回(根音を必ずしも低音にしない配置)は和音の機能や声部間の動きを柔軟にします。第一転回(6)では和音がより流動的になり、第二転回(6/4)は通常は装飾的あるいは持続低音(pedal point)に用いられます。通奏低音(figured bass)はバロック音楽で低音に数字を付して和声を示す実践的手法で、当時の和声理解を直接伝える史料でもあります。

声部書法(ボイスリーディング)の原則

各声部が独立した旋律線となるように配慮するのが声部書法の要点です。主な規則には以下が含まれます。

  • 声部の間隔は特に上三声では広げすぎない(通常はオクターブ以上の重なりは避ける)。
  • 完全五度・完全八度の平行進行は避ける(独立性の喪失)。
  • 重要な和音の根音をどの声で倍音するかは和音の機能によって決める(トニックは根音、属和音は5度の倍音を避けることがある)。
  • 和声的な解決(例:V→I)では声部同士の最小移動(半音や全音)を優先する。

変格和音と色彩的和音

調性音階の外から借用される和音(借用和音、modal mixture)、ネアポリタン和音(Neapolitan, bII6)、増六和音(イタリア式・フランス式・ドイツ式)、クロマティックな中間和音(chromatic mediants)などは劇的な色彩を与えます。ワーグナーの『トリスタンとイゾルデ』に現れるトリスタン和音は、伝統的な解決を遅延させることで和声の先鋭化と曖昧さを作り、19世紀末から20世紀初頭の調性崩壊へと向かう重要な例です。

転調と調性の拡張

転調(modulation)は調を変える手法で、ピボット和音(共通和音)を使うのが一般的です。より急激な転調には異名同音(enharmonic)を用いる手法や、短調・長調間のモーダルな借用が用いられます。19世紀以降は遠隔調(遠隔転調)や複雑なクロマティシズムが増え、20世紀には調性自体を離れる作曲法(無調、十二音技法)へと発展しました。

近代以降の和声展開

ジャズや現代音楽では、和声の語彙がさらに拡張されます。ジャズはテンション(9th, 11th, 13th)やモード理論、四和音・四度積み(quartal harmony)、そしてii–V–Iの循環進行を発展させました。一方、20世紀の作曲家は斬新な和声語法(ポリトーン、組織的和声、スペクトル和声など)を追求し、伝統的な「機能」という概念を再定義または放棄する例が増えました。ネオ=リーマン理論などは調性音楽の和声進行を別の数学的かつ幾何学的な観点から分析します。

分析の手法と実例

和声分析では、ローマ数字表記(Roman numerals)で和音を表し、その機能を明示するのが一般的です。バッハやハイドン、ベートーヴェンの作品を分析することで、古典的な機能進行、転回形の使い方、装飾的な6/4の役割などを学べます。分析は譜面上の和音だけでなく、低音の動き、声部間の接続、リズム(和声変化の早さ=harmonic rhythm)も含めて行うべきです。

作曲と実践への応用

和声を学ぶ際は、単に規則を暗記するのではなく、耳で確認しながら書くことが重要です。次の練習法を推奨します。

  • 簡単な二声・三声の和声書法を声に出して歌い、耳で和音の性格を確認する。
  • 通奏低音やfigured bassの実習で低音と和声の関係を体得する。
  • 短いフレーズで典型的な進行(ii–V–I, IV–V–I, I–vi–ii–Vなど)を反復する。
  • 既存の名曲を写譜・分析し、和声処理の選択肢(倍音の決定、進行の省略や連結)を観察する。

聴きどころと推薦作品

和声の理解を深めるために有効な聴取対象には、バロックの通奏低音が明快なバッハ、古典派の機能和声が整然と表現されたハイドンとモーツァルト、ロマン派で和声語法を拡張したシューベルトやワーグナー、近代の実験的和声を提示するドビュッシーやラヴェルがあります。各作品でドミナントの導入、属和音の延長、ネアポリタンや増六和音の使用などを聴き分けると有益です。

まとめ

和声は単なる和音の積み重ねではなく、時間を通じた機能と解決、色彩と緊張の管理に関わる芸術的実践です。歴史的には通奏低音やラモーの理論から発展し、クラシック、ロマン派、ジャズ、現代音楽と領域を広げています。実践的には声部書法、転回形、特殊和音、転調技法を学び、耳と手で確認しながら身につけることが最も確実な道です。

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参考文献