トランスとは何か:歴史・音楽性・制作テクニックから現代シーンまで徹底解説
トランス音楽とは
トランス(Trance)は、1980年代末から1990年代初頭にかけてヨーロッパを中心に発展したエレクトロニック・ダンス・ミュージック(EDM)の一ジャンルです。反復的なビートとメロディックで広がりのあるサウンド、テンポレンジは概ね125~150 BPMが多く、長いブレイクとビルドアップ、クライマックス(ピーク)を持つ楽曲構成が特徴です。名前の由来は、その音楽が引き起こすトランス状態(没入感・恍惚)に由来すると説明されることが多いです。
歴史と発展
トランスはテクノやハウス、ニューエイジの要素を取り込んで生まれました。初期にはドイツやオランダ、イギリス、ベルギーなどのクラブシーンで進化し、1990年代中盤には国際的なジャンルとして確立しました。また、インドのゴアに端を発する「ゴアトランス」や、さらに発展した「サイケデリック・トランス(psytrance)」など、地域や文化と結びついた派生スタイルも登場しました。
1990年代後半から2000年代前半にかけて、Paul van Dyk、Tiësto、Armin van Buuren、Ferry Corsten、Paul Oakenfold、Above & Beyond といったアーティストや、Gatecrasher やトランス専門レーベル(Anjunabeats、Armada など)の台頭により、ラジオ番組やフェスでの露出が増え、トランスは世界的に広がりました。
音楽的特徴と構成
- 拍子・テンポ:四つ打ち(4/4)を基調にし、BPMは125~150程度が一般的。
- メロディとハーモニー:シンセパッドやストリングスで作る広がりのあるコード進行、リードメロディの反復が感情的な盛り上がりを生む。
- 構成:イントロ→ビルド→ブレイクダウン→再ビルド→クライマックス→アウトロというドラマティックな展開を持つことが多い。
- サウンドデザイン:スーパーソー(supersaw)系のリード、長めのリバーブとディレイ、フィルターオートメーションでのダイナミクスが多用される。
主なサブジャンル
- ユーフォリック/アップリフティング・トランス:高揚感の強いメロディと盛大なクライマックスを持つ、いわゆる“アンセム”向けのスタイル。
- プログレッシブ・トランス:より深いグルーヴと繊細な展開を重視し、インストゥルメンタル志向のトラックが多い。
- ゴアトランス/サイケデリック・トランス:複雑なリズムと高密度なサウンドテクスチャーを特徴とし、サイケデリック文化と結びついたシーンを形成。
- テック・トランス:テクノ的な硬質なビートとトランスのメロディを融合したスタイル。
- ボーカル・トランス:ポップ寄りのボーカルを取り入れた楽曲群で、ラジオヒットやクロスオーバーを生みやすい。
制作でよく使われる機材・手法
トランス制作にはシンセサイザー(ハード/ソフト)、サンプラー、DAW(Ableton Live、FL Studio、Logic Pro など)が基本的に用いられます。90年代の象徴的な音色としては Roland JP-8000 の「Supersaw」が挙げられ、現代ではソフトシンセやサンプルで再現されます。
- レイヤリング:リード音を複数重ねて厚みを出す。倍音構成やピッチ差で「大きな」音を作る。
- エンベロープ/フィルターオートメーション:ブレイクやビルドでフィルターを操作し、ドラマを作る。
- サイドチェイン/コンプレッション:キックに合わせてシンセの音量を揺らし、リズムの一体感を出す。
- リバーブとディレイ:空間表現で没入感を強化する。プリディレイやハイカットで濁りを防ぐ。
クラブ/フェスとシーンの発展
90年代から2000年代にかけて、Gatecrasher(英国)やTrance Energy(オランダ)などのイベントが盛り上がりを牽引しました。ラジオ番組やポッドキャスト(Armin van Buuren の『A State of Trance』など)もシーンの拡散に大きく寄与しています。近年はフェス全体の多様化により、Tomorrowland や Creamfields といった大規模フェスのステージでもトランスは定番ジャンルとして存在しています。また、サイケ系のフェス(Boom、Ozora)ではサイケデリック・トランスが中心となります。
主要アーティストとレーベル
ジャンルを語る上で欠かせないアーティストには Paul van Dyk、Armin van Buuren、Tiësto、Ferry Corsten、Paul Oakenfold、Above & Beyond、Cosmic Gate などが挙げられます。主要レーベルとしては Anjunabeats(Above & Beyond)、Armada Music(Armin ら)、Black Hole Recordings(過去に Tiësto 関連)などがシーンを支えています。
トランスが与える心理的効果
ループするリズムとメロディが生む反復性は、没入感や高揚感を誘発します。ブレイクダウンでテンポラリーな“静寂”を設け、そこからのビルドで大きなカタルシスが得られる設計は、フロアでの集団的な興奮を生みやすいのが特徴です。また、瞑想的に聴くことで個人的な感情の解放を促すこともあり、リスニングコンテクストは多様です。
現代の動向とクロスオーバー
2010年代以降、EDM の隆盛によりトランスの要素はビッグルームやメロディック・ハウスに流入しました。同時に、クラシックなユーフォリック・トランスのリバイバルや、メロディック・テクノ/メロディック・ハウスとの融合も進んでいます。SNS やストリーミングによる細分化でリスナー層は多様化しており、古典的なアンセムからニッチなサブジャンルまで共存しています。
トランスの楽しみ方と入門ガイド
- まずは名曲アンセムや著名アーティストのミックスを聴いて、ジャンルのダイナミクスと構成を把握する。
- フェスやクラブでの体験は音圧とスピーカー配置、照明との相乗効果を理解するのに有効。
- 制作に興味があれば、基本の4/4ビートとベースライン、シンセリードの作り方から始めると理解が早い。
批評的視点と課題
一方で、「ワンパターン化」や「商業化」による創造性の希薄化を指摘する声もあります。フェスティバル向けにアレンジされた“アンセム化”は一部のリスナーには歓迎されますが、オリジナルな実験性を求める層との乖離も生んでいます。ジャンルの存続には、伝統への尊重と新しい表現の両立が鍵となります。
まとめ:トランスの魅力と今後
トランスはそのドラマティックな構成とメロディにより、強い感情移入を可能にする音楽です。テクノロジーの進化により制作手法は変わっても、メロディと構成で人を動かす力は失われていません。今後も他ジャンルとのクロスオーバーやデジタル世代の解釈を経て、新たなかたちで進化を続けるでしょう。
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参考文献
- Trance music - Wikipedia
- Goa trance - Wikipedia
- Psytrance - Wikipedia
- Armin van Buuren - Wikipedia
- Paul van Dyk - Wikipedia
- Gatecrasher - Wikipedia
- Anjunabeats(公式)
- Armada Music(公式)
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