ドラムンベース完全ガイド:起源・サブジャンル・制作法と現代シーンの読み解き

ドラムンベースとは何か

ドラムンベース(Drum and Bass、しばしばDnB/ドラムンベースと表記)は、1990年代初頭にイギリスで誕生したダンスミュージックのジャンルです。特徴は高速なテンポ(一般に160〜180 BPM前後)、細かく刻まれたブレイクビート、そして強烈な低域のサブベースです。ハウスやテクノの4つ打ちとは異なり、ブレイクビートを基盤にしたリズム構築と、ベースラインの多様な表現を核に発展してきました。

歴史と成立背景

ドラムンベースは、レイヴ文化、ハードコア・ジャングル、ブレイクビート・ハードコアなど、1990年前後のUKアンダーグラウンドシーンから派生しました。ジャングルと呼ばれるサウンドから分岐しつつ、より洗練されたプロダクションやリズム構築を志向する動きがドラムンベースの形成につながりました。1990年代半ばには、Goldie(アルバム『Timeless』1995年)やRoni Size(Reprazentの『New Forms』1997年、マーキュリー賞受賞)といったアーティストが登場し、ジャンルは国際的な注目を集めました。

主要なレーベルと人物

  • Metalheadz — Goldieを中心に設立され、1990年代の重要レーベル。
  • Good Looking Records — LTJ Bukemによる、アトモスフェリック/ジャズ寄りの流派を広めたレーベル。
  • RAM Records — Andy Cらが設立、ダンスフロア寄りのヒットを量産。
  • Hospital Records — リキッド・ドラムンベース(リキッドファンク)を推進する老舗。
  • 代表的アーティスト:Goldie、LTJ Bukem、Roni Size、Andy C、Ed Rush & Optical、Noisia(オランダ)、Calibreなど。

リズムとサウンドの特徴

ドラムンベースの基礎は“ブレイクビート”にあります。中でも「Amen Break」(The Winstonsの『Amen, Brother』のドラム)をはじめとする古典的なブレイクをサンプリング/編集して細かく配置する技術が長く重視されてきました。ドラムはスネアやハイハットの配置を工夫して“推進力”を生み出し、ベースはサブベースで低域を支える一方、リース(Reese)系のディストーションされたベースや、ウォブリングするモジュレーションベースが多用されます。

主要サブジャンル

  • リキッド・ドラムンベース(Liquid DnB / Liquid Funk):ジャズ、ソウル、ファンクの要素を取り入れ、メロディや和音が豊かなサブジャンル。Calibre、High Contrast、Hospital Records系の作品が代表。
  • ニューロファンク(Neurofunk):よりテクニカルでダーク、精密なベースデザインとシンセサイザー処理が特徴。Ed Rush & Optical、Noisiaが代表格。
  • テックステップ(Techstep):90年代後半に台頭した、テクノ的で冷たい音響とダークな美学を持つスタイル。
  • ジャンプアップ(Jump-Up):フロア寄りで分かりやすいフックと重心の高いベースが特徴。クラブ受けを狙ったアプローチ。
  • ドラムファンク(Drumfunk):ブレイクの生々しさやドラムの細かな操作を重視し、オフビートで複雑なドラムワークを前面に出す。

制作テクニック(プロダクションの基本)

典型的なドラムンベースの制作ワークフローには次の要素があります。

  • ブレイクループの解析とスライス:生のドラムループを切り出し、再配置して独自のグルーヴを作る。
  • リサンプリングとレイヤリング:同一のパートを別々に処理(ディストーション、EQ、コンプレッション)して厚みを出す。
  • サブベース設計:サイン波+倍音を加えたレイヤーで低域を安定させ、ミックス時にローエンドが他の要素と干渉しないようサイドチェイン/フィルタ処理を施す。
  • ダイナミクスとエフェクト:サイドチェイン、マルチバンドコンプ、ステレオイメージャー、フィルターオートメーションを用いて展開を作る。
  • ソフトウェアと機材:DAW(Ableton Live、Cubase、Logic)、サンプラー(Akai系歴史的だが現在はソフトが主流)、プラグイン(シンセ、サチュレーション、ディレイ)などを駆使する。

ライブ/クラブにおける表現

ドラムンベースはDJプレイと親和性が高く、長尺のミックスやジャグリング的手法(複数トラックを重ねてプレイする)でフロアをコントロールします。MC文化も深く根付いており、レイヴやクラブでの即興MCが熱狂を生み出す要素となっています。パーティーやラジオ(特に90年代の海賊ラジオ局)がシーンの普及に大きく寄与しました。

文化的影響と国際展開

英国発祥のドラムンベースは90年代後半からヨーロッパ大陸、アメリカ、日本、南米、オーストラリアへ広がりました。各地のローカルな解釈が生まれ、例えばオランダやベネルクス圏ではテクニカルで重厚なサウンドが好まれ、日本でもクラブやインディペンデントなレーベルを中心にシーンが育ちました。フェスティバル(例:Let It Roll、Outlook)はジャンルの国際的なハブとなっています。

現代の動向と今後

近年はリキッド系のメロディックな傾向や、テクニカルなサウンドデザインの進化(Noisiaに代表されるような精緻なベース処理)が同時並行的に進んでいます。また、エレクトロニック音楽全体のトレンドとしてハイブリッドな他ジャンル(グライム、ハードコア、テクノ、ブレイクコアなど)とのクロスオーバーも見られます。ストリーミング世代の台頭により、アルバム表現と単曲ヒットの両面での制作が求められています。

入門者への聴き方・作り方のアドバイス

  • 聴く:歴史的作品(Goldie『Timeless』、Roni Size『New Forms』)と現代アーティスト(Calibre、Noisia、High Contrast)を対比して聴くとジャンルの幅がつかめます。
  • 作る:まずは基本の4〜8小節ループを作り、ドラムのスライスとベースのシンプルな組み合わせから始める。ブレイクの加工(タイムストレッチ、ピッチシフト、EQでの抜き差し)が技術習得に有効です。
  • 学ぶ:チュートリアルや公式インタビュー、レーベルのプレイリストを参照して、ミックスの作法や音作りを模倣しながら自分の語彙を増やす。

まとめ

ドラムンベースはリズム・サウンド・文化の3要素が密接に結びついたジャンルで、90年代のクラブカルチャーから生まれて以降、絶えず進化を続けています。サブジャンルの多様性、プロダクションの深さ、クラブとフェスでのダイナミズムは、音楽としての魅力を長く保つ要因です。初心者は歴史的名盤と最新リリースを併せて聴き、制作ではブレイクの編集とベース設計に重点を置くと理解が早まります。

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参考文献