Yamaha SY77徹底解説:AWM2×AFMで広がる90年代デジタル音響の世界
Yamaha SY77とは
Yamaha SY77は、ヤマハが1990年代初頭に発売したデジタルシンセサイザーです。PCMベースの波形再生技術(AWM2)と、従来のFM方式を拡張したAFM(Advanced FM)を組み合わせたハイブリッド音源として設計され、当時の音響デザインに新しい方向性をもたらしました。61鍵の鍵盤、ベロシティとアフタータッチを備え、演奏とプログラミングの両面で高い実用性を持っていることが特徴です。
歴史的背景と位置付け
1980年代のDXシリーズでFM音源が広まる一方、1988年頃からPCMサンプルやハイブリッド音源の人気が高まりました。SY77はその流れの中で登場し、PCMのリアリズムとFMの柔軟な倍音構成を組み合わせることで、より表現力豊かな音作りを可能にしました。プロダクション用途やライブでの用途を想定した機能を備え、後継機種や他社機種にも影響を与えています。
音源アーキテクチャ(AWM2 と AFM の融合)
SY77の最も重要なポイントは、AWM2(Advanced Wave Memory 2)とAFMという二つの音源エンジンの共存です。
- AWM2(PCMベース): 実際の楽器やシンセ波形をサンプリングした波形を用いることで、ストリングスやピアノなどのリアルな音色を得やすい。
- AFM(拡張FM): 従来のFM音源であるDXシリーズの流れを汲みつつ、エンベロープ、波形選択、フィルタ的処理などのパラメータが拡張され、より音色設計の自由度が高い。
双方はレイヤー(組み合わせ)して1音色を構成でき、AWM2の生っぽさとAFMの金属的/倍音豊かなテクスチャを同時に扱える点がSY77の魅力です。
音作りの要素 — レイヤー、エンベロープ、モジュレーション
SY77では、音色は複数の“エレメント”や“パート”を組み合わせて作られます。各要素に対して個別のエンベロープ、LFO、ピッチやフィルタ的動作を設定でき、さらに両エンジン間でのバランス調整により多彩な表現が可能です。AFM側はオペレーターの波形や比率、エンベロープの細かい制御で金属的・Bell系の音を作り、AWM2側で厚みや実在感を補強する、といった使い方が一般的です。
インターフェースと操作性
SY77は当時のデジタル機器としては比較的親切なユーザーインターフェースを持っており、大型の液晶(テキスト表示)と多くのパラメータを階層的に操作することで深いエディットが可能です。ただし、AWM2とAFM双方のパラメータが深いため、初めて使う際は学習コストがあります。多くのプリセットを読み込み、そこから改造していくワークフローが効率的です。
エフェクトと最終処理
SY77にはリバーブ、コーラス、ディレイ等の内蔵エフェクトが搭載されており、音色ごとにエフェクトを割り当てて音色の完成度を高められます。これらのエフェクトは当時のデジタル技術としては高品質で、音色の空間性・深みを手軽に付加できる点が実戦的です。
SY77のサウンドの特長と活用法
AWM2の温かみとAFMの倍音設計を組み合わせることで、以下のような活用が有効です。
- パッド・テクスチャ: AWM2で基礎的なパッドの厚みを作り、AFMで音の揺らぎや金属的な倍音を付加して複雑なテクスチャを作る。
- リード/ベル系: AFMの鋭いアタックと倍音制御を活かし、AWM2で余韻やフィルター的な温かさを補助する。
- アコースティック模倣: PCM波形を中心にAFMでエンベロープやビブラートを微調整して、より表現豊かな生楽器風サウンドを構築する。
音作りの具体的な手順(初心者向け)
- ベースの選定: まずはAWM2かAFMのどちらを主軸にするか決める。リアルさ優先ならAWM2、倍音構成で個性を出すならAFM。
- エンベロープ調整: アタック/ディケイ/サスティン/リリースで音の立ち上がりと持続感を決める。AFMは特にADSR操作が音色に影響する。
- モジュレーション: LFOでビブラートやトレモロを付加。AWM2とAFMで別々にモジュレーションを設定すると自然さと動きが生まれる。
- FX処理: リバーブやコーラスで空間を付与。プリセットを編集して最終的な空間感を調整する。
他機種との比較
DX7シリーズは純粋なFM音源で、鋭い金属音やベル系に強みがありました。一方、サンプルベースのKorg M1はリアル系音色とワークステーション性で人気でした。SY77はその中間を目指し、FMの表現力とPCMのリアリズムを同時に扱える点で独自性を持ちます。プロダクションでの使い勝手は高く、レイヤーやスプリットを用いた複合サウンドの構築に向いています。
メンテナンスと中古市場での注意点
SY77は30年以上前の機材であるため、中古購入時は鍵盤動作、スライダーやボタンの接触不良、液晶表示の状態、内部電池(メモリー保持用バッテリー)の有無を確認してください。内部電池は寿命があるため交換歴を確認するか、購入後早めに交換することを推奨します。また、外観の劣化や鍵盤の反応に問題がないか、音色プリセットが正しく読み出せるかをチェックしましょう。
実践的な活用例(スタジオ/ライブ)
スタジオでは、複数トラックに渡るパッドやリード、独特のエフェクト感を加えるためのサブ音源として便利です。ライブではプリセットを事前に準備しておくことで、曲ごとに異なるテクスチャを瞬時に切り替えられます。MIDI連携も可能なので、外部シーケンサーやDAWからのコントロールで柔軟に運用できます。
音色の保存と互換性
SY77はプリセットやユーザーパッチを内部メモリーに保存可能ですが、当時のフォーマットは現代のDAWとそのまま互換があるわけではありません。パッチデータのバックアップは可能な方法(MIDI System ExclusiveによるDumpなど)を利用するとよいでしょう。現代環境ではMIDIでの統合管理や、音色設定のCSV化・テキスト管理などと併用すると保守が楽になります。
クリエイティブな活用アイデア
- AWM2の波形をレイヤーの底音として使い、AFMで表面の細かな揺れを付けることで独特のアンビエントパッドを作る。
- 短いAFMプリセットを複数トリガーして、サンプル感とFMの粒立ちを組み合わせたリズミカルなテクスチャを構築する。
- 外部エフェクト(ペダルやラックEQS、アナログモジュレーション)と組み合わせて、SY77のデジタル質感にアナログの変化を加える。
まとめ
Yamaha SY77は、AWM2とAFMという2つの音源方式を組み合わせることで、90年代の音楽制作に新しい可能性を提供した機種です。学習コストはあるものの、作り込めば現代的にも通用するテクスチャと独自のキャラクターを引き出せます。中古市場での入手も可能で、音作りの腕を磨きたいクリエイターにとって魅力的な選択肢です。
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参考文献
- Yamaha SY77 - Wikipedia
- Sound On Sound: Yamaha SY77 Review
- Vintage Synth Explorer: Yamaha SY77
- Yamaha SY77 Owner's Manual(例: マニュアルライブラリ)
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