ファイナルファンタジーVIIの古代種(Cetra)を徹底解剖:伝承・設定・物語的役割と現代への影響

序章:なぜ古代種(Cetra)は今も語られるのか

『ファイナルファンタジーVII』(以下FFVII)に登場する「古代種(Cetra/セトラ、作中日本語表記は古代種)」は、ゲーム世界の神話的存在であり、物語の核となるテーマ――自然(星=プラネット)と人間、そして記憶と喪失――を体現する存在です。主人公たちの行動原理や敵対する勢力の動機、さらにプレイヤーが受ける感情的衝撃(代表例:エアリスの死)に至るまで、古代種の設定はFFVIIの各所に深く結びついています。本コラムでは、ゲーム内での設定事実を丁寧に整理し、作品間の解釈差や象徴性、さらに現代のゲーム/ファンダムに与えた影響まで深掘りします。

古代種とは何か:定義と基本設定

古代種(Cetra)はFFVIIの世界観における古い民であり、「星(Planet)」と深く結びつく能力を持っていると描かれます。彼らはライフストリーム(Lifestream、生命の流れ)と精神的に繋がることで星の声を聞き、土地を癒やし、移住先(作中でいう「約束の地」)を探すなど、星の保全に関わる役割を担っていたとされています。

重要なポイントは以下の通りです:

  • 古代種は星(Lifestream)と感応する特異な血統・文化であること。
  • 「約束の地(Promised Land)」という概念と深く結びつき、放浪や移住、遺跡の残留といった痕跡を世界各地に残していること。
  • 作中では数が激減しており、オリジナル版ではエアリス(エアリス/Aerith/Aeris)が「最後の古代種」と言われる点が物語的に強調されること。

ゲーム中での登場と主要な舞台

古代種にまつわる重要なロケーションとイベントは、プレイヤーが物語を進める上で幾度となく接触します。代表的なものは以下です:

  • 忘らるる都(Forgotten Capital)/市街(City of the Ancients):エアリスが祈りを捧げる場所として描かれ、物語の転換点である“エアリスの死”の舞台でもあります。雰囲気演出やライフストリームの存在感が強く出る場所です。
  • 古代の寺院(Temple of the Ancients):古代種に関わる遺跡で、重要なアイテムや真実へ導く仕掛けが存在します。遺跡の設定は古代種の文明の痕跡を示す役割を果たします。
  • 古代種の遺物・書記録:作中の文献やNPCの会話、遺跡の彫刻などで古代種の伝承が断片的に伝えられ、プレイヤーは徐々に全体像を把握していきます。

ジェノバ(Jenova)と古代種の関係:誤認と利用の歴史

FFVIIの物語において、ジェノバ(宇宙から来た生命体とされる存在)と古代種は混同される重要な要素です。ここでの事実関係は次のように整理できます:

  • ジェノバは外来の生命体であり、古代種そのものではない。ジェノバの到来は古代種に甚大な被害をもたらし、彼らの社会を崩壊させたことが示唆されています。
  • しかし、古代の記録やその痕跡が混乱した結果、後世の研究者(およびセフィロス)はジェノバの存在を古代種=“約束の地”に関わる存在と誤認したり利用したりします。特にセフィロスは自らを古代種の血を引く者だと信じ込み、それが彼の行動原理の一因となります。これは“血統”という概念の政治的・心理的利用の典型です。
  • シナリオ上、神話/記録の曖昧さが、悲劇(セフィロスの暴走)や搾取(シンラによる研究・捕縛)を生み出す触媒となります。

代表的キャラクターと古代種の継承

古代種に関して最も象徴的な人物はエアリス・ゲインズブール(日本語表記:エアリス、英語表記:Aerith/Aeris)です。オリジナル版では“最後の古代種”という立場が物語上大きな意味を持ちます。関連する事実:

  • エアリスは古代種の血を引き、その能力(星と接触する力/祈りや癒やしに通じる感性)を示します。
  • エアリスの母(Ifalna/イファルナ)は古代種の出自に関わる人物として登場し、シンラに捕らえられて研究対象となったという経緯が語られます(物語上の設定として繰り返し触れられる事実)。
  • シリーズの外伝(コンピレーション)やリメイクでは設定の補完や描写の深化があり、エアリスやIfalnaの描かれ方に広がりが生じていますが、コアとなる「古代種=星と繋がる系譜」という点は一貫しています。

テーマ的・象徴的な意味合い:古代種が表すもの

なぜ古代種が単なる“世界設定”以上の重みを持つのか。以下のような読み取りが可能です:

  • 「自然=星」との共生:古代種はプラネット(星)と直接結びつく能力を持ち、現代文明(シンラの工業化やジェノバの異物)との対比で自然保護や環境倫理を象徴します。
  • 記憶と喪失:古代種は過去の文化の代表であり、遺跡や断片的な伝承を通じてのみ現在と繋がっている点が“喪失と再生”の物語を促進します。
  • 権力と逸脱の物語装置:血統や“選ばれし者”という設定が、キャラクター(特にセフィロス)の狂気と悲劇を生む。古代種の概念は、ナショナリズムや優生思想への批評的読み取りも可能にします(物語の読み替えとして)。

オリジナル版とリメイク/コンピレーションでの変化

FFVIIはリメイク(2019年以降の『FFVII REMAKE』シリーズ)やコンピレーション作品で設定が補強・再解釈されてきました。大まかな違いは以下です:

  • 描写の細密化:リメイクではキャラクターの背景(Ifalnaの状況、エアリスの幼年期など)がより詳述され、古代種の文化的痕跡が視覚的に表現されます。
  • 物語の拡張と解釈の幅:外伝作品(『クライシス・コア』等)やリメイクの追加要素により、古代種とジェノバ、シンラの関係がより多層的に描かれるようになりました。ただし基本設定(古代種=星と結びつく民、ジェノバは外来生物である、等)は変わっていません)。

ファンダムとゲーム文化への影響

古代種やエアリスの物語は、プレイヤーの感情的記憶に強く残り、二次創作や考察記事、翻案作品において繰り返し論じられます。以下の点が顕著です:

  • エアリスの死はゲーム史上の名場面として広く語られ、物語演出やキャラクター描写の研究対象となっています。
  • 古代種の神話性は世界観構築の成功例として、後続作品や他社作品の「古代文明要素」へ影響を与えたと評価されることが多いです。

注意すべき解釈の境界:公式設定と推測の分離

FFVIIには公式設定のほかにプレイヤーやファンが補完してきた“解釈”が多数あります。考察は面白い反面、設定やシナリオの細部(年代、血統の解釈、ジェノバの具体的な行動機構など)については公式資料・台詞に基づかないと誤読を招きます。本稿では一次情報(ゲーム本編の台詞・イベント)と公式外伝の示す事実を尊重していますが、細部で複数解釈が並存する点は留意が必要です。

結語:古代種が示すものとこれからのFFVII

古代種は単なる過去の民族ではなく、FFVIIという物語全体を動かす概念装置として機能します。環境倫理、記憶の継承、権力の誤用といったテーマが古代種を通じて立ち上がり、プレイヤーに強烈な物語体験を与え続けています。リメイクや外伝によって描写は拡張されたものの、古代種の核心的な位置づけ――「星と繋がる者たち」という象徴性――は今後も作品の中核を成し続けるでしょう。

参考文献