全休符(ゼンきゅうふ)の意味・表記・実務:楽譜表記の深掘りガイド
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全休符とは — 定義と基本
全休符(ぜんきゅうふ、英: whole rest/semibreve rest)は、西洋の五線譜における休符の一種で、長さとしては全音符(全音符=セミブレーヴ/whole note、通常4拍に相当することが多い)と対応します。視覚的には、五線譜上に描かれる小さな実心の長方形が上から2番目の線(第4線)からぶら下がる形で表記されます。対照的に、半休符(half rest)は中央の線(第3線)の上に乗る形で表されます。
名称と国際的な呼び方
英語では "whole rest" または英国式の音価呼称に合わせて "semibreve rest" と呼ばれます。日本語では一般に「全休符」「全休符(全音符の休み)」と表現されます。歴史的・地域的な表記や呼称の違いはありますが、記譜上の機能は共通しています。
視覚的特徴と五線上の位置
五線譜における全休符は、上から二番目の線(第4線)に接して「ぶら下がる」形で描かれる長方形です。これに対して半休符は中央の線(第3線)に載る形を取り、視認性によって音価の違いが一目で分かるようになっています。楽譜を読む際、この配置は休符の種類を即座に認識する助けとなります。
歴史的背景(簡潔に)
現代の休符記号は、中世〜近世のメンシュラル(計量)記譜法から発展しました。古い時代には長さの単位や休符の形も現在とは異なり、ブレーヴ(breve)やロンガ(longa)といった単位の休符が存在しました。近代に入って標準化が進み、現在の全休符(semibreve rest)の形が定着しました。詳細な歴史は記譜法史の専門文献に譲りますが、今日目にする形は19〜20世紀の楽譜規範で確立されたものです。
拍子と全休符の使い方 — 実務上のルールと慣習
全休符の基本的な意味は「この休符の長さ分の音が鳴らない(無音)」ということですが、実務上の扱いにはいくつか注意点があります。
- 4/4拍子(コモンタイム)での標準的な使い方:1小節分の休みを示すのに全休符が使われます。全休符=4拍の無音、という対応が直感的です。
- 他の拍子(3/4、2/4、6/8など)での扱い:オーケストラや合唱のパート譜などでは、慣例的に「その小節が丸ごと休む」ことを示すために、拍子にかかわらず全休符(1小節の全休符)を用いる場合がしばしばあります。これは奏者にとって視認性が高く、パート譜の整理上便利だからです。ただし、編集や教育的なスコアでは、特に拍のまとまりを明示したい場合に小節内の休符を拍ごとに分けて記譜する(例:3/4なら2拍+1拍、6/8ならドット付きの組み合わせなど)ことがあります。
- 拍節感の明示:拍子の性格やリズムの分割を明確にしたい場合は、全休符を避けてビートごとに休符を配置するのが良いとされます。これにより、奏者が拍のアクセントや拍節感を正しく把握できます。
複数小節の休み(多小節休符)との関係
長い無音が続く場合、各小節に全休符を繰り返すのではなく「多小節休符(マルチメジャー・レスト)」を用いるのが一般的です。多小節休符は横に太い短冊のような記号が五線の中央に置かれ、上にその継続小節数の数字が書かれます。多小節休符はプレイヤーが長期間の無音を一目で理解するのに非常に有効です。
重音楽譜(多声部)での注意点
同じ五線に複数の声部(ボイス)が書かれている場合、各声部は独立して休符を持ちます。そのため、ある声部が1小節丸ごと休符であっても、同じ小節に他の声部が音を持つときは全体が空白にはなりません。二声あるいは三声以上のときは、休符の配置や形を使い分け(全休符・半休符・四分休符の組合せ、位置のずらし方など)て、どの声が休んでいるかを明確に示します。特に合唱やピアノの内声部分では注意が必要です。
演奏上の指示:tacet(タケット)との違い
「tacet(タケット)」とは、楽章や一連の小節にわたって楽器・パートが休止することを明示するラテン語の指示です。tacet は通常、長期間(たとえば楽章まるごと)の無音を意味する場合に使われます。一方、全休符は小節単位や拍単位の休みを示す記譜要素で、tacetのような長期間の休止指示に比べると局所的です。楽譜ではタケットの代わりに多小節休符が使われることが多く、tacetは注記的な意味合いを持ちます。
楽譜の写譜・編集での実務的ポイント
- 出版社や編曲者のハウス・スタイルを確認する:全休符の使い方(特に拍子が4拍以外の時)には慣習差があります。出版譜は統一されたルールに従っていることが多いので、それに従うのが安全です。
- 見やすさを優先する:オーケストラや合唱のパート譜では、演奏者が瞬時に休符を把握できるように全休符や多小節休符を適宜使います。教育用の簡譜やピアノ小品では、拍ごとに休符を割る方が学習効果が高い場合があります。
- 複数声部の可視化:同一段に複数の声部がある場合、どの声部が休んでいるのか分かるように配置を工夫します。たとえば上声は上に寄せ、下声は下に寄せるなど。
デジタル表記・MusicXML・MIDIでの扱い
デジタル楽譜フォーマットやMIDIでは、休符は時間的な無音区間として扱われます。MusicXMLでは<rest/>要素で休符が記述され、長さ(音価)や分解(複数の休符に分けるかどうか)などが明示されます。DTP用の楽譜作成ソフト(Sibelius、Finale、Doricoなど)は内部で楽譜表記規則を管理しており、全休符をどのように表示するか(特に拍子外の使用)を設定できることが多いです。
よくある誤解と落とし穴
- 「全休符=常に4拍分」ではない:全休符は視覚的には全音符に対応しますが、実務では「その小節全体の休み」を示すために拍子に関わらず使われることがあり、必ずしも"4拍"を意味するとは限りません。
- 複数声部での処理を怠ると混乱が生じる:同一五線で全休符だけを並べてしまうと、実際には他の声部が鳴っている可能性があるため、スコアでは明確な配置と注記が必要です。
- 編曲時の表記統一が重要:複数楽器にまたがる編曲では、休符の表記法(全休符を使うか否か)を揃えないと演奏者が混乱します。
実例と応用的なアドバイス
・オーケストラのピチカート主体の楽節で木管が小節丸ごと休む場合、パート譜では全休符1つで示すことが多い。指揮者がタクトで休符の長さを管理するため、視認性を優先するためです。
・室内楽や合唱においては、拍節感を伝えたい場面では拍ごとに休符を分割して記譜する。特に不規則なアクセントやシンコペーションがある場合は分割が推奨されます。
・教育素材では、学習段階に応じて全休符=1小節の休みとして教えるか、音価通りに厳密に休符を配置するかを選ぶとよいでしょう。
まとめ
全休符は単純に見えて、実務的には多くの運用上の判断が関わる記譜要素です。理論上は全音符に対応する休みですが、現代の楽譜作成・演奏実務では「その小節全体を休むこと」を示すために拍子を問わず用いられることがある、という点を押さえておいてください。楽譜の目的(教育用、演奏用、出版用)や編成(独奏、室内楽、オーケストラ)に応じて、全休符を使うか小分けの休符を使うかを判断するのが最善のアプローチです。


