フォノプリアンプ徹底ガイド:仕組み・選び方・設定とトラブル解決
フォノプリアンプとは何か
フォノプリアンプ(フォノイコライザー、フォノステージとも呼ばれる)は、レコードプレーヤーのカートリッジから出力される非常に低レベルの信号を再生機器のラインレベル(CDプレーヤーやスマートフォン的な機器の入力レベル)まで増幅し、さらにレコードの録音特性に合わせたイコライゼーション(一般的にはRIAA補正)を施すための専用回路です。単に音を大きくするだけでなく、レコード溝の物理的・電気的な特性に起因する周波数特性を補正する役割が最も重要です。
なぜイコライゼーションが必要か(RIAAカーブの原理)
アナログレコードは製造上の制約から、低域の溝振幅を大きくすると溝が重なりやすくノイズや歪みが増えるため、録音時に低域を減衰させ高域を強調してカッティングします。再生時にこれを逆補正するのがRIAA(Recording Industry Association of America)のイコライゼーションです。RIAA補正は低域をブーストし高域をカットすることで、元の音に戻すだけでなく再生ノイズ(スクラッチ音など)を相対的に低くする効果もあります。現在ほとんどのLP再生はこのRIAA規格に準拠しています(歴史的にはNABや各社独自のカーブも存在しました)。
MM(ムービングマグネット)とMC(ムービングコイル)の違い
カートリッジの方式によってフォノプリアンプに求められる特性が変わります。
- MM(Moving Magnet):一般的に出力が高め(約3–6 mV程度)があり、フォノ入力の標準仕様は入力インピーダンス47kΩ、入力容量100–200 pF、ゲインは約40 dB(約100倍)程度が主流です。多くのプリメインアンプや一体型アンプの内蔵フォノはMM対応です。
- MC(Moving Coil):コイルが小さいため出力電圧が低い(数百μV〜1.5 mVまで幅がある)ことが多く、高いゲイン(60–70 dB、約1000倍)や低雑音設計を必要とします。MCには低出力型と高出力型があり、低出力型はフォノステージ側で低インピーダンス(数Ω〜数十Ω)にマッチングする必要があります。多くの場合、MCには専用の昇圧トランス(SUT)や専用の高ゲインフォノステージを用います。
ステップアップトランス(SUT)と電子式フォノステージの比較
MCカートリッジの低レベル信号に対しては2つのアプローチがあります。
- ステップアップトランス(SUT):受動的に電圧を上げる手法で、ノイズ性能が良好で位相や歪みが少ないことが多いですが、トランス自体の特性により周波数特性や負荷適合に制限が出る場合があります。トランスの比率で必要なゲインを確保できるかが重要です。
- 電子式(管球や半導体):トランジスタや真空管を用いて能動的にゲインとRIAA補正を行います。可変の入力インピーダンスやゲインを備える製品が多く、柔軟なセッティングやリモコン付きの使い勝手が良い一方、設計によってはノイズや歪み特性に差が出ます。
主要な仕様と推奨値
フォノプリアンプを選ぶ際にチェックすべき主要スペックは以下です。
- ゲイン(dB):MM向けは約35–45 dB、MC低出力向けは60–70 dBが目安。
- 入力インピーダンス(Ω/ kΩ):MMでは標準の47 kΩ、MCではカートリッジ指定の数Ω〜数百Ωに設定できることが理想。
- 入力容量(pF):MMではケーブルとプリアンプの合計で100–200 pFが一般的。ケーブル長が長いと容量が増えて高域が変化するため注意。
- S/N比、歪率(THD):高品位なフォノステージはS/Nが良くTHDが極めて小さいことが期待されますが、実測データを確認しましょう。
- RIAA特性の精度:周波数特性の偏差が小さいこと(±0.5 dB程度を目安に高級モデルではさらに良好)。
配線・接続と接地(グラウンド)の注意点
