ノイズミュージック入門:歴史・特徴・主要アーティストと聴き方ガイド

ノイズミュージックとは何か

ノイズミュージックは、伝統的な音楽の枠組み(旋律、和声、リズムなど)を意図的に越え、日常音や機械音、歪み、フィードバックなど“ノイズ”とされてきた音響要素を中心に据える音楽的実践の総称です。ノイズを単なる“雑音”やエラーではなく、芸術的な素材、表現手段として扱う点が特徴で、実験音楽・前衛芸術、パフォーマンスアートと深く結びついて発展してきました。

歴史と起源:前衛からテクノロジーまで

ノイズを音楽的素材として位置づけた最初期の理論家の一人に、イタリア・フューチャリズムの作家ルイジ・ルッソロ(Luigi Russolo)がいます。彼の著作『騒音の芸術(L'arte dei rumori)』(1913)は、機械時代の音を芸術に取り込むことを提唱し、実際にノイズ楽器(“Noise Intoners”)を製作して演奏しました。これが後のノイズ音楽的思考の出発点とみなされます。

20世紀中頃には、エドガー・ヴァレーズの打楽器を多用した作品や、ピエール・シェフェールによる〈ミュージック・コンクレート〉(1948年以降)の実践が、録音音響を素材化する手法を確立しました。また、ジョン・ケージの偶然性や環境音を音楽に含める思想(例:4′33″、1952)も、ノイズ的視座に影響を与えています。

1970年代以降の展開:産業的ノイズからジャパノイズまで

1970年代末から1980年代にかけて、産業社会の暗部や政治的メッセージを前面に出した“インダストリアル・ミュージック”が登場しました。特にイギリスのThrobbing Gristle(結成1975年)は、過激な美学と自己運営のレーベル(Industrial Records)を通じて、ノイズとポップの境界を揺さぶりました。

一方で日本では、1970〜80年代の即興演奏や前衛パフォーマンスに端を発し、1980年代後半以降に“ジャパノイズ”と呼ばれる独自のノイズ文化が形成されます。代表的なアーティストにMerzbow(マズボーこと秋田昌美、活動開始1979年)、Hijokaidan、Hanatarashなどがあり、過激かつ密度の高い音響で国際的な注目を集めました。ドイツのEinstürzende Neubauten(結成1980年)も、建設現場の金属や機械音を楽器化する手法で知られます。

音楽的特徴と制作手法

ノイズミュージックに共通する要素と制作上の手法は多岐にわたりますが、主なものは次の通りです。

  • 非楽音と物音の採用:日用品、工業機械、金属片、建築資材などを打撃・擦過して音源とする。
  • 電子的変換:ディストーション、フェーズシフター、フィードバック、リングモジュレーター、グリッチ処理などを用いて音を変貌させる。
  • アコースティックとテクノロジーの融合:録音編集(テープループ、カットアップ)、サンプリング、ライブ・エレクトロニクス。
  • 即興性とパフォーマンス:観客との身体的な距離を縮める過激なライブパフォーマンス、ノイズを用いた身体表現。
  • 形式の解体:構造化された楽曲形式を解体し、持続音、断片、ランダムな音列を重ねることで新たな聴覚体験を作る。

サブジャンルと用語

ノイズの領域は細分化しており、代表的な呼称を挙げると次のようになります。

  • ノイズロック:ギターやバンド編成でノイズ的要素を取り入れたロック(例:Sonic Youthなどの影響)。
  • インダストリアル:機械的サウンドと反商業的姿勢を特徴とする。Throbbing GristleやEinstürzende Neubautenが先駆。
  • パワーエレクトロニクス:ノイズと暴力的なサウンドスケープを重視する極端な電子音楽(Whitehouseなど)。
  • ハーシュ・ノイズ、ハーシュ・ノイズ・ウォール(HNW):極端に密度の高い持続音や密閉的な音塊を特徴とするスタイル。

主要アーティストと代表作(聴きどころ)

以下はノイズを理解するための代表的なアーティストと聴くべき作品です(初心者向けに歴史的・音響的な価値が高いものを選びました)。

  • Luigi Russolo — ルッソロの演奏記録や論考(1913)を参照すると、ノイズ概念の萌芽を理解できます。
  • Edgard Varèse — 「Ionisation」(1931):打楽器中心の現代音楽の歴史的重要作。
  • Pierre Schaeffer / musique concrète — 録音素材を音楽的要素として扱う先駆的実践。
  • Throbbing Gristle — 「20 Jazz Funk Greats」(1979):インダストリアルの初期表現と文化的衝撃。
  • Einstürzende Neubauten — 「Kollaps」(1981)など:建築的な音響の実験。
  • Merzbow(秋田昌美) — 「Pulse Demon」(1996)、「Venereology」(1994):ジャパノイズを代表する作品群。
  • Whitehouse — 初期のパワーエレクトロニクス作品群(1980年代):極端な音響と主題性。

文化的意義と批評

ノイズミュージックは、しばしば「音楽とは何か?」という問いを突きつけます。商業音楽の快楽原理や市場志向に対する批判、機械化や都市化がもたらす音環境の表象、さらには身体性や暴力性を意識的に扱う芸術的戦略など、多層的な意味を持ちます。

一方で、「騒音=音楽か?」という論争は常に付きまといます。ノイズは聴覚的な挑発であり、不快感や拒否感を意図的に引き起こすこともあります。これが批評的価値として評価されることもあれば、単なる騒音として退けられることもあります。重要なのは、ノイズが提供する新たな聴覚体験と、それが引き出す思考の可能性です。

聴き方ガイド:入門から深掘りへ

ノイズを初めて聴く際は、次の点を意識すると理解が深まります。

  • 集中時間を短めに設定する:強度が高い作品は短時間ずつ聴くのが安全です。
  • 音質と再生環境:高音量での長時間再生は聴覚に影響を与えるため、適度な音量で、良質なヘッドフォンやスピーカーを使う。
  • 前提知識として歴史やコンテクストを学ぶ:作曲意図や制作背景を知ることで、単なる騒音以上の意味が見えてきます。
  • ライブ体験の違いを理解する:多くのノイズ系アーティストはライブでの身体性や音圧を重視します。録音とライブでは受け取られ方が異なります。

入門用の具体的な試聴順としては、まずVarèseやSchaefferの歴史的作品で“音の素材化”を理解し、次にThrobbing GristleやEinstürzende Neubautenでパフォーマンス性と産業的美学を体験、最後にMerzbowやパワーエレクトロニクスでノイズの極致に触れる、という流れがわかりやすいでしょう。

現代の動向と展望

近年は、ノイズの要素が電子ダンスミュージック、ポストロック、アンビエントなど他ジャンルと交差することが増えています。さらにデジタル処理の発達で微小なノイズやランダム事象の操作が容易になり、新たな表現が生まれています。ノイズは音楽的境界の実験場であり続け、今後もメディア技術や社会状況とともに変容していくでしょう。

まとめ

ノイズミュージックは、音の定義を拡張し、聴覚経験を刷新する前衛的な実践です。歴史的にはルッソロやミュージック・コンクレートに遡り、1970年代以降のインダストリアル、1980年代のジャパノイズなどを経て多様化しました。聴く際にはコンテクストと身体的安全(音量管理)に配慮しつつ、段階的に深掘りすることをおすすめします。

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参考文献