Blüthner(ブリュートナー)— アリコートで紡ぐ独自の音色と歴史を徹底解説
序章:Blüthnerとは何か
Blüthner(ブリュートナー)は、ドイツ・ライプツィヒで1853年にユリウス・ブリュートナー(Julius Blüthner)によって創業されたピアノメーカーです。19世紀半ばのヨーロッパで高い評価を得て以来、独自の音響設計と丁寧な手仕事によってクラシック/コンサート用ピアノの一角を占めてきました。特に“アリコート(Aliquot)”と呼ばれる独自の弦構成は、同社の音色を語る際に欠かせないキーワードです。
創業と発展の歴史
1853年の創業以降、Blüthnerはヨーロッパの音楽文化圏で着実に名声を築きました。19世紀末から20世紀初頭にかけては国際博覧会などで受賞し、王室や名だたる演奏家からの支持を受けるようになります。第二次世界大戦期および戦後の混乱期には工場の損傷や東ドイツ体制下での扱いといった苦難も経験しましたが、ドイツ再統一以降は家族経営の伝統を継ぎながら設備投資と品質回復に努め、国際市場での地位を回復しています。
アリコート(Aliquot)方式の技術的解説
Blüthnerの代名詞ともいえるアリコート方式は、特に高音部において通常の3本弦のいわゆるユニゾンにさらに『補助弦』を加える仕組みです。この補助弦はハンマーで直接叩かれる“語る弦(speaking string)”ではなく、同調して共鳴する『共鳴弦(sympathetic string)』として機能します。結果として倍音成分が豊かになり、サステイン(余韻)と倍音のバランスが濃密で「歌うような」音色が得られます。
一般的なグランドピアノは同一音域で3本弦を持ちますが、Blüthnerは高音域の一定範囲において4本目の弦(アリコート弦)を取り入れ、この弦を専用の補助ブリッジで支えます。これは単なる共鳴板やデュプレックス・スケール(duplex scale)とは物理的に異なり、実際の弦材が持つ固有振動を利用する点が特徴です。
楽器構造と素材、製作の特徴
Blüthnerは伝統的なドイツ系の工作技術を基礎としつつ、選び抜かれた木材(スプルースの響板、硬木のフレームや鍵盤構造)と丹念な整調(レギュレーション)・整音(ボイシング)によって最終的な音色を作り込みます。ハンマーフェルトの選定やカッティング、ハンマーの整形、ブリッジのシェイプ、響板の製作などは一部手作業に依存しており、これが製品ごとの個体差=音色の個性を生んでいます。
音色の傾向と適したレパートリー
Blüthnerの音は一般に「丸みがあり、暖かく、歌う声線を持つ」と評されます。これはアリコートによる豊かな倍音と、国内産の木材・ハンマー処理による自然なミッドレンジの厚みが組み合わさった結果です。したがってロマン派の作品や、歌謡性・表現力を重視する室内楽、伴奏を多く含む演奏に非常に向いています。一方で、極端にアタック感を重視する近現代の打鍵主体の楽曲では、好みが分かれることもあります。
舞台・録音での活用と技術的留意点
コンサート用のBlüthnerは豊かな余韻と倍音構成によりホール中での存在感が強く、録音においても“暖色系”の音像が得られやすい反面、マイクの取り方やホール特性により密度感が過剰に録れてしまうこともあります。またアリコート弦を含む構造は調律・整調に際して専門的な知識を要するため、技術者選びは重要です。アリコート部分の同調やブリッジの整合は通常のグランドピアノより繊細な作業を必要とします。
Blüthnerの現代モデルとラインナップの傾向
現代のBlüthnerは、コンサートグランドからサロンサイズ、アップライトに至るまで幅広いモデルを提供しています。伝統技術を守りつつも生産効率や品質管理を近代化しており、選定された材料と手作業による最終仕上げを組み合わせるビジネスモデルを取っています。近年は国際的な演奏家による指定楽器としての採用例もあり、復刻モデルや特注モデルも展開されています。
購入・維持のための実践的アドバイス
- 試弾で確認するポイント:低音〜高音のバランス、和音での倍音の絡み、サステインの長さ、アタックのニュアンス。
- 整調と整音:アリコートを持つ楽器は専門技術者による定期的な整調が不可欠。一般的な調律だけでなく、アリコートの同調調整やハンマーのボイシング確認を依頼する。
- 中古購入時の注意:響板の割れ、ブリッジの浮き、アクションの摩耗、弦とピンブロックの状態を慎重に点検する。必要であれば信頼できる技術者の調査報告を求める。
- 設置環境:温度・湿度管理は全ピアノ共通の必須事項。特に湿度変化は響板や接着部に影響するため、適切な加湿器/除湿器の利用を推奨します。
著名な愛用者と文化的評価
Blüthnerは歴史的に作曲家や演奏家、さらには文化人の間で愛用されてきました。有名な例として物理学者であり音楽愛好家でもあったアルベルト・アインシュタインがブリュートナーのピアノを所有し演奏していたことが知られています。その他、音楽院や劇場、放送局などの場面でも採用例が多く、特に声や弦楽器との相性を重視する現場で高評価を受けてきました。
まとめ:Blüthnerが提供する価値
Blüthnerは単なる楽器ではなく、音色設計(特にアリコート)を通じて独自の音楽表現を可能にするブランドです。ロマン派的な豊饒さや歌うようなラインを求めるピアニスト、室内楽の伴奏者、録音エンジニアには魅力的な選択肢となります。一方で技術的に扱う側の専門性を要求する面もあるため、購入・運用の際はその点を理解した上で導入するのが賢明です。
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参考文献
- Blüthner - Wikipedia
- Blüthner Official — History
- Aliquot string - Wikipedia
- PianoWorld — articles and forum on piano makers
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