適切な配線と接地はノイズ低減に直結します。ターンテーブルのアース線(グラウンド線)はアンプやフォノプリアンプのグラウンド端子に確実に接続してください。アースが不十分だと低周波のハム(ブーンという音)が発生しやすくなります。RCAケーブルは一般的にアンバランスで接続されますが、バランス出力を備えた高級機も存在します。ケーブル長は短めにし、不要なループを作らないことが重要です。
実際の調整:インピーダンスと容量の合わせ方
最適な音を引き出すにはカートリッジとフォノステージのマッチングが重要です。手順の一例:
- カートリッジのメーカー仕様(出力、推奨負荷インピーダンス、推奨容量)を確認する。
- MMの場合はまず47 kΩと100–200 pFを試し、音の傾向(高域の伸び、低域の量感、定位)を聴き比べて微調整する。容量を変えると高域の響きが変わる。
- MC低出力ではSUTの比率あるいは高ゲインフォノを選択し、負荷抵抗をメーカー推奨値に合わせる。多くの高級フォノは可変負荷を備える。
- トーンアームのアース、ケーブルの種類(シールド特性と容量)も総合的な調整対象です。
内蔵フォノプリアンプ vs 外付けの違い
インテグレーテッドアンプやAVレシーバー内蔵のフォノは便利でコスト効率が高いですが、性能面では外付け専用機に一歩譲ることが多いです。外付けは設計の自由度が高く、ノイズやクロストークを抑えやすい、調整機能を持つ製品が多いという利点があります。特に高品質なMCカートリッジを使う場合は外付けの専用フォノステージ(あるいはSUT+フォノステージ)の導入を検討すると良いでしょう。
よくあるトラブルと対処法
以下は経験上よく起きる問題とその解決策です。
- 低周波のハムが出る:ターンテーブルのアース線が外れている、またはアースループがある。まずアースを正しく接続し、それでもダメなら機器間の接続を見直す。
- 音が薄い/高域が足りない:入力容量が多すぎる、あるいはカートリッジのコンプライアンスとトーンアームの共振が悪さをしている可能性。ケーブルを短くするか容量の少ないケーブルに交換、もしくはフォノプリアンプの容量設定を調整する。
- 左右の位相が逆:RCAケーブルの接続ミスや内部配線の問題。ケーブルや接続端子を確認。
- ノイズやサーという音がする:MCでゲインが高すぎる場合やフォノ段の入力段のノイズ。SUTの導入や高品質なフォノプリアンプへの交換を検討。
選び方のポイント(用途別ガイド)
選ぶ際は次の点を優先順位にしましょう。
- カートリッジとの適合性:出力と推奨負荷値を基準に選ぶ。
- 予算とアップグレード性:将来MCに変えるかを考え、SUTや高ゲインモデルを選ぶと拡張性が高い。
- 設置スペースと接続性:入力(MC/MM切替、可変抵抗、バランス出力)が必要か。
- 測定データの確認:RIAA偏差、S/N、THDなどの公表値やレビューを参考に。
デジタル時代のフォノプリアンプ
近年はフォノ段にA/Dコンバーターを内蔵しUSB出力を持つ製品も増え、レコードをデジタル化してPCで編集・保存する用途に便利です。ただし、A/D過程での帯域や解像度、クロック品質が音質に影響するため、アナログ出力の音質とデジタル化の利便性のどちらを重視するかで選択が変わります。
まとめ
フォノプリアンプは単なる音量を上げる機器ではなく、RIAA補正によってレコード本来の音を再現する非常に重要な役割を担っています。カートリッジの種類(MM/MC)、出力レベル、推奨負荷を基にゲインやインピーダンス、容量を適切に選び、接地やケーブルに注意することでベストな再生が得られます。予算や用途に応じて内蔵型・外付け型・SUTや電子式のいずれを選ぶか検討しましょう。
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参考文献
- Phono preamp — Wikipedia
- RIAA equalization — Wikipedia
- Turntables and cartridges: what you need to know — Sound On Sound
- Stereophile(フォノプリアンプレビュー記事など)
- Audio-Technica(カートリッジ仕様とロードに関する資料)


