Neumann KH 120 II徹底レビュー:音の実像・設置・使いこなしガイド
はじめに — KH 120 IIとは何か
Neumann KH 120 IIは、ドイツの老舗ブランドNeumann(ゲオルク・ノイマン社)が手がけるニアフィールド(近接)スタジオモニターの中核モデルの一つです。スタジオでのミキシングやマスタリング、放送やポストプロダクションなどプロ用途を想定した設計で、初代KH 120の設計思想を受け継ぎつつ電子回路やチューニングを見直した後継機として位置づけられています。本コラムでは、設計のポイント、サウンド特性、設置・調整の実践的ノウハウ、他機種との比較、購入時の注意点まで深掘りして解説します。
製品概要と目的
KH 120 IIは2ウェイ・アクティブモニターで、近接リスニングに最適化された設計です。コンパクトなキャビネットに中低域用のウーファーと高域用のツイーターを同軸的に配置し、位相管理やクロスオーバーの最適化を行うことで、点音源に近い位相特性とステレオイメージの精度を目指しています。プロの現場で求められる“フラットで解像度の高い音”を得ることを主目的としています。
物理設計とドライバー構成
外観は堅牢かつシンプルで、キャビネットの共振対策やポート設計にも配慮が見られます。一般的にこのクラスの近接モニターは、約5インチ前後のウーファーと1インチ前後のソフトドームツイーターを採用することが多く、KH 120 IIも同様にコンパクトなドライバー構成でニアフィールド用途に最適化されています。ドライバーの素材やマグネット、サラウンドの仕上げなどは位相特性やディストーションに直接影響するため、Neumannはトランスデューサー選定と製造に高い品質管理を行っています。
電子回路、アンプ、DSP機能
KH 120 IIはアクティブ設計で、低域・高域それぞれに専用の増幅回路を備えています。初代モデルからの改良点として、クロスオーバーの最適化やアンプ部のチューニング、さらに内部DSPによる補正やイコライジング機能が加わっている点が挙げられます。リアパネルには高域/低域のトリムやリスニング位置・設置環境に合わせた補正スイッチを備え、部屋や設置角度に応じて素早く特性を整えられるようになっています。
サウンド特性(実際の音像)
KH 120 IIの音は“情報量が多く、かつ本質を伝える”タイプです。中域の解像度が高く、ボーカルやアコースティック楽器の定位やニュアンスをつかみやすいのが特徴です。低域はニアフィールド用として過度に強調されることなく、タイトで制御された印象を与えます。高域は伸びがありながら刺々しくならないバランスで、長時間のモニタリングでも耳疲れしにくい設計です。
設置とルーム調整の実践ガイド
- リスニング位置と距離:ニアフィールドの利点を活かすため、リスニング位置とスピーカーは等距離の三角形(スピーカー間距離とリスナーまでの距離がほぼ等しい)に配置します。デスクトップでの使用時はスピーカースタンドやアイソレーションパッドの併用を推奨します。
- 高さとツイーターの位置:ツイーターの高さがリスナーの耳の高さと一致するように調整し、垂直軸でのフラットな応答を保ちます。
- 壁面と境界効果:背面や側面の距離によって低域のブーストやディップが発生します。リアパネルのルーム補正スイッチ(有るモデルでは)を活用するか、簡易的には吸音パネルやベーストラップを使って補正してください。
- トリムと補正:高域や低域のトリム、リスニング位置補正スイッチを少しずつ動かし、実際の音源(既知のリファレンス曲)で比較しながら最適値を見つけます。
モニターとしての強みと弱み
- 強み:中域の解像度の高さ、立ち上がりの良い低域、安定したステレオイメージ、長時間リスニングでも疲れにくい高域のチューニング。コンパクトで設置性が良く、プロ/セミプロ問わず多くの現場で採用されている点。
- 弱み:非常に低い周波数(サブベース域)までの量感を重視する用途では、より大型のサブウーファーが必要になること。部屋の悪影響(反射やモード)がそのまま音に出やすいため、適切なルームトリートメントが前提となる点。
競合比較と選び方の視点
同クラスで比較されるのは、Genelecの小型モデル、ADAMやYamahaのニアフィールドモデルなどです。選び方のポイントは以下の通りです。
- 音の好み:フラット志向か、キャラクター(低域の厚みや高域のアクセント)を重視するか。
- 設置環境:デスクトップか、専用デッドルームか。狭い部屋ではニアフィールドの制御が効きやすいコンパクトモニターが有利です。
- 拡張性:将来的にサブウーファーを追加するかどうか。KHシリーズはサブウーファーとの連携も視野に入れた設計になっています。
実務的な使い方とワークフローへの適用
ミックス時は、まず中域の整合性をKH 120 IIで確認し、パンニングや定位、ボーカルの抜け具合を調整します。その上でサブウーファーや他のモニター(ヘッドフォンや別系統のスピーカー)で低域とトランスレーション(他の再生系での再現性)をチェックするのが効率的です。放送やゲームオーディオの現場では、コンパクトで一貫したモニタリングが求められるため、KH 120 IIの統一感ある再生特性は有利に働きます。
メンテナンスと長期運用
アクティブモニターはアンプや電子部品を内蔵するため、通電や過負荷によるストレスに注意が必要です。定期的に接続端子の清掃、振動や熱の発生を抑えるための設置環境の見直しを行い、極端な高音量での長時間使用は避けるのが無難です。万一の故障時はメーカーや正規代理店での修理を推奨します。
購入時のチェックポイント
- 実機で自分のリファレンス曲を試聴する。
- 設置予定の部屋でのレスポンスを想定し、トリムや補正が行えるか確認する。
- 付属の保証やサポート体制(国内代理店の有無)を確認する。
- 将来的なシステム拡張(サブウーファーやマルチチャンネル化)を考慮する。
総評 — どんな人に向くか
Neumann KH 120 IIは「正確で扱いやすい近接モニター」を求めるクリエイターに向いています。プロの現場で日常的に使われることを想定した堅牢性とチューニング、そして情報量の多さが魅力です。特にボーカル主体の楽曲制作、中域のディテールを重視するミックス、ポッドキャストや放送の音声モニタリングなどで力を発揮します。一方で、サブベースの量感を重視するダンスミュージックのラフチェックには、サブウーファーの併用を検討してください。
導入後のワンポイント・チューニング例
- デスクトップ設置時は、スピーカーとデスクの間にデカップリング用パッドを挟んで低域の反射を減らす。
- 初期設定ではフラットに近いトリムを基準にし、慣れた楽曲を数曲聴いてから微調整する。
- 部屋のモードが顕著な場合は、周波数可変型の処理ではなく物理的な吸音/拡散で対処するほうが総合的に効果的。
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