マイナースケールの深層ガイド:理論・和声・実践テクニックを徹底解説
マイナースケール(短音階)とは
マイナースケール(短音階)は、西洋音楽における長調と対になる音階群で、感情表現の幅が広いことからクラシック、ジャズ、ロック、民族音楽など幅広いジャンルで用いられます。一般に「短調」と呼ばれる概念は、同じ鍵名(キー)でも用いる音列の違いによりいくつかの種類に分かれます。主に扱うのは自然短音階(ナチュラル・マイナー、Aeolian)、和声的短音階(ハーモニック・マイナー)、旋律的短音階(クラシックの上下異なる形)およびジャズで使われるジャズ・メロディック・マイナー(均一化した旋律的短音階)です。
基本的な構造と間隔(インターバル)
音階はトニック(主音)からの全音(W)と半音(H)の配列で定義できます。代表的なパターンは次の通りです。
- 自然短音階(Aeolian):W–H–W–W–H–W–W(例:Aナチュラル・マイナー=A B C D E F G)
- 和声的短音階(Harmonic minor):W–H–W–W–H–(1.5)–H(6度と7度の間が増2度=3半音、例:A B C D E F G#)
- 旋律的短音階(Melodic minor, クラシック上行):上行で6度と7度を半音上げ、下行で自然短音階に戻る(上行例:A B C D E F# G#、下行はA G F E D C B A)
重要なのは、和声的短音階で生じる6度–7度の増2度(augmented second)が旋律の連続性に影響すること、旋律的短音階はその問題を回避するために上行で6度と7度を上げるという実践的措置であることです。
呼称と機能音(主な度の名称)
短調の機能語彙としては、主音(トニック)、属音(ドミナント)、下属音(サブドミナント)、導音(leading tone)などがあり、導音は長調では第7音が半音上にあるものですが、自然短音階では第7音が半音下がっており、和声的短音階や旋律的短音階で導音を確保するために第7音が上げられます。導音の存在はV→iの強い解決(ドミナント・トニック)を生みます。
和音構成への影響:短調で作れる和音(トライアド)
短音階の種類により、各音に積み上げる三和音(トライアド)や四和音(7thコード)の性質が変わります。代表的な例をAをトニックに取って示します。
自然短音階(Aナチュラル・マイナー:A B C D E F G)上のトライアド(度数とコード品質):
- I(i)=A–C–E:マイナー
- II(ii°)=B–D–F:ディミニッシュ(減三和音)
- III(III)=C–E–G:メジャー
- IV(iv)=D–F–A:マイナー
- V(v)=E–G–B:マイナー(しかし伝統的和声ではVは長三和音になることが多い)
- VI(VI)=F–A–C:メジャー
- VII(VII)=G–B–D:メジャー
和声的短音階(Aハーモニック・マイナー:A B C D E F G#)では、VがE–G#–Bのメジャー和音となり、強いドミナント機能を持ちます。またIIIがC–E–G#で増三和音(aug)になる点が特徴的です。
旋律的短音階(上行、A B C D E F# G#)ではIVやIIなどがメジャーになったり、7thコードも異なる品質(例:i(maj7) = A C E G# が成立し得る)を生じます。とくにジャズではこのi(maj7)が頻出します。
7th(四和音)と短調の固有和音
短調で注目すべき四和音としては、トニックのマイナー・メジャー7(m(maj7))、ドミナント7(V7)および導音に基づくディミニッシュ(半減/全減)などがあります。和声的短音階や旋律的短音階の導音の引き上げが、ドミナント–トニック進行(強い解決)を可能にし、クラシックの終止形を実現します。
旋律作法:クラシックとジャズの違い
クラシックの教科書的な流儀では、旋律的短音階は上行で6・7度を上げ、下行では自然短音階に戻すことで、上行の導音と滑らかな旋律進行(大きな跳躍を避ける)を両立させます。和声的短音階の増2度は旋律的に不自然と見なされることが理由です。
一方、ジャズ理論では「ジャズ・メロディック・マイナー(jazz melodic minor)」として上行形を上行下行ともに用います。つまり6度と7度を常に上げた状態で運用し、スケール=コード(コード・スケール理論)との直接対応を容易にします。これにより、トニックのm(maj7)、V系の代替として7thモード(Super Locrian = altered scale)などが得られます。
モードと派生スケール:ハーモニック/メロディックのモード群
メロディック短音階(上行形)やハーモニック短音階は、それ自体が複数のモード(旋法)を持ち、独特の音色を生みます。代表的なものを挙げます(名称は英語の一般呼称を併記します)。
- メロディック短音階の主なモード:ジャズ・メロディック・マイナー(1st)、Dorian b2(2nd)、Lydian Augmented(3rd)、Lydian Dominant(4th)、Mixolydian b6(5th)、Locrian #2(6th)、Super Locrian/Altered(7th)。特に7thモードはドミナントのaltered系テンションに相当し、ジャズで重要。
