クローズドマイクの極意:録音・ライブで使い分けるための理論と実践ガイド
クローズドマイク(クローズド・マイキング)とは何か
クローズドマイク(クローズド・マイキング)は、マイクを音源に近づけて配置し、直接音を優先的に拾う録音・収音技術です。英語では一般に「close miking」と呼ばれ、反響音や部屋の残響(アンビエンス)を抑え、音源の細部やパンチ感を強調する目的で用いられます。スタジオ録音だけでなく、ライブサウンドや放送、ポストプロダクションでも広く活用されています。
クローズドマイクのメリットとデメリット
- メリット
- 音源の直接音を確保しやすく、定位や音像が明確になる。
- 他の音(他楽器やステージノイズ)からの漏れ(リーク)を減らせるため、ミキシングや編集の自由度が高まる。
- より高いゲインが得られるため、ノイズフロアに対して有利。
- ライブではハウリング(フィードバック)管理が容易になる。
- デメリット
- 近接効果(proximity effect)により低域が強調され、バランスが変わることがある。
- 部屋の空気感や自然なリバーブが失われ、やや「近すぎる」音になりがち。
- 複数マイク使用時には位相問題や干渉が発生しやすい。
マイクの種類とポーラーパターンの選び方
クローズドマイクでは用途に応じてマイクの種類と指向性(ポーラーパターン)を選びます。
- ダイナミックマイク:耐久性が高く高SPLに強いため、スネアやギターアンプ、ボーカルのライブで定番。例:Shure SM57/SM58。
- コンデンサーマイク:高域の解像度が高く、スタジオでのボーカルやアコースティック楽器でよく使われる。ファンタム電源が必要。
- リボンマイク:自然で滑らかな高域特性。ギターアンプやブラスの収音で好まれるが高SPLや逆相に弱い場合がある。
ポーラーパターン:
- カーディオイド(心臓形):前方感度が高く、横・後方の音を抑えられるためクローズドで最も一般的。
- ハイパーカーディオイド/スーパーカーディオイド:より狭い集音角でさらに隔離したい場合に有効だが、後方に狭い感度のスポットがある点に注意。
- オムニ(無指向):近接効果がほとんどなく自然な低域特性。密閉感ではないが位相の扱いやすさが利点。
- フィギュア・オブ・エイト(双指向):両側から集音する特性。M/S(ミッド/サイド)収音などで使用。
近接効果とその対策
近接効果は、指向性マイク(特にカーディオイド)を近接して使用すると低域が持ち上がる現象です。ボーカルにパンチを与えたり、スネアの存在感を増す利点がありますが、過度だと濁りやマスキングの原因になります。対策としては:
- マイク距離を適正に保つ(ボーカルは10〜20cm、楽器は用途により10cm〜50cm程度が目安)。
- ハイパス(ローカット)フィルターを適用(80〜120Hz帯など)して不要な低域を整理する。
- 必要に応じてオムニ指向性の使用やマイク角度を調整して空気流の直撃を避ける。
楽器別のクローズドマイク実践ガイド
ボーカル
ボーカルは最もクローズドマイクが多用される場面です。ポップスやロックのライブではダイナミックマイク(SM58等)を10〜15cm前後で使用し、ポップフィルターを用いることで破裂音(プップ)を抑えます。スタジオ録音の際は、大口径コンデンサーを20cm前後に配置して自然な空気感と細部を拾います。距離により音色を変えられるので、テイク毎に微調整します。
アコースティックギター
アコギでは12フレット付近から10〜30cmの距離で45度の角度をつけてマイクを向けるのが定番。サウンドホール直上は低域が強くなりがちなので避けることが多いです。マルチマイクにする場合は1本を12フレット付近、もう1本をブリッジ側やボディ側に置いてブレンドします。位相ズレに留意し、3:1ルール(マイク間隔は各マイクと音源間距離の3倍以上)を参考にすることが有効です。
ドラム
スネアは径2〜6cmの距離で45度の角度(ヘッドへの直接空気流を避ける)に、キックは内部マイクを数センチ、フロントポート外側に置く場合は10〜30cm前後で低域の量感を調整します。オーバーヘッドはクローズドよりやや離して(30〜60cm)シンバルとステレオイメージを捉えます。ドラムは多マイク構成になりやすいため、位相チェックとゲーティングの活用が重要です。
