ニュートラップとは何か：起源・音楽的特徴・制作技法と国内外シーンの最前線

2025年12月14日 最終更新日時 : 2025年12月14日 エバープレイ編集部

ニュートラップとは何か

「ニュートラップ（New Trap）」は、伝統的なアトランタ発のトラップ・ミュージックを母体としつつ、メロディ重視、エレクトロニックなテクスチャ、R&Bやエモ／クラウドラップ的な感傷性を強く取り込んだ進化系を指すことが多い用語です。明確な定義は流動的ですが、2010年代中盤以降にシーンの主流となった“トラップの多様化”の総称として用いられるケースが増えています。

起源と歴史的背景

トラップはもともと2000年代初頭のアメリカ南部（特にアトランタ）で生まれ、808キック、トリプレットのハイハット、スネアのロール、重いサブベースといったサウンド特性を持ちます。2010年代に入ると、プロデューサーやアーティストはこれらの要素を様々なジャンルと結びつけ始めました。例えば、トラップ×R&B（trap soul）、クラウドラップやエモを取り入れたボーカル・スタイル、EDM寄りの“大型サウンド”を導入する動きなどです。こうした混淆の総体が「ニュートラップ」として認識されることが多く、Travis Scott、Future、Young Thug、Metro Boominなどのアーティスト／プロデューサーの商業的成功がジャンル拡大に拍車をかけました。

音楽的特徴

  • リズム：基礎はトラップのドラムパターン（808、ハイハットの細かなシーケンス、スネア/クラップの配置）だが、ビートのテンポ感やグルーヴに変化をつけ、ポップ寄りやR&B寄りのラフなスウィングを導入する。
  • ベース：深いサブベースやグロウル（歪んだベース）を用い、ローエンドでの存在感を重視する一方、メロディックなベースラインを採用して曲の主体に据えることも多い。
  • テクスチャと和音：シンセパッド、アンビエントなパッド、フェードイン／アウトするエレクトロニックな効果音を多用し、空間的で浮遊感のあるサウンドスケープを作る。
  • メロディとボーカル：ラップと歌（メロディ）が混在し、オートチューン等のエフェクトで歌のニュアンスを加工することが一般的。感情表現やもろさを前面に出す傾向がある。
  • プロダクション：ミックスは低域を強調しつつ、トップエンドは控えめに処理して“暗めだがクリア”な質感を目指す。サイドチェインやフィルター処理で動きを付ける。

代表的なサブジャンルと影響

  • Trap Soul：Bryson Tillerらにより提唱された、R&Bの歌唱性とトラップのビートを融合したスタイル。
  • Cloud/Emo Trap：Lil PeepやJuice WRLDなどが代表。憂鬱でメランコリックな歌詞と浮遊感のあるプロダクションが特徴。
  • EDM×Trap（Festival Trap）：Baauer、RL Grime、Flosstradamusなどがフェス向けに作った大型サウンド。ドロップでのインパクトを重視する。

制作テクニック（実践的ポイント）

ニュートラップの制作では、以下の点が重要になります。

  • ドラム設計：808のチューンとレイヤーを調整し、キックとベースの干渉（マスキング）を解消する。ハイハットはMIDIで細かくプログラミングして変拍子的なアクセントを与える。
  • サウンドデザイン：波形編集、フィルター、リバーブ、ディレイで奥行きを作る。アンビエントサンプルやフィールド録音を挿入して独自性を出す。
  • ボーカル処理：オートチューンやピッチ補正を感情表現の一部として使う。ダブルトラックやハーモニーを重ねて厚みを出しつつ、メインボーカルは適度にコンプで潰して前に出す。
  • ミックスとマスタリング：低域の管理が肝。サイドチェイン・コンプレッションでキックとベースの共存を図り、マスターではラウドネスを確保しつつもダイナミクスを失わないバランスを取る。

代表的なアーティストと作品

ニュートラップの系譜に影響を与えたアーティストとしては、Travis Scott（『Astroworld』）、Future（『DS2』）、Young Thug（『Barter 6』）、Metro Boomin（プロデューサーとして多数）などが挙げられます。Trap Soul系ではBryson Tillerの『Trapsoul』、エモ／クラウドラップ寄りではLil PeepやJuice WRLDの作品がシーンの多様化に寄与しました。

日本におけるニュートラップの受容と展開

日本では、海外トラップの影響を受けたラッパーやプロデューサーが2010年代後半から台頭しました。KOHHをはじめ、Taro SoulやYENTOWN周辺のプロデューサー、さらにはポップ／R&B系アーティストの楽曲プロダクションにもトラップ由来のビートが頻繁に採用されるようになっています。日本語のリリックや日本独自のメロディ感覚が加わることで、海外のトレンドを単に模倣するだけでなく独自の表現が生まれています。

文化的・社会的文脈と批評

トラップが持つ「ストリートの叙事詩」という側面は、ニュートラップでも完全には消えませんが、より商業的・ポップ的な文脈に取り込まれることで、原点である背景や語られる内容との距離が生まれることがあります。加えて、暴力や麻薬といったテーマの扱いに関する倫理的議論や、ジャンルの商業化によるアイデンティティの希薄化を懸念する声もあります。一方で、感情表現の多様化やジェンダー／国境を越えたコラボレーションの促進といった肯定的側面も顕著です。

今後の展望

音楽テクノロジーの進化（AI制作アシスト、より多彩なシンセ音色）、国際コラボレーションの増加、日本国内での独自解釈の深化により、ニュートラップはさらに細分化し、新たなハイブリッドが生まれることが予想されます。重要なのは「トラップの骨格（ビートと低域の力学）」を理解した上で、どのように個性あるメロディや歌詞、プロダクションを付与するかです。

まとめ：ニュートラップの魅力と制作における注意点

ニュートラップは、トラップ由来のビート感と現代的なメロディ・テクスチャを融合させた音楽的潮流です。制作にあたっては低域コントロール、空間作り、ボーカル処理がカギとなり、表現の幅は非常に広い反面、原点のコンテクストを無視した表層的な模倣にならないよう注意が必要です。シーンとしては国際的な交流と地域的な解釈の掛け合わせから今後も新しい動きが期待できます。

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