- 和声的短音階のモード:その5度上のモードはPhrygian Dominant(フリジアン・ドミナント、スペイン音階とも呼ばれる)があり、フラメンコや中東的な色彩によく使われます。他にもHungarian minorやNeapolitan minorに類するモードがあり、民族風・異国情緒を演出します。
これらのモードは即興や作曲で豊かな色彩を提供します。たとえばPhrygian Dominantは低い2度と高い3度が同居するため、独特の“ドミナントながら現地風”な響きを持ちます。
ジャンル別の使い方(クラシック、ジャズ、ロック/メタル、民族音楽)
短調はジャンルごとに扱い方が異なります。
- クラシック:主に和声的短音階を和声的・形式的必要性で使用。終止形やモチーフの解決に導音(raised 7th)を用いることが多い。旋律的短音階の上下異形も伝統的実践。
- ジャズ:ジャズ・メロディック・マイナーを基盤に、コード・スケール対応でテンション(9, 11, 13など)を扱う。Altered(7thモード)やLydian Dominantなどが即興で頻出。
- ロック/メタル:自然短音階やハーモニック・マイナー由来のスケール(Phrygian, Phrygian dominantなど)を用い、リフやソロで暗さや異国情緒を出す。ハーモニック・マイナーの明確なV(メジャーV)使用で強い解決感を得ることもある。
- 民族音楽:フラメンコや中東音楽ではハーモニック・マイナー由来のモード(Phrygian dominantなど)が伝統的に用いられる。
モーダル・ミクスチャー(平行調からの借用)と転調
平行調(例:CメジャーとCマイナー)の間で和音を借用するモーダル・ミクスチャーは、作曲や編曲で非常に有効です。メジャー曲に短調のiv(マイナーiv)やbVI、bVIIを挿入すると色彩が深まり、短調側ではIV(メジャー)やb3(メジャーIII)を借用して明るさを加えることができます。また、短調内で和声的短音階を用いてVをメジャーにしたり、旋律的短音階で流暢な上行旋律を確保することで自然な転調を演出できます。
実践的な作曲・即興アドバイス
いくつかの実用的なヒント:
- 終止(カデンツ)で強い解決を望むならVをメジャーにする(つまり和声的短音階の導音を利用)。導音を使うことでドミナントの解決力が増す。
- 旋律の滑らかさを重視するなら、上行で6・7度を上げる旋律的短音階の考えを採る。下行では第6・7を戻して自然短音階にすると古典的な雰囲気が出る。
- 即興では目的のコードに応じたモードを選択する。V7altにはSuper Locrian、V7(ナチュラルなテンション)にはLydian DominantやMixolydian系、トニックの色付けにはメロディック・マイナーからの選択が有効。
- 和音の質感を変えたいときは、短音階の種類を変えて同じトニックに異なる和音群を発生させる(例:自然⇔和声⇔旋律)。
練習法と耳のトレーニング
スケールを理解するだけでなく、耳で判別できることが重要です。次の練習を推奨します。
- 各短音階(自然/和声/旋律)をトニックから順に上行・下行で練習し、音色の違いを確認する。
- 各スケール上でトライアドと7thコードをアルペジオで弾き、音色と機能(ドミナント感、緊張度、解決感)を聴き分ける。
- 短調の標準的カデンツ(iv–V–i、i–iv–V–iなど)を練習し、和声的短音階の導音を使ったV→iの効果を体感する。
- 即興練習では、まず自然短音階だけを使ってメロディを作り、次に導音を導入してどのようにフレーズや解決感が変わるか試す。
よくある誤解と注意点
いくつか注意点を挙げます。
- 「短調=常に悲しい」という単純化は避けるべきです。短調は色彩が多様で、和声やモードの選択で多彩な感情表現が可能です。
- 旋律的短音階を上行だけで使う慣習はクラシック由来であり、ジャズや現代音楽では上行下行同形で使うことが一般的です。
- 和声的短音階の増2度は旋律上の選択肢を制約する場合があるが、和声的効果は強力であるため意図的に用いる価値がある。
まとめ:短調の特徴と創作での活かし方
マイナースケールは単なる「暗さ」を与えるものではなく、導音の有無、6度の処理、各モードの選択により実に多彩な和声的・旋律的表現を実現します。和声的短音階はドミナント機能を強化し、旋律的短音階は滑らかなメロディを可能にし、ジャズ的運用ではさらに多くのテンションと色彩を与えます。作曲や編曲、即興演奏ではこれらの違いを意識的に使い分けることで作品の説得力や表現の幅が格段に広がります。
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参考文献
- Wikipedia「短音階」
- Wikipedia「和声的短音階」
- Wikipedia「旋律的短音階」
- Wikipedia: Minor scale (English)
- Encyclopaedia Britannica: Minor scale
- musictheory.net: Minor Scales
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