音楽と周波数の科学:音の物理・調律・制作における実践ガイド

周波数とは何か — 基礎概念

周波数(frequency)は音波が1秒間に繰り返される回数を表す物理量で、単位はヘルツ(Hz、cycles per second)です。純粋な正弦波であれば周波数が音の「高さ(ピッチ)」に直接対応します。例えば、国際標準の基準音A4は440Hzで、これを基準にして他の音の周波数が決まります(等比関係によりオクターブ上では2倍、下では1/2となる)。

周波数と音の高さ(ピッチ)の関係

音階における音程は周波数比で定義されます。平均律(12平均律)では1半音ごとの周波数比は2^(1/12)≈1.059463です。したがって、ある基準周波数 f0 に対して n 半音上の周波数 f は次の式で与えられます:

f = f0 × 2^(n/12)

具体例:A4 = 440Hz の1半音上(A#4/Bb4)は約466.16Hz、中央C(C4)は約261.63Hz(A4 から計算される)です。音程の細かな差はセント(cent)で表し、セントは1200×log2(f2/f1)で計算します。

倍音(ハーモニクス)と音色

楽器の音は純粋な正弦波ではなく、基本周波数(ファンダメンタル)に対して整数倍の周波数を持つ倍音(部分音)が重なった複合波です。倍音の強さや位相関係が音色(ティンバー)を決定します。例えば、バイオリンやトランペット、ピアノでは倍音スペクトルの分布が大きく異なり、それが個々の楽器の識別に寄与します。倍音は理想的には整数倍ですが、ピアノのように弦の剛性による非整数比(非調和性、inharmonicity)が現れる場合もあります。

調律理論:平均律、正確律、ピタゴラス調律

歴史的に様々な調律法が用いられてきました。正確律(純正律、just intonation)は単純な周波数比(3:2の完全5度、5:4の長3度など)を重視しますが、転調に弱いという欠点があります。ピタゴラス音律は3:2(完全5度)を基準にします。一方で現代の西洋音楽で一般的な12平均律は、すべての半音幅を等比にして転調の問題を解決する代わりに、純正比との差(セントで数単位〜数十単位)を生じます。

可聴周波数帯と人間の聴覚特性

一般的な人間の可聴周波数範囲は約20Hz〜20kHzです。ただし年齢や個人差により高域感度は20代以降で徐々に低下します(高周波の感度低下は加齢性難聴、いわゆるプレスビコシス)。また、人間の音の知覚は振幅(音圧)や周波数に依存し、等ラウドネス曲線(等感度線、ISO 226)で示されるように周波数ごとに必要な音圧が異なります。低域と高域は同じ音圧でもより小さく聞こえる傾向があります。

周波数と音響現象:ビート、干渉、位相

近い周波数同士の音が同時に鳴ると、二つの周波数の差成分でビート(うなり)が生じます。ビート周波数は両者の周波数差に等しく、楽器の調整(楽器合わせ)やコーラス効果、ビブラートなどに応用されます。位相差はスペクトル形状そのものを変えない場合でもスピーカー間や耳への到達で干渉を起こし、周波数領域での強め合い・弱め合い(ピーク/ディップ)を作ります。位相管理はステレオミックスやマスタリングで重要です。

ミキシングとEQ(イコライゼーション)における周波数帯の実務

音楽制作では周波数帯を理解して楽器の居場所(スペース)を作ることが肝要です。一般的な目安:

  • サブベース:20–60Hz(重低音の存在感)
  • ベース:60–250Hz(低域の太さ・輪郭)
  • ロー・ミッド:250–500Hz(暖かさ、もたつきの原因)
  • ミッドレンジ:500Hz–2kHz(明瞭さ、歌や多くの楽器の主要エネルギー)
  • アッパーミッド/プレゼンス:2–6kHz(発音の輪郭、聞き取りやすさ)
  • ブリリアンス:6–20kHz(空気感、煌びやかさ)

これらはあくまでガイドラインで、楽曲ジャンルや楽器構成、再生環境に応じて調整します。マスキング(ある音が他の音によって聞かれにくくなる現象)を避けるためにカット/ブーストの選択が重要です。

デジタル音声とサンプリング周波数

デジタル録音ではアナログ音声を一定間隔でサンプリングして数値化します。ナイキスト=シャノンの標本化定理によれば、録音に必要な最高周波数の少なくとも2倍以上のサンプリング周波数が必要です。CD標準の44.1kHzは理論上22.05kHzまでの再現が可能であり、人間の可聴帯域をカバーします。プロ用途では48kHz、96kHzなどが使われることもありますが、それらは高周波成分やプロセッシングの余裕、フィルタ特性の観点から選択されます。またビット深度はダイナミックレンジ(量子化雑音)に影響しますが、周波数分解とは直接の関係はありません。

周波数解析とFFT(高速フーリエ変換)

音の周波数成分を解析するためにFFTが広く用いられます。FFTは時間領域の信号を周波数領域に変換し、スペクトラムを得る手法です。実務では窓関数やウィンドウ長を選ぶことで周波数分解能と時間分解能のトレードオフが発生し、窓の選択やオーバーラップ、窓端の処理が解析品質に影響します。スペクトル表示はEQ調整や問題周波数(共鳴、ノイズ成分)の検出に有用です。

よくある誤解と注意点(432Hz論争など)

インターネット上には「432Hzチューニングが宇宙や人体に優しい」などの断定的主張が流布していますが、これらを支持する科学的根拠は乏しく、主観的好みに基づくものが大半です。調律基準(A4=440Hzか432Hzか)は聞き手の慣れや録音のEQ、演奏の表現の方が大きく影響するため、科学的に一方が普遍的に優れているとは言えません。

実践的な測定・調整の手順

  • 楽器のチューニング:チューナーやスペクトラム解析で基準音に合わせる。耳合わせ(ビートの減衰を聞く)も有効。
  • ミックス時:まずローエンドを整理(ハイパスフィルタで不要低域を削る)、楽器ごとに周波数帯を分ける、マスキング箇所はカットで解消。
  • マスタリング:周波数バランス全体の最終調整。EQの操作は小刻みに、参照トラック(リファレンス)と比べること。
  • モニタリング:複数環境(スピーカー、ヘッドフォン、スマホ)でチェックし、周波数バランスの普遍性を確認する。

まとめ

周波数は音の高さだけでなく、音色、ミックス上の位置、知覚的な明瞭度に直結する基本概念です。物理的な周波数比、倍音の構造、聴覚の特性、デジタル化に伴う制約(サンプリング)や解析手法(FFT)を理解することで、演奏・録音・ミックス・マスタリングの各段階でより効果的な判断ができます。実務では数値的な理解と耳での確認を組み合わせることが最も重要です。

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参考文献