ギターアンプ
ギターキャビネットにはダイナミックマイク(SM57等)をスピーカーのエッジ付近〜センターへ向けて数センチ〜数十センチで配置します。センターに近いほど中高域が前に出ます。ブレンド用にリボンやコンデンサを少し離して置き、ダイナミックマイクと混ぜることで立体感を作る手法もよく使われます。
ピアノ・ストリングス・ブラス
ピアノは開放状態で弦に近い位置(10〜30cm)に複数マイクを置き、内部の音像と鍵盤のレンジを拾い分けます。弦楽器や管楽器は息や弓の空気ノイズを避けるためにややオフアクシス(中心から外した角度)で15〜30cm程度を基準に調整します。
位相問題とマルチマイクでの対処法
複数マイクを使う場合、位相(フェイズ)による周波数の打ち消しが発生し得ます。基本的な対策:
- 物理的配置で3:1ルールを意識する。
- 録音後に波形を目視して遅延(タイムアライメント)を補正する。
- 位相反転(polarity invert)や微小なディレイ調整で問題周波数を解消する。
- M/SやX/Y等のコインシデント法(位相の整合が良いステレオテクニック)を活用する。
ライブとスタジオでの使い分け
ライブでは遮音性とフィードバック対策が優先されるため、よりクローズドな配置が好まれます。スタジオでは音の選択肢を増やせるため、クローズドとルーム(アンビエンス)マイクの併用が多く、楽曲やジャンルに合わせてバランスをとります。ルームを無視しすぎると不自然になることがあるため、自然な空気感が必要なジャンルでは間接音を補うべきです。
プリアンプ、ゲイン構成、SPL管理
クローズドマイクは高いレベルを得やすい反面、プリアンプのゲイン設定でクリッピングしないよう注意します。高SPLを扱う楽器には-padスイッチ(-10dB〜-20dB)や耐入力の高いマイクを選択します。現場ではゲインリダクションが必要な瞬間があるため、ヘッドルームを確保したセッティングを心がけます。
実践的なTips
- 常にモニターと録音波形でチェックして、実際の音と波形差を確認する。
- ポップガード、ショックマウント、ウィンドスクリーンを適切に使用してノイズを抑える。
- 録音時にマイクの角度を少しずらして理想のトーンを探る(1〜5cm・5〜15度の微調整で劇的に変わることがある)。
- 必要に応じてクローズドとルームマイクを録っておき、後でMixで最適な比率を探す。
クローズドマイクを活かすミキシングの考え方
クローズドで得られた素材は干渉や不要音が少ないため、EQやコンプレッションの効きが予測しやすい利点があります。ただし、単純に近接音を並べただけではステレオイメージや楽曲の奥行きが不足します。ルームリバーブやプレートを加えたり、遠めに録ったアンビエンスと混ぜることで自然な立体感を回復することが推奨されます。
まとめ:いつクローズドマイクを選ぶか
クローズドマイクは、音源の明瞭さ、分離、コントロール性が重要な状況で選ばれます。一方で音楽的な空間感や自然な残響を重要視する場合は、ルームやアンビエンス収音との併用を検討してください。最終的には耳で判断し、マイクの種類・指向性・距離・角度を組み合わせて最適解を作ることが重要です。
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参考文献
- Shure - Microphone Techniques
- Sound on Sound - Close miking
- Audio Engineering Society (AES) - E-Library / 論文・技術資料
- John Eargle, The Microphone Book
- David Miles Huber, Modern Recording Techniques
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